第104話
「は、放て!」
サロメの号令は先程の自信と敵意に満ちたものではなく、完全にサトルに対しての恐れと怯えに変わっていた。
降り注ぐ矢の雨にサトルは展開したグングニールをぶつける。王都の空に再び大きな爆発が広がった。
「抜剣(ばっけん)!」
サロメは城門前の兵たちの後ろに隠れるように後退しつつ叫んだ。兵たちは弓を捨て、腰に携えた剣を引き抜き構えた。
その光景を見たサトルは走る速度を上げて城門に近づく。
兵士は数十人程度、ヒロイックスレイヤーに宿るアラダインの剣技であれば問題なく突破できる戦力である。そして城門に近づくにつれ、サトルは気が付く。多くの兵士たちの構える剣先が震えていることに……
おそらく彼らの多くは寄せ集めの新兵なのだろう。先の大戦にメロべキアが内包する戦力のほとんどを投入したのだ。
メロべキアに攻め入る国がない現状、王都の守りは最低限でもかまわない。
メロベキア最後の砦が志も矜持も持たぬ新兵、それを盾にしようとしている裏切り者。
サトルは更に強く石畳を蹴り、前進する。アラダインの力を顕現させ、勇者殺しを振るい、戦闘への意欲も感じない新兵たちをなぎ倒した。
そして、背中を見せて王城へと駆けるサロメにたいして、グングニールを一本だけ展開して、射出する。
サロメには直接あてるのではなく。近くで爆発させるように狙ったそれはサトルの思惑通りの結果をもたらした。
爆発の衝撃によって飛ばされたサロメはサトルの前に転がった。命に別状はないが、左脚は完全に曲りはしない方向へと向いている。
「ひった、助けて! 痛い! 死んでしまう!」
サトルを見上げたサロメはなんの躊躇いもなく、一切の逡巡もなく、命乞いをした。
国民を人質に取るような卑劣な男が、そんなことは忘れたと言わんばかりに助けを乞うてくる。
「俺は、お前の命を奪わない。だが、俺はお前を助けない」
痛みに歪んだ顏を涙が濡らしたサロメの横をサトルはゆっくりとすり抜ける。
サトルは二本の剣を持ってメロベキア城を見上げた。
「マリー、ニーア……行こう」
その言葉にマリー、そして少し遅れてニーアがサトルの横に並んだ。ニーアの心情はわからないあ。しかし、サトルは彼女が今更サロメにたいして何かをするとは思ってはいなかった。
としても、サトルはサロメが助かるとも思ってはいない。
彼の敵はもうサトル達一行だけではないのだから……
「お前ら良い所に来た。助けろ! 俺を助けたら王から恩赦が支払われるぞ!」
サトルは振り向かない。きっとサロメには死ぬよりも苦しいことが待ち受けているからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます