5. 集落へ
オークと女の子を前にして俺は腕を組んで考える。
でも良く考えれば、答えは簡単だったのだ。
「俺、とサーニャだっけ? 俺達としてはドラゴンに会いに行ければいいんだよ。だからこのままお引き取り願うのが一番かな?」
お互いこのまま知らなかったフリをするのが一番だと気付いた。どうせ登るならサーニャを連れて行くのがいいだろうし、リュックには毛布もあるのでサーニャに渡してあげれば寒いのは解決だろう。
「確かにそうですね……でも、今からだと野宿になりますよ? もし良かったら集落へ来ませんか? 何もありませんが雨風はしのげますよ」
「そうだな、夜になると魔物が活発になるから嬢ちゃんと丸腰の兄ちゃんじゃ危ないぜ」
ニックとサッドが是非にと誘ってくる。フラグだろうか……?
行ったら俺は食料、サーニャは奴隷という結末が待っていたりしないだろうか?
「あたしはあんたに任せるよ。どっちにしても一人じゃどうしようも無さそうだし……」
サーニャは成り行きに任せる事にしたらしい。まあさっきくっ殺って言っちゃったから、命は無いものだと考えているのかもしれない。
俺は死ねればラッキーだし、そうじゃなくてもゆっくり寝られるならそれはそれでラッキーだ。
「分かった、そこまで言うならお邪魔させてもらうよ」
「そうか! それじゃあこっちだ! みんな驚くだろうな、まさか人間を連れて帰るなんて」
餌の意味じゃないと信じたい。
「皆、腹を空かせて待っているだろうから急いで帰らないとな」
そのお腹を満たす食料は手にある野兎のことだよね?
何だか不安になる会話をつづけながら俺とサーニャは二人の後を着いて行く。
20分くらい登り気味に移動をしていると、開けた場所に村があるのが見えた。
「へえ、藁ぶき屋根の家とは風情があるな。ハッ!?」
そこで何故か俺は三匹の子豚を思い出してしまった、いかんいかん変なフラグが立つ……。
「こっちです。俺の家ですが、村長の家でもありますので」
「それじゃ俺はこれで。怖がらせて悪かったな嬢ちゃん」
「……」
サーニャはまだ警戒を解いていないようで、少し上目使いをしながら会釈をした。
特に気にした様子も無くサッズは自分の家へと戻る。
「父上ー。お客様をお連れしました!」
しかしゴブリンと比べると流暢だな……キングはある程度喋れたけど他の奴等は全然だもんな。
オークの方が賢いのかね?
「なんじゃ騒々し……人間じゃああ!?」
ステーンと滑る村長。豚顔がニックよりしわがれていて髭があるのが特徴的だ。
「驚きすぎですよ……クリス殿にサーニャ殿です。ドラゴンに会いに行くため来たそうですが、もう時間も遅いので泊まっていただくことにしました」
「いてて……そうか、ワシはボリオじゃ。何も無いがゆっくりして行ってくれ。久しぶりに見たから驚いたわい」
ボリオさん、腰をさすりながら草で出来たざぶとんのような物を出してくれる。
テーブルとかは低く、囲炉裏があった。日本でももう廃れている田舎の家のような感じだな。
「しかしドラゴンか……最近急にやってきて山頂居座りおってなあ、別に山頂は行かないからワシらはいいんじゃが、興味本位で人間が増えるのも困るなと思っていた所じゃ」
「ですね。サーニャさんのように攻撃を仕掛けてくる人も居るでしょうから……」
「う……」
サーニャは顔を赤くして俯いていた。まだ油断できないとは言え、いきなりはあんまりだと思ったからだろう。
俺はまだ時間があるので村を見てみたいと思っていた。
「なあ、少し村を歩いてもいいか?」
「ええ、でも囲まれると思いますので俺が一緒に行きますよ」
果たしてオークの村の実情とは!
わくわくしながら再び外へでる。
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のどか!
それ以外ない!
