4. 回想は短めにお願いします
<はい、というわけで海に到着しました! 現代地球も驚きのおーしゃんびゅー! リゾートホテルのようなリゾートホテル! 貴族になるとこういう生活も思いのままですよ!>
「うるせぇ! 誰かに見せてるんじゃねぇだろうな!?」
<何のことでしょうか?>
カチッ
「またスイッチを……というかリゾートホテルのようなリゾートホテルってリゾートホテルじゃねぇか……」
「兄さん、またアレ?」
ウェイクが俺を見上げて聞いてくる。まったくその通りなのが悔しい。
「気にしないでくれ……後少し、後少しの辛抱なんだ……」
「? う、うん」
さて、ここはオルコスの言うとおりリゾートホテルである。町の名前は”ユートピア”といい、文字通り理想郷……いや、楽園と言うべき町だ。
ちなみにここは領地内の海岸沿いの町であり父さんや俺達の顔は勿論知られているため、そこで休暇という訳。
早速、家族みんなでホテルにチェックインし、部屋へと向かう。
男女別に分かれて後で合流なのだが、俺は一足先に出かけるつもりだった。
「父さん、先に出かけていいかな?」
「ん? どうした、みんなで行けばいいじゃないか?」
「そうだよ、ほら! あの時買った水着だよ!」
「はは、ウェイクのテンションが高いね。弟が元気なのは喜ばしいよ」
ウェイクとデューク兄さんがじゃれているのを尻目に父さんが氷の魔道具を飲み物を入れた箱に入れていた。
平和だ……。
カチッ
<しかし、急に海なんてどうしたんです? 引きこもりのあなたが妹さんに言われて出るタマでも無いでしょうに>
「(やかましいわ! お前には教えてやらねぇ)」
<あ、いいんですかそんなこと言って。10歳のあの事件をバラしますよ?>
「(そんなのに屈する俺じゃない。というか誰にバラすんだよ!?)」
<そういえばそうですね。あ、時間? はいいはい行きますよ……>
カチッ
「やけにあっさり引いたな……まあいい、今の内に……」
俺はこっそり外に出ようとしたが捕まってしまった。
「クリス兄さんー一緒に行こうよー」
くっ……弟にそんな顔をされては無下にも出来ないが……。
「そうしたいのは山々なんだけどな、ちょっと腹の調子が悪くて……先に行っててくれないか?」
「え!? そうなの?」
「大丈夫かい? 無理したらダメだよ」
ウェイクが驚き、兄さんが心配そうに聞いてくる。心が痛い。
まあそれはそれとして、海岸を探索する必要があるので一人の方がいい。
「ふむ……じゃあクリスは後からか、残念……。先に行って待っているがデュークの言うとおり部屋で休んでてもいいからな?」
父さんが飲み物の入った箱に氷の魔道具を入れながらそう言ってくれた。
「ありがとう。行かないとアモルがうるさそうだから一応顔は出すけどね」
みんなが「それは怖いな、はは」と笑い、場が和んだところで父さんたちはビーチへと向かっていった。
「……さて、オルコスもどこかへ行ったようだし、見てなさそうだ。今の内にいい場所を見つけにいこう」
そそくさと俺はみんなが居ないビーチではなく、一般の人が使う海岸へと向かった……。
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さて、ここが問題の海岸線。
この海は透き通るような水に、豊富な海洋資源や美味しい魚など、豊かな場所である。
ここまで説明すれば賢明な方ならもうお分かりであろう。俺は「水没死」を狙っている。
冒険者になれないなら他の手段で死ぬ。それが賢明と思ったから今回の旅行は楽しみにしていたのだ。
え? 毒とかでいいじゃん?
ああ、それなんだけどこれがまた厄介な事があってな。
そうだな、それこそ10歳の時の話をしようか。
ありゃ学園の遠足の時だったか……。
遠足といってもすぐ近くの山に行くだけで、その山も魔物が出るから深くは行かない。
もちろん万が一のために魔法が使える先生も同伴している。なんせ貴族や高貴なおぼっちゃん学校だ、怪我などされたらシャレにならんからな。
で、昼食が終わりそろそろ下山というところで、ゴブリンに襲われた。
ゲームだと雑魚モンスターってヤツだが、この世界のゴブリンは違ったのだ。
他の魔物と違い、カタコトではあるが話す事が出来、集団戦もこなせる強力な魔物であると先生は言う。
要するに動物タイプより強いと。
魔物に知性があるということはそれほど脅威なのだと思い知らされてた瞬間だったかな。
あっという間に女の子が二人人質に取られると、こちらは身動きが出来なくなった。
そのまま攫われ、五匹のゴブリンが意気揚々と去っていくのを指をくわえて見ているしかできなかった……。
このまま攫われてゴブリンの餌になるくらいなら、と俺はゴブリンの後を着いていき、救出の機会を得ようとした。
だが……。
「コイツ、ソトデヨウスヲウカガッテタゼ!」
「ヒャッハー! キョウハタイリョウダナ! オンナハマダコヲウメナイカラオモチャニシヨウゼ!! オトコはクッチマオウ! ソウシヨウ!」
そう、あっさりと捕まってしまったのだ! そりゃ10歳の子供じゃ無理でしたよ、ええ。
ロープでしばられ女の子達と一緒に隅へと転がされてしまい、料理されるのを待つ。
「……ごめんな、助けに来たのに一緒に掴まるなんて」
「ううん、助けに来てくれただけでも嬉しいよ……でもすぐに、あそこに転がっている骨みたいになるのよきっと……」
女の子(シルヴァ。可愛い)の目線にはベタな頭蓋骨が転がっていた。むう、俺が死ぬのはいいけどシルヴァ(とその友達。そこそこ可愛い)が殺されるのはごめんだ。
しかし、きつく縛られたロープを解くことができず結局広場に連れ出され、首を斬られることになった。
「ハッハー! キョウハゴチソウダ! ニンゲンヲタベルノハヒサビサ(1000ネンブリ)ダガ、ハラヲコワスンジャナイゾ」
すると辺りは拍手と歓声の嵐。この派手なショーを見ようと20体くらいのゴブリンが集まっていた。
カチッ
<あれ!? 何やってるんですか? 新しいプレイ?>
「ばっか!? んなわけあるか! 何とかできねぇか!」
「オ、オウ……」
「お前に言ったんじゃねぇよ! どうなんだ?」
<ダメですね、契約書にもあったと思いますけど、干渉は一切できません。あーあ、女の子と捕まったんですか? あんなことやこんなことされて死亡ですね、残念!>
「クソがああああ! なら何で見てんだよ! 放っておけよおらぁ!」
「オロオロ……」
俺とオルコスの会話が始まり、ゴブリンが狼狽えはじめた。無理もない、傍から見れば頭のおかしいヤツだ。
シルヴァ達も若干引いているような気がする。
<そりゃもちろん監……おっと危ない危ない……>
カチッ
「切りやがった!? おい! オルコス! おいぃぃぃぃぃ!!」
「モ、モウイイ! コロセ!」
シルヴァ達を両脇にはべらせているリーダーっぽいゴブリンが、俺の首を斬れと命令を出す。
く、これまでか……!!
その時である!
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ゴブリンに捕まってしまったクリスと女の子達はどうなってしまうのか!
クリスに秘められた謎とは?
そして、クリスの妄……回想から戻り、砂浜で見たものとは?
次回『運命の海岸線』
ご期待ください。
※予告の内容とサブタイトルは変更する場合があります。予めご了承ください。
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