第33話


 外から聞こえてきた足音は恐らく、馬であろう。かなり近くまで来ているようだ。


「おい、ここらで怪しい男を見なかったか?」

「それはどのような?」


 横柄な男の声が聞こえ、それに答えるマリー。


「黒い異国の服を着た男だ」


 黒い異国の服……間違いない。サトルの事である。

 サトルを探しに国王が放った刺客なのだろうか。


「いえ……そのような方は存じません」

「そうか。雨の朝、川に流されたとの話だ。もしも見つけたらすぐさま報告をしろ。幾ばくかの褒美を与えよう」

「はい、承知いたしました」


 短い会話を終え、今度は規則正しい足音が遠のいていく。


「もう大丈夫よ」

「あ、ああ。ありがとう」


 マリーの合図でベッドの下から這い出すサトル。


「まるで貴方がまだ生きているのが分かっているような口ぶりだったけど……」

「ああ……そうだな。それには俺に心当たりがある」


 召喚された勇者が死なない限り、次の勇者は召喚できない。これはニーアが教えてくれたことだ。それをマリーに説明した。

 

「節操がないわね」

「全くだな……」


 勇者と言うものを侵略の道具としか思っていない。役立たずが来たらすぐさま廃棄し、次へ……か。


「見つかったら、殺されるのか……」

「良くて城まで連れ戻されてから処刑ね」


 どう転んでもただ死が待っている。一時は凌げたものの、次の勇者召喚が行えないとなれば、国王はどんな手を使ってでもサトルを見つけ出そうとするだろう。


「ささ! こちらです騎士様!」


 家の中で神妙な顔突き合わせる二人に聞き覚えのある声が響く。ホランドだ。

 どうやらサトルを探していた連中に情報提供したらしい。


「クソ……」


 悪態をつくものの、決してホランドが悪いわけではない。村に迷い込んだ不審な人間を差し出せば褒賞がもらえるのだ。誰だってそうする。わざわざサトルを庇いだてする意味はない。


 あくまで悪いのはメロベキアの国王なのだ。


「サトル……私が話をしてくるわ。貴方はここで隠れていなさい」

「ちょっとま――」


 そう言うやいなや、マリーはサトルが制止する間も無く家から出ていった。


「隠れろと言われてもな……」


 先ほどの状況ならば、簡単に見られる程度なら誤魔化せただろうがホランドの証言で家の中を検めるだろう。そうなればアウトだ。


「娘!大人しく男をださぬか!」


 外から男の怒号が聞こえる。どんな説得をしたかはわからないが、失敗に終わったのは明白だ。

 サトルは家の中を見渡し、何か使えるものはないかと――

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