第42話 祝勝会、そして
冒険者達の盛り上がりは、なんと宿屋さんを問いつめる会という形に発展する。
隠すつもりはなかったけど、こんな風に追及されるのは恥ずかしい。私が椅子に座らされて、全員に囲まれている。尋問かな。
「アリエッタ様に何をなさるんですか!」
「ミルカ、大丈夫だから箒を締まって」
「はいっ!」
「ぶっ殺すのですか!?」
「ぶっ殺さないから皿は戻しておきなさい。お客様だよ」
箒と皿で応戦の構えを見せていたうちの二人。落ち着いたものの、すごい剣幕で冒険者達を睨んでいた。
「魔術式は転移……。それでこういう宿屋をやろうと?」
「転移魔術のおかげで、やろうと思えるきっかけが出来ました」
私はあの人の宿について話した。興味津々といった感じで、他にも似たような宿があった事に驚いている。
またしても質問されるけど、私にもあの宿の正体はわからない。ところが金色の荒鷲のケイティさんが、訳知り顔だ。
「……その女性、耳がとがっているならエルフかも」
「え? で、でもエルフって絶滅したんじゃ?」
「それはあくまで一説。私は未だにどこかに隠れ住んでると思ってる」
「だとしたら、あの宿の特異性も何となくわかります」
「この宿も特異性バッチリだけどな……」
金色の荒鷲のウォルースさんによる的確な突っ込みに周囲も同意する。あれを目指したんだから、その評価は妥当としか言えない。
皆が騒ぐ中、進撃隊の一人が目を閉じて何か考えていた。
「祖父が若い頃の話だ。農業だけでは家族を養えず、たまに山菜を取る為に山へ入っていったそうだ。ある日、奥深くで遭難して彷徨っていた時……一人の女性が助けてくれた。そこには食べ物や寝床があり、怪我も完治させてくれた。まるで夢のような時間を過ごした……とな」
「悪いが、お前からその話を聞いた時は単なる年寄りの与太話だと思っていた」
「気にするな。この宿に来た時、ふとこの話を思い出したものでな。ただ祖父は不思議な事に、どうやって帰ったか記憶にないそうだ。後日、今度は仲間を連れて踏み入ったがいくら探しても何も見つからなかったらしい」
話してくれた進撃隊の一人は五十を超えている人だ。この人のおじいちゃんが若い時となると、かなり昔だ。
もしあの女性と同一人物なら、エルフというのも真実味を帯びる。なんとなく人間じゃないとは思っていたけど、そんな事は私に関係ない。私の中では今でもあの女性が輝いているんだから。
「おかげで祖父はいい笑いものだったそうだ」
「進撃隊のおっさんの話はともかくとして、だ。宿屋さん、あの魔物の群れはどうした? 俺達を転移させる前の話だ」
レクソンさんが当然の疑問を投げかける。私としてはこの人の豹変っぷりのほうがよっぽど謎だけど、質問返しはよくないか。
「全滅させたと思います。その中にも変な猿がいたので、死体を保管してありますよ」
「ア、アリエッタ様ぁ! ま、まみょのの死体を!」
「落ち着いて。食糧庫には入れてないからさ」
「待て、待て待て待て。俺達でさえ苦戦したあの群れを?」
一級冒険者パーティである金色の荒鷲が苦戦した魔物の群れを全滅させた。そのフレーズでいよいよ宿内に激震が走ったみたいだ。
「転移魔術で!? どうやって!」
「背後に回って攻撃か?」
「でも大群だろう……?」
前に宿にやってきた暴漢を撃退した時にいた冒険者はここにいないみたい。
興味津々どころか眼前に接近されるほど興奮している。魔術師に対して魔術式を勘ぐらないというルールを守ってるのは、ウォルースさん達だけだ。
魔術師じゃない人達にその暗黙の了解はない。隠すつもりはないけど、サービスで見せてあげるかな。ただし――
「こんな感じです」
拳を突き出して転移衝突をやってみせた。ひゅんひゅんと転移する様は全員を絶句させるには十分だ。
「俺に当ててほしい。確かめさせてくれ」
「レ、レクソンさん?」
「自慢じゃないが近接戦なら冒険者の中でもトップクラスに入ると自覚している」
「お客様に怪我をさせては」
「舐めないでくれ」
レクソンさんに火がついてしまった。その目はボス猿と戦っていた時に垣間見せたものだ。私を敵とまで認識せずとも、対抗心を感じる。
だけど相手は暴漢じゃない。宿屋としてあるまじき行為だし、ここは断固として断ろう。
「失礼しました。しかし私といたしましては、この魔術を闇雲に振るうつもりはありません。よって決闘のような申し出は固くお断りします」
「真面目だな……。悪かった」
「ご理解いただき、ありがとうございます」
「残念だな。君の実力が見たいという気持ちは本物なんだが……」
レクソンさんが諦めた時、宿屋のドアが乱暴に開けられた。もう夜も更けているというのに、その訪問者は。いや、訪問者達には疲れが見えない。
「ここは何だ? 宿か?」
やってきたのは数名の魔術師達だ。ただし、冒険者には見えない。所々に金細工みたいな装飾が施されたローブを全員がまとっている。
そして大蛇が大口を開けたようなシンボルを胸元につけていた。
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