三巻 おうぎを舞いし染の運命編

おうぎを舞いし染の運命 一




 朧月夜錦秋おぼろづきよきんしゅう

 現『扇晶国』国王。黄葉と灰の二色の扇形に髪の毛と髭を整え、筋肉隆々の体格が自慢の朱希よりも一回りも二回りも大きな筋骨隆々の肉体を維持し続ける、おちゃらけた性格と言葉遣いである五十歳の男性である。


 零の区画、『扇晶城』の『一の会(いちのえ)』にて。


 『おうぎまい』を天守にて執り行う事に決めた。

 段差がない畳張りの部屋に紅凪こうし青嵐せいらんが国扇を自分の前に置いては、二人並んで正座になり、少し離れた処で胡坐を掻く実の父親である錦秋を直視した。

 召集を受けたのは王子である自分たち二人だけ。さぞかし極秘裏の話をされると思っていた紅凪と青嵐は、果たして確かに最重要事項だけれど、二人のみを招集する錦秋の意図が掴めなかった。




 『扇の舞』。

 加護の力を強め、災厄を追い祓う神事であり、『扇晶国』そして『扇晶城』の中央に位置する天守にて、『扇晶国』国王と『雪芒』の頭首、『扇晶国』の国王が選んだ者が、二人一組で白扇を用いて舞い踊る。




「不穏な空気が国に満ち満ちている。わしと雪晶ゆきあき、そして王子である貴様たち、雪晶の養子である天紅氷月あまがべにひづき、官吏に調査した結果、舞を踊ってほしい官吏一番人気の漣紗世さざなみさよ。この六人で『扇の舞』を行う事を決めた。異論は受け付けないよ~ん」


朱希あきが荒れるな。何で俺が選ばれないんだって。紗世と二人一組で舞い踊るのは俺しかいないって。あ~~~。めんどうくせえ~~~)


 駄々を捏ねまくる朱希の姿が鮮明に思い浮かぶ事ができたばかりか、朱希が頭の中で暴れ出した紅凪は、次には、誰と誰が二人一組になるのだろうと考え始めた。


(やっぱり、親父と雪晶殿、俺と兄貴、氷月と紗世が妥当だろう。か。いや。兄貴と氷月が婚約者。一応。婚約者だから、兄貴と氷月、俺と紗世。か。ああ。朱希がさらに頭の中で暴れ始めた。あ~~~、うるせえ~~~)


「国王様。組み合わせはもう考えているのですか?」


 青嵐が尋ねると、錦秋はうんと言った。


「固定しない。全員が全員と二人一組になる」


 無茶難題を押し付けるな。紅凪と青嵐はその腹立ちを心中だけで言ったつもりだったが、違ったらしい。無茶難題じゃないもん。錦秋が言った。


「わしたちならできるって信じてる」


 キラキラキラキラ。

 流星が飛び交っているような純粋無垢の瞳を向けられた紅凪と青嵐は、果たして篭絡されはしなかった。


「「いえ。無理です。固定して下さい」」

「え~~~。まったく。軟弱な息子たちだ。あ~~~あ。壮観だっただろうなあ。入れ替わり立ち替わりの二人一組。より華やかに、より大きく、より力も増すってもんだろうに」

「「いいえ。無理です。固定して下さい」」

「はあ~~~。はいはい。分っかりましたあ。じゃあ。籤にしよう」


(神聖な舞の組み合わせを籤で決めるのかこのおちゃらけ親父?)

(まあ、籤にも神が含まれていると考えられるからいい考えだと言えば、いい考えだろうけど)


 目と目で会話をした紅凪と青嵐。鼻唄を奏でながら籤を作り始めた錦秋を冷めた目で見つめては、この国大丈夫かなと常日頃から抱いている疑問を増幅させたのであった。












(2024.10.29)



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