集落自体は中々広く、山の斜面をうまく使って家を建てている。万が一崩れても大丈夫なようにずらして建てるなど工夫もされているのだ。
すると一頭の子豚がてこてこと目の前を歩いていた。
「お、ミニブタか……可愛いな」
地球でもペットとして飼われるようになったな。最近はマイクロブタとか言うのも居るらしい。
「ミニブタ……? それが何か分かりませんが、あれはオークの子供ですよ」
「「え!?」」
俺とサーニャの声がハモる。そらそうだろう、どうみてもタダの子ブタだ。
「二足歩行もしてないし、そもそも手足が蹄じゃないか」
「あたしのウチに居る豚がちょうどあんな感じなんだけど……」
「そうですね、確かにそっくりなんですけど毛が薄かったりして差異はあるんですよ? おや、丁度いいところに母オークが子供を連れて井戸端会議をしていますね。年齢別に見てみましょう」
ニックは会釈をして子供に近づき抱き上げる。
「これがさっきの子供ですね。1歳だとこんなものでしょう」
先ほどのミニブタだ。持ち上げられてぷぎぷぎしているのが可愛い。
「で、こちらが2歳ですね。蹄が大きくなっているでしょう? 毛も薄くなってるんです」
「ほんとだ……」
ぶひっとドヤ顔をする2歳オーク。次は3歳か。
「3歳ですが、体が全体的に大きくなりました」
それだけかい!
「で、4歳になるのがこの子です」
「あ!? は、初めまして……」
紹介されたオークはニックみたいに、二足歩行で手足があった。はいダウトーー!
「ちょ、待て待て!? 3歳から4歳で何があった!? 完全二足歩行で手足も俺達みたいになっているし、何より喋るの早くね? 3歳までぶひっとしてたよ!?」
「どうどう……」
ツッコミで息を切らせた俺の背中をさすってくれるサーニャ。自分の言いたい事を全部俺が言ったからか笑顔だった。
「そう言われましても……誕生日を過ぎてから朝起きるとこうなってるんですよ」
「みんなそうなのか?」
「はい」
「……例えば寝ないで見張ってたらどうなるんだ?」
「流石は人間ですね……そこにいきつくのが早い。結論を言うと成長しません」
なんだって?
「どういう……?」
「成長しないんですよ、いつまで経っても。交代で三日ほど徹夜で監視を続けましたが、その間はまるで成長せず。で、ちょっとウトウトして目を離した隙に……」
成長して二足歩行になったらしい。
「一種のホラーだな……」
「我々が見ていない間に神が改造するのでは? というもっともらしい噂が流れていたりしましたね、一時期」
ははは、と朗らかに笑いながら別の場所へと案内すると歩き出した。
神か、ヤツならそれくらいはやりそうだけどそもそも世界に干渉できないはずだからその線はないか?
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【あの世 ハイジアの部屋】
<珍しいわね、ここに来るなんて>
<少し相談したいことがありまして。あなたの担当した転生者は地球から送った方ですよね? 転生体は女性ですか?>
<? そうね、まあただの村娘だからポイントになりそうな事はあまり無いわ。あーでもパンを柔らかくしたってアイデアでポイント貰ったわね。子供でも産んでくれればいいんだけどねえ……>
<そうですかそうですか。では本題と行きましょう、その村娘と私の担当しているクリスを結婚するよう仕向けませんか? どうもクリスは自殺をしようと画策していましてね。このままだと査定に響くんですよ。結婚させてしまえば後ろめたくなり自殺など考えなくなると思いませんか?>
<でも貴族の息子でしょ? 村娘と結婚はさせないでしょ?>
<いえいえ、あの両親はちゃらんぽらんなのでこの作戦ならうまくいきますよ……そのために地球からの転生体を選ぶんですから……>
両親がちゃらんぽらんなどと、クリスが聞いていたらオルコスの罪状が増える発言をしていたが、その真意とは?
そしてハイジアを巻き込んで自殺を食い止めようとするオルコスの良い手とは一体?
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オークの村で一泊することになったクリス。
口数の少ないサーニャは緊張してるのか、はたまた作者のせいなのか?
そして、オーク達の集落に緊張が走る。
次回『巻きでお願いします』
ご期待ください。
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