23話 経過観察と専属商人


薬が完成し、飲んでもらってから3日。


私の魔力大量使用による反動もすぐに収まり、元通り普通の生活に戻った。

契約が継続中だからなのか、魔力操作も抑制無しでも行える。

しかし、契約が終了した後は元に戻る可能性が高いので、魔力操作の感覚を体に覚えさせるよう抑制は掛けず、小さい頃にやっていた魔力を使って何か形を作り、それを保ちつつ動かして遊ぶ遊びをすることにした。


前は、それで半日遊べればいい方だったけれど、今は一日中でも楽に出来てしまうので形に大きさや複雑さや数を求めるようになって、好きだった向こうの世界の有名な建築物を家の裏に作ったり、空に優雅に泳ぐ鯨や魚の群れを作ったりと、ファンタジー感が倍増している。


あの、何とも表現しがたい気分は無くなりはしないまま胸の奥に燻っている…




誠司さんの経過は、すこぶる良好だ。

毎日の〔診眼〕診察では、日に日に呪いの絡みつきは弱くなってきている。

程よく体を動かし、よく食べてよく寝るというストレスフリーに近い環境も影響してるはず。来たばかりの時の作ったような笑顔はしなくなり、目尻が下がって少し幼く見える笑顔をよくするようになった。


それと…

普段の距離感もすごく近くなった気がする…のだけど、

「そんなことない。このくらい普通だよ?」

って言われると、あまり人と接触がない私は、「気にし過ぎなのかなぁ?」と恥ずかしくなるばかりだ。





「マリー、これどこに置いておけばいいの?」


地下の倉庫からポーションの保管箱を持ってきてもらっている誠司さんが私に声を掛ける。


「お店の方に持ってきて。

もう、来られると思うから」



今日は、代々お世話になっている商人のお爺ちゃんが来る。一昨日、伝書鳥が訪問の知らせを持ってきたのだ。


私がこの森で引きこもっていられるのも、私の日用品やここでは採取出来ない薬の材料を用意してくれたり、私が調合したり調薬したお茶や薬などを街に卸してくれるこの商人のお爺ちゃんとそのご家族のおかげなのだ。


自分の本当の孫のように私をかわいがってくれる優しいお爺ちゃんで、私も本当のお祖父ちゃんのように思っている。

今日の商談という名のおしゃべりの時に誠司さんを紹介して、そのお供には、お爺ちゃんの好きな温かい緑茶と甘い大学いもを用意している。



カランカラン♪

「マリーちゃん、こんにちは」


ドアベルと共に柔和な笑顔の白髪白髭のお爺ちゃんが顔を出していた。


「こんにちは、ジョセフおじいちゃん!

待ってたよ!」


「それはそれは、待たせてすまなかったね。

一つ前の街でマリーちゃんが喜びそうな薬草があってお土産に買ってたら予定より遅くなってしまった。ほら、これだよ?」


「これ、ドクダミ?!」


「これは、ドクダミって言うのかい?

売ってた商人は、確かコルディータ?だったかと言っておったが。

わしも昔、何度か見たことはあったが頼まれたことはなかった薬草だ。久しぶりに見かけたからマリーちゃんなら使えるかもと思ってな」


「ありがとう!ジョセフおじいちゃん!

これ、ずっと欲しかったんだけど規制されててなかなか出回らないの。

最高のお土産だよ、大好き!」


ジョセフおじいちゃんに思いっきりハグをする。


「そんなに喜んでくれるとわしも嬉しいよ。

最近はすっかりレディになって飛びつくようなハグもしてくれなくなったから寂しかったんじゃよ。

しかし、マリーちゃんもまだまだ子供じゃな?」


茶目っ気たっぷりにウインクしながらハグを返してくれる。


「だって仕方ないじゃない。

すごく嬉しかったんだもの」


照れ隠しに口を尖らせてぷいっと横を向く。


「いや、すまんすまん。

つい、昔を思い出してしまったんじゃよ。

今では、本当に立派なレディじゃ。


その立派なレディの後ろにいる殿方が、何処のどなたなのかそろそろご紹介してくれるかの?」


(いっけなーい!

ドクダミで舞い上がって忘れてた)


「そうだった!忘れててごめんなさい。

ジョセフおじいちゃん、この方は今受けている仕事の依頼者セージ様。アンの知り合いのご紹介なの。

セージさん、この方は商人のジョセフさん。

代々この森の専属商人をしている一族の方なの」


慌ててお互いの紹介をする。


「はじめまして、セージ様。

私は、商人のジョセフと申します。

私は、昔、この森の魔女薬師様に多大なるご恩を受け、そのご恩に報いるため代々商人としてお仕えをしております一族の一人でございます。


まぁ、しかし、私は、ただ孫のようにかわいいマリー様に会いたいがために通わせてもらっているただの爺でごさいます。

どうぞ、お見知り置きを」


私の前ではなかなか見せない商人ジョセフの顔。

(後半は、お祖父ちゃんの顔だったけれど)


昔は、本当にこの森の御用達のみを行っていたらしいけど、段々と規模を大きくして商会を作り、今では知らない人がいないほどの大商会。

ジョセフおじいちゃんは、そこの会長さん。

普通ならこんな森まで荷物を運んでくるような仕事をする人ではない。

しかし、ジョセフおじいちゃんのたっての希望できてくれているのだ。





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