第55話
「ハルツェンブッシュ卿……私達イントルーダーとしてもおしい人をなくしたと思うわ」
「そうなのですか?」
「えぇ。イントルーダーの目的はあくまで侵略行為を企む王族の排除。その王族なきあと、メロベキアを率いるべき人物が必要になるわ。その第一候補としてハルツェンブッシュ卿の名があったのよ。貴方のお父様は敵国からも称賛される素晴らしい騎士だったわ」
「そうですか……」
ニーアにそう言われたマリーは今までに見たことのない笑顔を向け、すぐに俯いた。
「すみません……」
俯いた彼女の顔を知ることはできないが、彼女の足元の地面を黒く濡らす雫がマリーがどんな表情を浮かべているかを想起させた。
その後、三人は何を話すわけではなく、サロメの帰りを待った。
「戻りました」
数分程度後、分け入った林からサロメが現れる。
「どうだった?」
「はい、リーダーの言う通り大した見張りはいないようですね。伏兵が控えているわけでもありませんでした。ただ観光らしき貴族が数人」
「まぁ予想通りで何よりだわ。じゃあサロメがここに残って見張りをお願い。すぐに出せるようにしておいてね。それとアレをお願い」
「了解です」
ニーアにはとても従順なサロメは彼女に言われるまま荷馬車の中へと入って行った。
「観光客がいるのか?」
「そりゃ勇者が残した有名な剣だもの。そう言った目的の人間もいるわ。まぁ今回の任務には少々の観光客がいてくれた方が楽ね」
「観光客に紛れて聖剣に近付く算段と言うことだな」
「その通り。いい? 私達は旅の一行よ」
その時、馬車か茶色のローブをもって出てくる。それをニーアとマリーへ手渡し、サトルには投げてよこした。
「さすがに長物は持っていけないからマリーにはこれを」
ニーアに懐からナイフを取り出し、マリーに渡す。いつぞや見た彼女の武装である。
「これを使わないように遂行できるのが理想だけど……まぁ何があるかわからないからね。護身用程度に持っておいて」
マリーはそのナイフをローブの中に隠し、サトルはローブの上から、かつてハルツェンブッシュ卿が鍛錬として使用した剣の感触を確かめた。
安置されている聖剣を奪取し、逃走するだけ。何でもない任務だとニーアは言うが、やはり緊張はある。果たしてその聖剣を自分が手にできるかという不安もある。
「それじゃぁ行くわよ」
サトルは自分の中の不安をかき消すように、ギュッと拳を作った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます