第39話 アリエッタ VS 猿軍団

 冒険者達が討伐に向かってから、二時間が経過した。まだ一級冒険者パーティは来ない。

 何か事情があって来られなくなったのか、それとも。いずれにしても、戦力が整わない状態で戦ってるようなものだ。


「ミルカ、宿のほうをお願い」

「いってらっしゃいませ」


 何も聞かずに見送ってくれるみたいだ。

 おおはしゃぎで廊下の掃除をしているフィムを見ていてほしい。何回、往復する気だ。


「フィムちゃん、次は大浴場の清掃ですよ」

「瞬殺するのです!」


 何をだ。早く終わらせるつもりなら、往復をやめなさい。

 時々、言葉が汚くなるのは誰の影響なんだろう。なんて考えながら、王都側の渓谷に転移した。

 

                * * *


 点々と転移しながら、宿に向かってきてるパーティを探す。

 ところが所々おかしい。通れるはずの場所に木が倒されていて、通行に支障が出ていた。それが一か所や二か所じゃない。

 転移破壊で道を開けながら進むと、異様な風体の猿らしき魔物がいた。上半身が発達して下半身が貧弱というアンバランスな猿だ。

 そいつが木を両手で抑えて、グッと力を入れると軽々と折れてしまった。


「何してるのさ」

「グゴッ……!」


 変な鳴き声、と思った時には飛びかかってきた。ひとまず心臓付近を転移破壊。

 絶命を確認した後で死体を宿屋に転移させる。私は魔物に詳しくないから、これが新種かどうかわからない。

 エンサーさんが討伐した猿といい、何かがおかしいと私も思う。


「あ……金色の荒鷲かな」


 リーダーのレクソンさんを中心として、金色の荒鷲が猿の群れに襲われている。

 普通の手下猿とはいっても、あの数は骨が折れるはずだ。しかも、その中に腕や肩から時々、火が迸っている個体がいる。


「さすがにこの数は異常すぎる! 国の連中が手付かずで放っておいたせいだな!」

「その為に私達がいるんでしょ! ウォルース!」

「そうはいってもな、シャーロットよ! 何を隠そう俺はそろそろバテそうだ!」


 足止めを食らってる理由として、問題は数だけじゃない。木々がめちゃくちゃになぎ倒されて、思うように動けてないんだ。

 アーチャーであるケイティさんが淡々と仕留めていくけど、処理があまり追いついてない。これは迷わず加勢だ。


「皆さん、お疲れ様です」

「うわおぉぉぉぉッ! な、なんだ……君か! いきなり現れないでくれ!」

「驚かせてすみません。今から皆さんを宿に転移させますので、怪我をして残っている方々に事情を聞いて下さい」

「君は問題ないんだな?」


 転移破壊で数匹の猿の頭部を破裂させて証明してみせた。質問が途絶えたところで金色の荒鷲を転移だ。

 残ったのはか弱い私と猿の大軍。しかも変な猿が紛れているというオマケつき。

 猿達はこの圧倒的な状況が嬉しいのか、キャッキャと喜んでいるようにも見えた。


「今の転移破壊を理解してないのかな? 私の仕業だと思ってないのかな? さて、これだけいると試したくなるよね……」


 誰それより強いとか、そんなのに興味はない。ただ自分の力を把握しておきたかった。


「実験その一。転移破壊でどれだけの数を瞬殺できるか?」


 開始と同時に瞬く間に周囲の猿達から爆散していく。一度に全部とまではいかないみたい。

 あくまで一匹ずつだけど、速度は自分で見込んでいた以上だった。数十匹の猿の討伐で大体、数秒か。ほぼ全滅まで約三十秒。

 残ったのは肩や拳から火を噴き出している猿だけだ。


「ギャ、ギャー……!」

「さすがに驚くよね。さっきまで優勢だったもんね」

「アンギャアァァ!」


 猿が火柱を手の平から放った。もちろん転移層を突破できるはずはずもなく、虚しく突き抜けてしまう。

 こんなものが野生に生息していたら、山火事になる。という事から導き出される結論といたしましては。


「あなたはここの生まれじゃない?」


 急所だけを的確に転移破壊して、死体だけがどしゃりと崩れ落ちた。

 これも宿に転移させた後、猿の死体が転がる中で考える。ここの生まれじゃないとしたら、どこから来たのかな。

 一つ言える事はこのまま放置していたら、もっと事態が悪化していたという点だ。

 冒険者達が討伐に乗り出さなかったら、もっと猿達が増えて人里にまで魔の手が及んでいたかもしれない。


「……人間の援軍を見込んで道を塞いでいたとしたら、とんでもない知能だよねぇ」


 下っ端の猿でこれならボス猿である激昂する大将はどうなるやら。と考えると、冒険者達が心配になる。

 念のため、周囲を散策してみたけど特に新しい発見はなかった。この辺りにもう猿達はいない。


                * * *


 宿に戻ると金色の荒鷲は少し休憩してから、討伐隊の後を追ったみたい。

 ミルカによるとライトポーションを買い込んで、その場でがぶ飲みしていた。助けになったみたいで、これはこれで安心だ。


「見た事がない……。また新種か?」

「この猿、どこから火を出していた? 体を調べる限りではまったくわからん」


 私が討伐した二匹の特殊な猿達を見てもらったけど、予想通りの見解だった。

 冒険者達だけで結論を出せないなら、という事でここは然るべきところに引き渡そうと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る