第39話 勝利宣告
ただ、反射的に防御していたのか、直撃は免れたらしい。
「……痛っ。そんなん言われてもウチには拾ったそぶりすら見えへんかったで?」
ランマルの体力は残り二割強。
次にまともに食らえば、恐らく死ぬ。
それでも、ランマルはスワローテイルとの戦闘を諦めるつもりはないらしい。
「極力バレないように拾ったつもりだったんですけど、やっぱりミラはVRゲームに対する感覚が鋭いですね。他のゲームをやってもプロとしてやっていけるんじゃないですか?」
相手が持っている物の厳密な大きさや、形状は分からないが、ある程度の長さは分かる。
接近して振り下ろした刀に透明な圧力が加わっている。
この重さ、そして、片手で使っていることを考えれば……。
「見えないこと以外は普通の片手剣、って感じだな」
「ヒュウ、ご名答! 他にも幾つか刺しているんだけど、一番近かったのがコレだからね」
ランマルの攻撃をもう片方の手甲で弾く。
「見えないから隠してない、隠し玉じゃないってわけね。開き直りも甚だしいわ」
「でも、見えないこと以外の性能は、ちょっとお値段高めの片手剣ぐらいだよ。火力までチート級にするほど大人げないわけじゃないから安心してね。最初から出すとミラちゃんに気付かれると思ったから、フィールドに武器が増え始めてから準備したんだよ。木を隠すなら森、ってやつ」
ランマルも見えない剣と格闘しつつ、
「素手で戦う前はずっと片手剣使ってたもんなぁ……。それ以外の武器を拾っても、お得意のディープラーニングでプロ級の技を繰り出せるってわけやろ? 決め手に欠けるウチらに対して、新兵器でアドを取ろうって発想まではええと思うよ。ウチらも対処すればええだけやし」
「対処されたらこのバトルが終わらないじゃないですか。それとも、終わりのない戦いがお好み?」
その質問で、ランマルの表情が剣呑なものになった。
「冗談抜かすな、アホ。アンタの考えは奇妙に捻じ曲がってるけど、ウチなら全部お見通しや」
蹴りを躱し、見えない剣と鍔迫り合いをしながらランマルが叫ぶ。
「ちゃんと終わらせようとしてるのはそっちやろ? そんな意図が無かったら、こんな手間の掛かるイベントなんて始めへん。ウチらをもう一度見送るように見せかけて、その実、一番見送って欲しいと思ってるのがアンタや、スワローテイル!」
「なっ……」
驚いたように目を見開きつつも、機械的な攻撃は止まらない。
「んで、勝算もないのにノコノコ此処に来るほどウチらもアホやない。少なくとも、最終的に攻略を決断したミラちゃんが無策で来るわけあらへん、ってウチは思っとるわけや」
力強く相手の攻撃を打ち払いながら断言したランマルに対して、スワローテイルが苦笑する。
「それ、ランマルは無策で来たってことだよね? 相変わらずだなぁ。昔から、変な作戦立てたり、嫌われ者になったり、妙な正義を貫こうとしたりしていた私たちをずっと信頼してくれてたんだから」
そんな信頼感を寄せてくれるランマルを裏切るわけにはいかない。
しかし恐らく、地頭のいいランマルが無策ということもないだろう。
「ミラ、ウチらがどういう戦い方をしてきたか、覚えとる?」
ランマルがこちらを見ることもなく尋ねる。
ふと、一時間ほど前に戦った《ゆうとぴあ》の連中の最期が脳裏をよぎった。
「ああ」
多くのプレイヤーを救うために、少数のプレイヤーを犠牲にする。
それが、俺たちのやり方だった。
「今でも、やれるな?」
イベントクリアを望む無数のプレイヤーと、一人の敵、一人の仲間。
そして、シビアな体力。
言わんとしていることは全て理解できた。
「……あぁ」
「じゃあやるで。最期のバックアップよろしく」
スワローテイルがプレゼント箱を前にした子どものように目を輝かせた。
「へぇ、どういう戦略なのか気になりますね」
