第24話
「うっ……」
頭が痛い、背中が痛い、足が、腕が……全身が痛みと怠さに支配されている。
朦朧とした中、サトルの視界に入ったのはなんだか懐かしさを思わせる知らぬ天井であった。
霞む目を擦ろうにも手が重くて言うことを聞かない。
「こんなのインフル以来だな……」
自分でもびっくりするくらいのガラガラの声が身体中に響いた。
自分はどうなってしまったのだろうか。確か……ニーアと共に王国から逃げようとして、船が壊れて……
「夢……?」
異世界に召喚されて、戦わされて、投獄されて……そんな荒唐無稽で楽しさも何もない悪夢。ただただリアルな白昼夢。
きっと体調のせいでそんな夢を見たんだ。
きっと季節外れのインフルエンザにかかって……きっと田んぼと山しかない田舎のばぁちゃん家で寝かされているのだ。
あぁ、だから天井を見て懐かしさを感じたに違いない。
身体はひどく痛むし、怠いし、最悪だけど……あんな悪夢と比べればまだましだと、サトルは思った。
「お目覚めになられたのですか?」
聞き慣れない声がした。若い女性の声だ。透き通っていて芯がしっかりとある美しい声だと思った。言葉使いから上品さを感じさせる。
「えっと……」
「無理はなさらないでください」
声の主を確かめるため、無理に起き上がろうとするサトルを制す女性の声は、優しいにも関わらず有無を言わせない様子であった。
「熱が酷いですね……目立った怪我はありませんが、しばらくは安静にしてくださいね」
そう言ってサトルの額に触れた手はひんやりと冷たく、そして気持ちが良かった。
ぼんやりとした視界に映ったのは金色の髪。
「こ、ここは……」
「ここは没落村。メロベキア王国の元貴族達が住む小さな村です」
メロベキア……あの出来事は夢ではなかった。全部……全部本当のこと、現実であった。
この全身の痛みは病気なんかではない。増水した川に流された際に色々と打ち付けられたのだ。
今こうして生きていることを喜ぶべきだろうか、それとも呪うべきだろうか。
頭の痛みがひどくなる。
面倒くさい。今はやめておこう。
サトルは霞む視界を暗闇で閉ざし、考える事をやめた。
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