第2話 変な人の頼み
(え、嘘だろおい!!)
指で耳をほじくってみたが血は出てこない、どうして声が聞こえてこないのか、理解できない事が起きている、これは異常現象だと俺は思った。疑問に思いながらピクリとも動かない周りの人達を触ってみようと考えた俺は、すぐ横に立っていた人に手を伸ばして触れてみる。
しかしこれがまた石像のようにとても硬く、持ち上げる事も出来ず横にズラそうとしてもそこから1歩も動いてはくれなかった、何度も指で頬を突いたり、ベタベタと手の平で様々な人達に触っていると――。
「やあ」
(うわあっ!!)
1人の女性の声がどこからか聞こえてきた。俺は驚いた顔で少し上へと飛び跳ね、声の方に身体を向けると女性はロングヘアーの紫髪をサラリと撫でてから両手を後ろに回し、前のめりの姿勢で俺を見つめた。良かった俺以外にも動ける人いるじゃないか。
「僕は神、この世界の絶対神だ、よろしく」
……えっと、何を言っているんだろう。
彼女のぶっ飛んだ自己紹介に軽く困惑した。
(かみ……?)
「ねえねえ、それよりこの服と髪型どうかな? 人間はまず中身よりも外見を好む生物だったからキミが好きそうな格好で来てみたんだけどっ」
彼女は両手を広げてクルリと1回転をしながら俺にその姿を見せつけてきた。確かに格好はとても似合っているがその前にまず色々と言いたい事がある。どうして周りの人達は止まっているのか、そして彼女だけなぜ俺と同じように動けるのか?
(でも声が出せないんじゃなあ)
どうしても尋ねたかったが彼女に伝える方法がない、なのに彼女だけは一方的に話せる、うーん全く理解が出来ない、本当にこの人は神なんだろうか?
「はあー、世界と生物全員を再構成するの大変だったんだよね」
彼女は
「あ、そうそう、キミの声はさっきからきちんと聞こえているよ? 正確には思考が読めるってだけなんだけど」
え、マジですかごめんなさい神様、じゃなかった、本当に神様なんですか?
「うん」
あっさりと答えてくれた。……とにかく一旦落ち着こう、このよくわからない状況に何とか適応していかないといけないようだ、気合いを入れる為に俺は頬を手でパンパンと叩いていると面白かったのか神様はクスリと笑う。
「ふふ、そろそろ説明してもいいかな?」
このおかしな現象にも慣れてきたので大丈夫です、というか意外にも人間の適応力というのは素晴らしい、もう神様と会話を交わしている事に違和感を抱かなくなってきている。ちょっぴりと安心した気持ちで見ていると、神様はピッと俺に向かって人差し指を突き付けまたぶっ飛んだ事を言ってきた。
「それじゃあ簡単に経緯だけを説明するね、まず一度世界は滅んだんだ、だから僕は世界を作り直した。なぜそんな大それた事が出来るのかと言うと僕はこの世界の絶対神だからだ、ここまではいいかい? ……あれ、聞いてる?」
あまりにも膨大な情報量に俺の思考は停止を選択してしまっていた。
――。
――――。
「おーい、大丈夫かい? つんつん」
……はっ、気がつくと彼女に額を
(なぜそんな事が出来るのか? それはこの世界の絶対神だから……か)
うんうんその通りだよと言わんばかりに彼女は頭を縦に振るが、やっぱり意味がわからない、まず第一に神様はなんで俺の目の前に現れたんだろうか。
「ああそれは簡単だよ、この石を見てごらん」
そう言って神様は懐から変な石を取り出して俺に手渡してくる、その石をじっくりと眺めてみると石の中心には虹色の宝石が埋め込まれていた。青空にかかる虹のようにとても綺麗だ、次に俺は石を手の平の上でコロコロと転がしてみると、突如として宝石の色は失われていきてっきり壊してしまったのかと思った俺は慌てて神様に返した。
「あはは、他とは違う面白い反応するねキミ」
笑顔を向ける神様、ほかってなんだろう? いやそれよりも、今のはなんなんですか?
「力だよ、キミにしか使えない、強い力」
ち……ちから?
「うん、この力を与えるに相応しい人物を探すためにね、しばらく観察していたんだ。この人なら闘争に溢れた世界を何とかしてくれる、そう思ったからこうして直接会いに来たんだよ?」
なるほど……いや、なるほどじゃねえ。そう思うのは神様の勝手ですけど俺はこの世界では平凡だし、何ならその辺の虫と変わらないちっぽけな存在だと思いますよ、そんな俺が世界をどうこう動かすのは無理だと思います。
「ふーん、意外と自信がないんだ? じゃあこれでもダメ、かな?」
おもむろに上の服に付けられていたリボンをシュルリと外す神様、服は肩が見えるほどはだけてしまい、その大きい胸をたゆんと上下に揺らして俺に近づいてくる。いきなり何をしてくるんですか!!
「ねえ、お願い、聞いてくれないかな?」
これでもかと言うぐらい身体を密着させてくる、その哀しそうな顔は今にも泣きそうに見えてしまい、なんだか申し訳ないと俺はポリポリ頭をかいた。なぜ男性は女性の事を無意識に『可愛い』と思うのだろうか、誰かハッキリ説明してくれ。
ダメですよ神様、拒絶するように神様の肩を押して俺は距離を取ったが、それでも神様は諦めてはくれずトテトテとこちらへ向かって歩いてきてはまた俺に顔を近づけてくる。
「お願いだよお、話だけでもさあ」
大きな胸がたゆん、たゆんと上下に揺れ俺の身体に押しつけてきては腕に巻き付くように抱きついてくる、正直この体勢は心臓の鼓動が高鳴ってしまい凄く緊張する。俺は照れた顔を見せないよう視線を上に向けた。
「ねえ、僕すごーく困っているんだけどなあ……」
ああ、俺も今困っている。さっさと離れてください、正直変な感じがして嫌なんですよ。
「ええ酷いよお、キミってさ、困っている人を助けたいとあの子に食べ物をもらった時に思ったんだよね? だから助けて欲しいなあ」
シュンとした顔がちょっと可愛い、なんでこんなにも可愛いんだよ、ああもう聞くだけですよ神様、聞くだけですからね、そう思っていると急に神様は抱きつくのをやめた。表情もさっきと違って真顔に戻ってしまっている。
「そう、じゃあさっさと本題に入らせてもらうね、種族同士の争いが激化していきこの世界は滅んだ、それが約100年以上前の話だ」
急にガラリと態度を変えて説明を始めてしまう、俺はなんだか騙された気分になった。
「もちろん神様の僕が人前に出て抑制する訳にもいかなかったから、魔法でも科学でも解明出来ない様々な超能力というのを作り上げて配ったんだ、今発生させている時間停止もその1つに過ぎない……さて、ここまではいいかな?」
よくない、ちょっといいですか神様。
「ん、なんだい?」
滅んだってどういう事なんですか? こんなぶっ飛んだ事を言われたらじゃあなんでこの世界が今存在しているのかって俺は鼻で笑いながら思ってしまいますよ?
「うーん? でも現に滅んでしまったし……」
ちなみに理由はなんなんですか?
「ああ、色々だよ、そうだなあ。1つ世界が滅ぶに至った例を見せてあげようか?」
真顔でそう答えると固まった男とタルトに向けて手を伸ばし、神様は魔方陣を展開させる。ま、待てよお前まさか……。
「そのまさかだよ? 今ここで魔法を放てばどうなるか……まあ間違いなく2人は死ぬだろうね」
平気な顔して何を言っているんだコイツ、怒りの感情が急に襲ってきた。上下の歯を強く噛み合わせながら神様を睨み付けていると、クスクスと笑って「冗談だよ」といって魔方陣を閉じた。何が冗談だ、さっきから俺の反応を確かめるように接してくる態度が気に入らない。
「キミが持つこの感情、これって憎しみと恨みとかだっけ? まあ悪いとは言わないけどこれが原因で人類は多くの人を巻き込む戦いに発展していくよね。ああ、住む場所がほしくて戦争していた種族もいたっけな、殺して、殺されて……また誰かが殺された仇を討つために立ち上がっては誰かを殺していく」
そんな話は聞いていない、頭のてっぺんから下にかけて怒りがふつふつと湧いてきた。
「永遠に終わらない負の連鎖……君達はこの無駄なサイクルを何年繰り返すのかな? ふふっ……下手したらずーっとかな?」
……いい加減にしろ!! つまり俺に何を望んでるんだよ、一体アンタはどうしてほしいんだ!!
「ごめんごめんそんなに怒らないでよ、僕は彼らを殺すつもりなんて無かったんだからさ、こうしたらついキミがどういう感情を抱くのか知りたくなってね」
俺は実験動物ではない、神様は平謝りして胸をたゆんと揺らしてから謝罪の言葉を述べるが、機嫌が悪い状態でそういう事をされると逆に不快感が増すだけだ。俺は怒りの表情を変えずにジッと睨んでいると神様は「うーん、こうかな? ごめんね、もうしないよ」と頭を下げてしっかりと謝罪をしてくる。
なぜだろう、神様からは申し訳ないという感情がしっかりと伝わってこない。ひょっとして感情という物が存在しないんだろうか?
「ごめんなさい、キミの言う通り感情というのは理解出来ないんだ、えーっと、これでどう?」
やっぱり謝罪の気持ちが伝わってこない、ダメだ一旦落ち着こう。神様なりに必死に謝っているんだし、怒っているだけじゃ話は前に進まない。俺は「わかりました」と半ば諦めながら怒りの感情を必死に沈ませる。
すると神様は良かったと両手を合わせてクスクスと笑った、人と会話するのに怒ってばかりではダメだ、まずは情報を集める事を優先しよう。
「じゃあ話を戻すね、キミにこの超能力をあげるから、そのかわりに全種族の闘争を収めてほしい」
……おい、そんなあっさりととんでもない事を言われても困るんですけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます