3-2
「いよいよですね」
コンビニの裏に植えてある桜がチラホラ咲きはじめた。この木は山桜なのでソメイヨシノよりも少し早く咲きはじめる。
「やっとカスミの歌がきける」
「エミさんはカスミの歌きいたことがなかったんですか」
「そうなの」
「どうしてなんだろうね。あたしが歌ってって言っても歌ってくれないの」
「子どもたちも楽しみにしてるみたい」そう言ってエミが微笑む。
「サキ、カスミお姉ちゃんの歌ききに行くの」
そう言ってサキがヒロにからみついてくる。
「サキはカスミお姉ちゃん好き」
「好きだよ。でもヒロ兄ちゃんのほうがもっと好き」
サキがそう言うとケンタは少し恥ずかしそうな仕草をする。
「そうか」ヒロはそんなサキを見ながら遠い昔を思いだしている。
サトミ先生はどうしているのだろう。幼稚園の担任だった先生の顔を思い出そうとしたけれど、思いだせなかった。
「ねえ、これから外に出てくるけれど」
「飲みに行くなら、ギターはいらないんじゃない」
ギターケースを背負っているカスミを見てヒロがそう言った。
「歌ってみようと思って」
「歩道橋に歌えそうな場所があったから」
たしかに駅前の歩道橋は広場のようになっている。やっぱりカスミも納得していなかったのかな。
「思いっきり歌ってこようと思って」
桜は満開でも、夜になるとかなり寒く感じられる。カスミは歩道橋を歩いている人のジャマにならないような場所を選んで、ギターケースを置いた。近くの人が溜まっている場所は喫煙所らしい。ほろ酔いの人が何人か塊になって歩いていく。
カスミはストラップを肩にかけてチューニングをはじめる。誰もカスミのことは気にかけていない様子だった。
「少し遠くで見てて」
カスミはそう言うと大きく深呼吸をした。ヒロはカスミから離れていく。カスミがギターをかき鳴らす音が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます