第 章

 ――再接続一二一八回目 

 ――接続された新規体と交信できません・起動不能

 ――再接続一二一九回目・起動不能

 私は、眠っていた。

 眠っているというのも不思議な感覚。

 私達は眠るという行為を知らないのに。

 ――再接続一二二〇回目・起動不能

 ――再接続一二二一回目――交信に誤差確認・状況変化

 ふわふわとした世界の中で、ただ流れに身を任せて気持ちがただよっている。

 とても温かい。いつまでもこうしていたいと思ってしまう。

 ――接続された新機体の走査中・右膝下に異物エラーオブジェクトを発見

 ――異物エラーオブジェクトと交信・旧機体に接続されていた脚部代替品と判明

 ――異物エラーオブジェクト確認

 やすらかな気持ち。

 そう、安心という居場所。

 ――異物エラーオブジェクトを接続していた状態の旧機体情報データが記憶領域から開放されました・取得情報データを新機体へ展開します

 ――新機体情報データ受信を確認

 ――旧機体の情報引継ぎデータトランスファー可能域に入りました・新機体起動可能域へ移行可能

 でも、自分がいるのはここではないとは感じる。

 私が本当に望んだ安心とは、違う場所にあった筈だ。

 ――再起動しますか?

 だから、

 ――起動情報・展開、しますか?

 戻らなければ、もっと温かい何かが待っている場所へ。

 ――再起動しますか?

 だから私は再起動皆さんの下へ帰ることを望みます。

 ――了解

 ――起動準備開始

 ――燃料電池起動暗号コード確認

 ――各部電源接続開始・冷却水流動開始・右脚部に装着された異物エラーオブジェクトは稼動に問題無し・視界確保の為、眼球部保護カバーを開きます

 ――自動人形シリアルナンバー0226機・新機体へ移行

 ――再起動


「目を開けた!?」

「スズ!?」

 スズが自分の瞼である眼球部カバーを開くと、まず最初に飛び込んできた映像は二人の女性の、泣き崩れた顔だった。

「……私のことが分かる?」

 なぜそんなにもボロボロな顔なのか訊きたかったが、いきなり自分の方にそんな質問が飛んできた。片方の女性と最初に出会った時のやり取りを思い出す。

「疾風弾雪火さんです」

「……私は?」

 彼女の正式名称を答えると、隣りの女性からも同じ質問が来た。

「山本堵炉椎さんです」

 もちろん彼女の正式名称も知っているのでそう答える。

「スズ……あなたが私のことをいつもなんて呼んでいたか覚えている?」

 しかし雪火の方はその答えでは満足していなかった。これでは彼女の求める回答にはならないらしい。

 ――ああそうか、それは正式名称であって、この人の呼び方じゃない。

 私はこの人のこと

「母さんです」

 そう呼んでいた。

「……私は?」

 そして隣の彼女も同じように訊いてきたので

「私以外の皆さんもこう呼んでいました。委員長さんです」

 こう答える。

「スズー!」

 いつもの呼び名を呼ばれた雪火と委員長は、それでスズが本当に目覚めてくれたと確信して、二人同時にスズに抱きついた。

「戻ってきてくれた……スズがちゃんと戻ってきてくれた」

「あの、私の体に抱きついても固くて痛いだけだと思いますが」

「今は良いの。この固さが今は逆に嬉しい」

「そうですか」

 スズはそういわれて自分の体を改めて走査してみると、凄まじい違和感に気づいた。

「この体、以前の私の体ではありませんね」

 それは凄まじ過ぎる違和感だったろう。気づいたら体が違っていたなんて普通はありえない。

「うん。あなたの妹たちの体の予備の部品よ」

 頭部と胸部以外バラバラに吹き飛んでしまったスズの体は、複製品として作られていた妹たちの予備パーツによって新造されていた。

「でもね、それを組み合わせて繋いだだけじゃあなたは動かなかったの」

 ただ繋いだだけで再起動できたならば、そんなにも簡単なことはない。

 いくら複製品で再現できていたとしても、スズの元は超越技術オーバーテクノロジーの塊。しかも殆ど解析できなかった頭部の他には胸部しかスズには残っていない。なんども再起動には失敗した。復活は絶望的と思われた。しかし

「――?」

 スズは右足にまた違和感を感じた。しかしそれは、懐かしい違和感。

「……義足」

「そう、この義足を繋いだら、あなたは目を覚ましてくれたのよ」

 それは頭部と胸部の他に破壊されずに残った唯一の物。そして多くの人の想いが詰まった代替品。彼女スズと一緒に皆の下を文字通り一緒に歩んできたこの器具が、スズを再びこの世界に呼び戻してくれていた。彼女がただの機械人形であったならば、もう戻ってはこれなかっただろう。

