第28話
「えっと……それは災難だったね」
マリーの言葉はまさしく掛ける言葉が見つからない中で絞り出したもののように感じた。
「そ、そう言えばここはどんな場所なんだ?」
重苦しい小さな沈黙が耐え切れなかったサトルは真っ先に浮かんだ疑問を彼女にぶつけ、すぐさま後悔した。
軽く聞いていいようなことでもない上に、マリーの表情が明らかに変わったからである。
サトルに対しての王国の横暴にも怒りを露わにしていたが、今彼女が浮かべているのは達観したような怒りの表情であった。
自分の中に渦巻く激情の矛をどこに向けていいのかわからない。
そう言った様子だ。
「名前の通り……没落した貴族が住む場所。いいえ、追いやられる場所よ。鉄の格子も頑丈な石壁もないけど、ここは牢獄。処刑場であり、見せしめの場でもあるわ」
マリーの身体が強張るのが分かる。それは彼女の中に渦巻く怒りのせいなのだろう。
「失態や犯罪行為で貴族が追放される村。それが、私がまだ王国で居た頃に聞いた話。
勿論、そう言う側面もあるけど、殆どは国に、国王に都合の悪い貴族を追い出して見せしめにする場所よ。
余計なことをやれば、次はお前達だ。ってね」
サトルのいた世界にも村八分なる古めかしい似た風習があったことを思い出した。いや、もしかすると知らぬところで今だに行われている可能性もあるが……
それにしても彼女の言い方にはトゲトゲしさがある。メロベキア王国に対して不満しかないと言った雰囲気だ。
昨日遭遇した貴族はいかにも三流で何かやらかしそうな輩であったが、マリーからこんなあばら家にいても貴族の空気感を纏っている。
「言いたくないのならばいいんだが……マリーの家は何をしたんだ?」
だからこそサトルは興味が湧いた。
不躾が過ぎる質問であることは重々承知でありながら、興味が勝った。
「……何も」
マリーはサトルから視線をそらし、暗闇が広がる外をぼんやり見ながらそう言った。
「少なくても、私は……私とお父様、それにお母様はそう思っているわ。私のお父様はメロベキアの騎士団長だった。部下からも、国民からも慕われる素晴らしい騎士だったわ」
視線を戻し、サトルと目を合わせるマリー。
表情は変わらない。しかし、目に父を思う誇りが宿っているように思う。
「もう何年も前……隣国との戦争の時よ。戦況は大詰め。メロベキア王指示の元行われた作戦で勝利を持ち帰るはずだった。その作戦に隊長に任命されたのが私の父」
しかし、窮鼠猫を噛むと言う言葉がある。相手国の捨身な奇襲作戦によって部隊は大きく混乱。
決して勝てない戦いではないが、マリーの父親は被害を広げないため、一度撤退して体勢を整える様に指示をしたそうだ。
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