第37話 武器の暴風雨
頭上を覆っているアレ全部、誰かが上空目掛けて運試しのように投げた武器らしい。
律儀に従うとは……いや、スキルによる補正がないため、そのまま投げても運任せになるだけだから、どうせなら上に投げた方がまだ当たりそう、と考えた可能性もある。
しかし、頭上だけを見ていてもダメだ。
あちこちからド直球をぶち込んでくる輩もいる。
投擲スキルを使って投げてくれれば軌道が分かりやすいのだが、スワローテイルの策略により、観客サイドは投擲スキルが完全に封じられているため、逆に避け難くなっている。
……えげつないスピードで投げ込まれ続けるよりはマシか。
スワローテイルを倒さなければならないが、観客席からの横やりが少し落ち着くまでは普通の勝負なんて出来ないだろう。
「ミラ、ランマル、助けて~!」
「助けて~、じゃねぇよ! こっち来るな!」
相手が、現実世界で再現したら世界記録が獲れそうなスピードで走って来る。
だが、このレベルのスピードはステータスさえあれば俺にも出せるので、一気に逃げる。
「ミラと追いかけっこ頑張ってや~。ウチは全然違う方向で休むから」
ランマルが完全にスワローテイルを擦り付けてきた。
俺はその辺に刺さった剣を拾って飛んでくる武器を打ち払いながら、
「待て、スワローテイル。お前も大概狙われているが……俺もアンチから割と狙われているからこっちに来ても苦しさが増すだけだぞ!」
「色んなものをシェアする時代だから良いの! 病める時も健やかなる時も、死が二人を分け隔てても……ていうか今からランマルの方に行こうとしても遠いから厳しい!」
スワローテイルが近付いて来るごとに、投げ込まれてくる武器の数が如実に増えていく。
「ふざけんなマジで、こっち来るなって! 体感だけでも、投げ込まれる武器の量の増加を感じるんだから!」
完全に俺の苦情を無視しながら観客席に向かって叫ぶスワローテイル。
「あっ、盾くれた人ありがとう!」
「どこに落ちてたんだ、それ!」
「こっちまで来たらミラにあげてもいいよ」
「絶対行きたくねぇ!」
そうこう言っている間に、開幕でド派手に打ち上げられた武器たちがようやく落ちて来る。
俺は近くにあった武器を手当たり次第に柱に投げ、それを足場にして、さらにナイフを両手に持って壁を登り始めた。
開幕に壁目掛けて投げるやつなんてほとんどいないはずだから、こっちの方が安全だろう。
観客席からかなり近いため、一部の観客が投げて来る可能性もあるが、角度的には中々当てにくい場所だと思われる。
「うわーん! ゲリラ豪雨とかいうレベルじゃないよー!」
振り返ると、盾を傘代わりにしてどうにか凌いでいるスワローテイルが見えた。
更に遠くにいたランマルは、地面に落ちている武器を自分の頭上に来るものに当てる行為を繰り返して見えない傘のような安全地帯を創り出していた。
フィールド側は地獄の針山もかくや、という状況になっていたが、壁際には予想通りあまり飛んで来ない。
ゲリラ豪雨が短時間で晴れるのと同じように、武器の雨もすぐに止むと思っていたが甘かった。
いつもは仮想の青空が見える闘技場なのに、暗雲が未だに立ち込めている。
「おいおい、アレ全部武器かよ……冗談じゃねぇ」
「どんだけ続くねん!」
武器の下から、割と元気そうなスワローテイルの声が聞こえて来る
「今既に十万本刺さっているんだって! まだ刺さってないやつ入れたら十五万来るかな? 長引けばもっと増えるだろうね」
数を聞いたランマルが、飛んでくる武器を打ち払いながらキレる。
「絶対観客席に収まっている人の数と釣り合ってないやんけ!」
「ネットだから許して……見えてるものが事実とは限らないの。ほら、普段も街に一杯人がいるけど、ハードのスペックとか人間の情報処理能力とかゲームの快適さを保つために見える人を絞ってるでしょ? それと同じィ……死ぬゥ!」
俺もその数字に反応してしまう。
「はぁ? 特に告知したわけでもないのにそれだけの人間がわざわざこの会場まで武器投げ込みに来てんのかよ! 武器投げる代わりに銭投げろ!」
「おお、ミラも配信業が板について来たね。私もサーバーの維持費とか欲しい! 五千兆円!」
やり取りを交わしているうちに、比較的安全と思われていた壁にも多くの武器がドカドカ投げ込まれて来る。
その武器を避けたり足場にしたり、スワローテイルがいそうな場所に打ち返したりしながら耐え忍ぶ。
「何か勢いが明らかに違うものがたまに降って来るけど、絶対ミラがこっち目掛けて打ち返しているやつでしょ! もう完全に武器の海に溺れて見えないけど、感覚的に分かる!」
スワローテイルが立っている辺り一帯は、一番投げ込みやすそうであり、一番危険そうな場所だったのに、既に刺さった武器が後から来る武器を弾いているため、逆に安全地帯と化したようだ。
相変わらず悲鳴だけは聞こえて来るが、大きなダメージを受けている気配はない。
フィールドの大部分が武器で埋まると、ようやく明るい空が見えてきた。
墓標のように突き刺さった武器の中からスワローテイルが這い上がってくる。
ゾンビかよ。
武器の山をかき分けて出て来たスワローテイルが何本も武器を手に持って叫んだ。
「ミラ、私たちフィールド側のキャラは投擲スキルが封じられていないことをお忘れなく!」
ヒュンヒュンと剣が俺目掛けて飛んでくる。最初の数本を気合いで避けると足場が増えるので避けやすくなる。
剣をイキイキと投げていたスワローテイル目掛けて、アホみたいな速さで剣が向かっていく。
背中に背負っていた盾のおかげで直撃は免れていたが、衝撃で吹っ飛び、武器の海を転がっていく。
「そもそもが二対一ってことを忘れんといてや!」
かなり遠くからランマルが声を張り上げて手を振っていた。
眺めている間にも武器が投げ込まれてくるのでチマチマ避ける。
その中で、聞きなれた声が届いた。
「ミラ先生ちーっす」
「よう、楽しそうだな」
声の方向を見ると、ハッシュとヴォルフが獲物を構えている姿が見えた。
その隣にはキラが仏頂面で座っている。
「やめとけ。今投げても無駄撃ちに終わるぞ」
ヴォルフが肩を竦めた。
「だろうな。もう少し機会を窺うことにする」
「機会があったとしても当たる気しないんすよね~」
「そこを当てるのが俺らプロの仕事だろうが!」
口論を始めた二人の横で、腕を組んだままキラが尋ねてきた。
「私たちに出来ることって何かないの?」
「は? 武器投げれるだろ」
「そういうシステム的な話じゃなくて、もっと具体的に」
「いや、俺らの誰かが弱ったら武器投げれるだろ。そんだけ。いつがそのチャンスなのかは、その時が来たら分かる」
「ミラの予感だと、来るのね。じゃあ、待つわ」
キラがポツリと呟いて、横の二人が笑った。
「そういうわけだ。見てろ」
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