「すぐ身に染みて理解できるはずやで。そんなに時間は掛からへん」
再び二対一の戦いが始まる。
さっきまでと違う点は、俺とランマルが近い距離で動いている点だ。
互いの呼吸を読みながら、仕掛けるタイミングを探る。
ランマルが意図的に一歩踏み出し、俺が合わせるように半歩下がることによって、スワローテイルと一対一になる状況を生み出した。
「せっかくの人数差を捨ててもいいの? この距離、この角度じゃあ、ミラの攻撃は何も届かないよ?」
「ええ加減、決着付けなアカンと思ってな!」
打ち合いが加速する。
その最中に挟まれる《神の見えざる手》のどれも俺が動くべき時を示す合図ではなかった。
だが、速さと手数の勝負になれば、手足も使えて敏捷値も高いスワローテイルに分があるのも事実。
徐々に押し込まれている。
にもかかわらず、ランマルは余裕そうに宣告した。
「ええか? 今から一発叩きこんで、もうちょいした後にもう一発ぶち込んでこの試合は終わりや。ミラには悪いけどウチが試合を決める。予告やで」
「構わん。俺に出来ることはコイツを確実に殺すチャンスを作ることであって、トドメは別のやつに譲らなきゃ打開できないと考えていたところだ」
「ホンマはそのチャンスを作れると断言するミラの方が評価されるべきなんやけど、ここは譲ってあげへん」
俺とランマルは一定のビジョンを共有できたようだが、スワローテイルは一笑に付しただけだった。
「私の推測では、それは無理ですね」
「やろ? でも、ウチらの戦略が成功する様子をアンタの頭ん中で描かれたら困るねん!」
叫びながら叩き込んだ一撃が不可視の剣を大きく弾く。
しかし、まだ相手には手足による攻撃が残っていて、ランマルには避ける手立てがない。
なら、俺が動くべき時は今だ。
構えていた刀でランマルの胴を一薙ぎし、返す刀で空振りに終わってしまったスワローテイルの左手を飛ばす。
「そ、それは見えなかった。まさかランマルを犠牲にしながら私にダメージを与えるとはね……。でも、まだ私の体力は残っている! フィールドにはNPCになったランマルが出てきて……って、もしかしてアレ、私の命令に反逆して殺しにくるとかないですよね?」
返答する前に自分の体力を確認する。
先ほどから変わりないため、俺がランマルを倒しても残機が増えるような仕様ではなかったようだ。
戦闘前に言っていた挑戦権云々は観客席にしか適応されないようだった。
まあ、スワローテイルの残機が増えるような最悪の状況を避けられたので良しとする。
とにもかくにも、これがランマルの予告した一撃目。
問題は、二撃目をどうするつもりなのか、俺とランマルの意思疎通が取れていないことだ。
アイツなら上手くやるはずだが……。
こちらのプランが不完全であることを相手に悟られないように、いつもの調子で対話を続ける。
「NPCにどういう調整をしているのか分からないから、何とも言えないな」
さて、敵としてのランマルは……と、戦いの中でチラッと確認する。
今までの特殊演出を踏襲して黒い炎が上がっている出現場所には、戦果を狙うための観客の武器がドカドカと投げ込まれていた。
元のプレイヤーがどれだけ有能であったとしても、丸腰で出現したところを全方位から狙われればさすがにどうしようもなさそうだった。
それでも拾った武器で幾つかの流れ弾を弾いていたので末恐ろしい。
見覚えのあるクナイや楽器、見慣れたバスタードソードやフランベルジュ、そしてトドメとばかりにランマル愛用の片手剣が突き刺さり、五秒のカウントを置いて武器の山が光を放った。
その光を切り裂くようにして、一人のプレイヤーが戦場に躍り出る。
「ランマルさんには悪いけど、このイベントをクリアするのは私よ!」
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