25話 牽制
「…なぁ、君さ。
見てて思ったんだけど…
マリーに気があるだろう?」
馬車の荷台にそれぞれ持っていた箱を乗せると、トマスはさっきまでとは打って変わってぞんざいな態度で話しかけてきた。
お前には関係無いだろうと問いには答えず戻ろうとすると、前に立ちはだかる。
「まぁ、マリーのことだから君の気持ちにはさっぱり気づいてないだろうけど。
それでも困るんだよね。横槍入れられると。
やっとじいちゃん、俺を指名してくれたのに」
「何のことだか分かりかねる」
「おっと、知らんぷりか?…まあいいけど。
君がすぐ戻ると都合が悪いんだよね。
今、じいちゃんがマリーに俺との結婚の話を出してるはずだから。
ちょっと俺に付き合ってよ」
品定めをするかのように俺を見ている。
「付き合う義理はないが、お前はマリーに一線を引かれていた。
話を受けるとは思えないが」
「辛辣だなぁー。
俺は、そこまで嫌われてるとは思ってないけど。一番マリーを見てきたし、理解してると自負してる。
出会ったばかりで仕事の依頼者の君よりは信用も信頼もあると思うけどな?
それに何たって、俺はマリーが慕ってるジョセフおじいちゃんの孫で、じいちゃんも可愛がってて、孫嫁にしたいと思ってるからかなりの好条件でマリーに提案してるはずだ。
さぁ、君はどうする?」
交戦的な瞳で問われる。
「別に…どうするもこうするもない。
マリーが決めることだ」
「はぁー、淡白だな。面白くない。
その澄ました顔を崩したいのに。
まだ、その程度の軽い気持ちならちょっかい出さないでくれ。迷惑だ。
大体、君みたいなのがいるなんて思ってもいなかったから予定が総崩れだよ!
まったく……」
至極当たり前のことを口にすると、それが気に入らなかったらしい。
何やら話の後半は、ぶつぶつ独り言のように喋っていた。
(きちんと気持ちを伝えてない俺に口を挟める資格はない……
しかし、マリーの態度を見た限りでは話は受けないと思ったが、ジョセフさんの好条件が気になる。
どうか、お願いだ。話は断ってくれ……)
自分の世界に入っているトマスは残し、極力気持ちが顔に出ないように気をつけながら、祈るような気持ちで家へと戻る。
「あ、セージさん。
積み込みありがとう。トマスは?」
普段通りのマリーに何だか拍子抜けした。
「あ、ああ、もうすぐ来るはずだよ。
たぶん」
「ええー、トマスまだなの?もう!
2人共すぐ戻ってくるって思ってもうお茶注いじゃってたんだよ。
セージさん、先に応接室で休んでて。
私、トマス呼んでくるから」
(あれ?
ジョセフさんはまだ話してないのかな?)
そう思うほど普通…
とりあえず応接室に行くとジョセフさんが、のんびりお茶を飲んでいた。
「セージ様、手伝わせて悪かったのう。
来るのが遅かったが、トマスに引き止められてたのかい?」
訳知り顔で尋ねられた。
「ええ、……まぁ…そう…ですね」
曖昧に返事を返すと、
「そんなに心配せんでも大丈夫じゃ。
マリーちゃんには考える間もなくすっぱり断られたからのう。
まぁ、トマスの自業自得じゃから仕方ない。
一時期、好きなのに素直になれなくて意地悪してたからの。あれがなければ、お兄ちゃん大好き!の延長で話も纏まったかもしれんのにな」
ああ、残念残念とお茶を飲んでいる。
(ちっとも残念そうじゃないんだが…?)
何はともあれ、マリーはトマスとの結婚の話は断ったようだ。
ホッと胸を撫で下ろす。
「……だから、頭、撫でないでって!
もう、撫でられて喜ぶ子供じゃないのよ」
「はいはい。わかったわかった。
あ、マリーちょっと……」
「ん?何?」
俺の目の前で内緒話をしているトマスとマリー。
(お前、話、断られたんだろ?
なのに、どうしてマリーとイチャイチャしてるんだ?
あっ、おい!それ以上マリーに近づくなよ!)
2人の距離が近過ぎて見ていられない。
自分には2人に何か言う資格はないけれど、やっぱりイライラしてしまう。
とりあえず紛らわせるためにお茶に口をつけた。
いつもならお茶を飲むとホッと出来るのに、冷めて冷たくなったお茶はやけに苦い味がした。
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