第26話 消滅
「な、なんだ!? 地震か?」
ジョーはすぐさまアルバトロスに確認した。
「ジ、ジシン? 何だそれは? こ、こんなことは初めてだ!」
アルバトロスは、狼狽の色を全く隠さなかった。
「キャー! どうしたの、なんなのよこれ? 地面が揺れている。立っていられないわ!」
リンダは、ハルトを懐に抱き抱えながら地面に座り込んだ。ほかのレベル5もみな反応は同じだった。
(もしかして、彼らは地震を知らないのか? っていうかそもそもTWで地震を起こす必要もないか。じゃこれは一体!?)
ジョーはブレスレットにむかって大声で叫んだ。
「スエズリー! 聞こえるか?」
「ジョーさん! 大丈夫ですか!?」
「いや、こっちはものすごい地震だ!」
「それは緊急プログラムのせいです!!」
「緊急プログラム?」
「TWのシステムは、オーバーロードによるシステムダウンを未然に防ぐために、ある一定のメモリーを越えたとき、一部のTWを強制的に削除するようになっているのです。でも、なぜか今回は何の警告もなく突然発動しています。とにかく、今すぐそのTWを出て下さい! そのTWも削除の対象となっています!」
「ばかな! 今ここには、やっと見つけた八人のレベル5がいるんだぜ!」
「何ですって? ジョーさんのALたちが同じTWにいるのですか? 原因はそれかもしれません!」
「どういうことだ?」
「ありえないのですよ! 同一人物に由来する複数のALが同じTWに存在するというのは。私たちの世界と同じように、各ALは、それぞれのTWにおける唯一無二の固有の存在として設定されているからです。でもなんらかのエラーが偶発的に生じることもあり得ます。そのため、たとえ二人のALが同じTWに存在しても、互いがその存在を認識できないようにブロックがかけられています」
「ブロック!? そうか、だから彼らはお互いの姿が見えなかったのか」
「もしなんらかの方法でそのブロックが取り外されて、お互いを認識できるようになってしまった場合、プログラム上では決してあり得ない、まったく想定外の状況が発生することになるので、大幅なメモリー増が生じます」
「俺がALたちをここに集めたからか。スエズリー、どうすればいい!?」
「だめです、もう手遅れです! 少なくともジョーさんたちがいるそのTWは削除対象としてすでに決定されています。一刻も早くそこから脱出して下さい! ジョーさんも一緒に削除されてしまいますよ!」
「くそっ、やっとここまできたっていうのに!」
ジョーは再び八人に分身した。
「アル以外は、すぐに俺の分身と一緒にここを脱出する! 元の世界に戻るんだ!」
「待って! あんたはどうするの!?」
リンダがなかば叫ぶようにジョーに言った。
「今我々のいるこのTWが消滅しかかっている! なんとかくい止めなければ!」
「うおああああああああ!」
そのとき、アルバトロスの体に異変が起こった。彼の手足が、まるでレゴブロックが崩れ落ちるかのように、その先の方から除々に崩壊し始めていた。
「アル! 大丈夫か? やばい、急げ、みんな!」
レベル5の全員は、ジョーとその分身たちとと共に外次元に飛んだ。
「あれは何!?」
外次元に出たハルトが指をさして叫んだ。その方向をみると、巨大な火の玉がものすごい勢いで近づいていた。
「あれで削除するってのか! すぐにここを離れるぞ!」
アルバトロスを抱えたジョーが全員に叫んだ。
「だめだ、俺をおいてすぐに逃げろ!」
「なんだと?」
「俺の住む世界が消滅すれば、この俺も消滅する。お前たちだけで逃げろ、早く!」
そう言った後、アルバトロスは気を失ったようにガクリと頭を垂れた。
「アル、しっかりしろ! スエズリー! 聞こえるか?」
「聞こえます!」
「今すぐ、ブーストを三倍、いや四倍に上げろ!」
「四倍!? それは無茶です! 絶対に駄目です!」
「いいから早くしろ、時間がない!」
「ああ、もう! どうなっても知りませんよ!」
すぐさまジョーは、ALを捜索したときのさらに十倍、つまり1万人以上に分身した。
「いくぞ!」
ジョーの分身たちは、いっせいに火の玉に突っ込んでいった。だが、それでも、火の玉の勢いは止まらず、ジョーの分身たちはつぎつぎと火の玉に飲み込まれてその存在を消されていった。
「くそっ! 諦めるな! 諦めてたまるか!」
火の玉は勢いをさらに増して、とうとうジョーの本体をも飲み込んでしいまった。
「しまった! くそっ! う、うわああああ! だ、だめだ……もう……力が……入らない……」
ジョーの意識が、消え入るろうそくの炎のように薄くなっていった。
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