第45話
「それにしても、少しは男の子になったじゃないサトル」
少し茶化すように言うニーアにサトルは動揺を覚える。先程までの彼女の突き刺さる視線とは大きなギャップがあったからだ。
先程までは非情な暗殺者の顔だったのに、今は年相応な女性の無邪気さがある。
「あ、いやありがとう」
「別に気にすることじゃないわ。……と言っても私もお人好しじゃないからね。さっきも言ったけど、変な事をしたら殺す。それと没落村の事は知ってるし、貴族たちが理不尽にここへ落とされこともね」
「私がメロベキアの利になるようなことはしない。ニーアさんはそう考えているの?」
「ええ、あとはこんな得体の知れない人間の傍につくようなお人好しだからよ」
得体の知れない人間とはサトルの事だろう。
没落村で周りの人間も信じられないような人間ばかりの中、マリーはサトルを救ってくれた。
「さ、こんな所でのんびりしてる時間はないわ。異変に気付いて王国騎士が出張って来たらこちらも分が悪い。あっちに馬車が用意してあるから行きましょう」
サトルとマリーはニーアの言葉にしたがい、黒のローブの集団と共に村外れを目指す。
途中後ろを振り向くも、追っ手があるようには思えない。
馬車へは何事もなく辿り着くことができた。ニーア達がすでに排除しているためだろう。
馬車は何の変哲もない荷馬車だ。勿論サトルが現実で目にするのは初めてではある。
黒ローブの内二人がその特徴的なローブを脱ぎ去り、騎手の席に乗る。
服装はまさしく平民、農民と言ったような出で立ちである。
ニーアと残り二人の黒ローブ、それにサトルとマリーは荷台部分に乗り込んだ。皆が乗り込んだのち、馬車はゆっくりと動き出した。
「ふぅー取りあえずこれで大丈夫かな」
「それで一体どこに向かっているんだ?」
没落村を出ることが最優先で、最終目的地までは聞いていなかったサトルがニーアに尋ねる。
「サラニア共和国」
その名称を聞いてサトルの心の中にざわつく何かがある。
正体は分からないが、どちらかと言うと嫌悪感に似ている。
「言ってもサトルにはわからないわよね」
「あ、いや……うっすらとだが……なんと言うか嫌な響きだ」
「……? 召喚時の洗脳のせいかしら。まぁ無理はないわよねサラニアはメロベキアの敵対国だから」
「もしかして、俺がもっと使える勇者だったらその国相手に戦争させられていたのか?」
「そうね。大方そんな事だろうと思うわ」
メロベキアの敵対国、それはつまり。
「ニーアの祖国なのか?」
「……ちょっと違うわ」
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