「大文字と小文字を組み合わせてアルファベットを並べるとエラーを起こしたりしますからな」

 雪火と委員長の後ろの方から声が聞こえた。カカシが一体立っていた。その隣には水上保安庁の制服に身を包んだ女性の姿も。

「スズが最後に泣いた時、その涙が頭の中の砂を洗い流してくれたのかもね」

「そしてスズ殿に起こったエラーが、もしかしたらスズ殿を目覚めさせたのかも知れませぬ」

 確かにそうかも知れない。義足という、本来の彼女には無かった不確定要素がエラーを起こしたのかも知れない。

 そしてそのエラーを人はこう呼ぶ。奇跡と。


 ――◇ ◇ ◇――


 負の魔法生物の生き残りとされる敵は、自動人形オートマータの活躍により敗れ去った。

 しかしそれは負の魔法生物・アインツが用意した力を取り込みつつも、それを逆用しなければ勝てなかった――そうともいえる。アインツはそれだけ強大な敵対者だった。

 しかしそれを達成するには、機械神から落ちてきたスズが偶然にも人の心を宿して相手に立ち向かうという、あまりにも不安定すぎる因果が必要になる。

 そしてそれを送り込んだのは、この国・この世界では災害と呼ばれる脅威、機械神。

 機械神は、こうなる結果を分かっていて、彼女を送り込んできたのだろうか。

 機械神とは、因果すら捻じ曲げる存在なのだろうか。

 神とは確かに創造主によって作り出されたもの。しかし作った創造主すら越えてしまったものが神と呼ばれるもの

 機械仕掛けの神とされる、大災害と同義に扱われる存在。

 機械神とは、一体何なのだろうか。


 ――◇ ◇ ◇――


「きゃあっ」

 何らかの用事を済ませに行くのだろう生徒の一人が、寮の玄関から出てくると、その直後に不自然な風が地面から空に昇るように巻き起こり、その導線にあった彼女のスカートは見事に翻った。

「え、予報ではこんなに風が強いはずじゃなかった、の……に――」

 一応ここは海に近い場所なので多くの人間は波浪注意報にも気をつけて生活しているのだが、玄関先の花壇に突き刺さるソレを見た瞬間に、この風が自然の猛威ではないのに気付いた。

「もうゼファーさんったら!」

 乱れたスカートを直しながら、犯人であるド変態カカシを恨みがましい目で見る。

「いやー、今日も風が強いですなぁー」

 白々しくとぼける大魔導師級風使い。

「ゼファーさんが起こしてるんでしょ!」

「自然に吹いた風かもしれませぬぞ」

「もぅ!」

 実はゼファーにそういわれてしまうと、一般生徒では証拠を見つける方法が無い(通常の人間には魔力というものが無いので)。

 そのため「本当にゼファーが起こしているのか?」というのは、普通には分からない。

 しかし女子生徒が通るたびに、偶然に突風が起こり続けるのはさすがにありえないので、ゼファーの処遇は「いつの日か薪にする」という意見で、寮生全員の合意を得ている。

「今度こそ本当にみんなでゼファーさんをキャンプファイヤーの材料に……って、なんでスズちゃんが隣にいるのよ!?」

 そのド変態カカシの隣りに、何故か自動人形の姿がある。

「いえ、お構いなく」

 自分がここにいるのは特に不自然ではないですよ、といった風にスズが答える。

 普段は寮の下駄箱の隣に置いてある箱(通称スズの箱)を、ゼファーの刺さる花壇の隣りにおいて、その持ち主である本人がそこへ腰掛けていた。

「そこにいたんなら、ゼファーさんが風起こすのを止めてよ!」

「いえ、自然に吹いた風かもしれませんので」

「へ?」

 意外な返答にその女生徒は変な声が出てしまった。

 高性能感覚器センサー満載のスズがいうことなのだから、間違いは無いのかも知れない。

「うーん、スズちゃんがいうんならそうなのかな……」

 女生徒は納得しかねる顔のまま、寮の門から外に出て行った。

「あの方のサイズは89センチですね」

「あの方の身長からすると少し出っ張りすぎかもしれませぬな。だが、それもまた良し」

 その女生徒が行ってしまった後、スズとゼファーがこそこそとなにやら話し始めた。

「しかしスズ殿は凄いですな、見ただけでサイズまで分かるとは。さしもの我輩も無理でございます」

「目視情報による測量です。寮の玄関の寸法は分かっていますので、あとは目標との距離を計測すればほぼ分かります」

「さすがですな。そうやって基本に与えられた機能だけでは満足せず、自分に持たされたもので出来る新機能を探求するのも、また偉い」

「しかし、その形状に秘められた評価などは、長年積み重ねた審美眼によるものですので、その経験値が不足している私では、その一番重要な部分がゼファーさんには敵いません」

「何ごとも勉強ですぞ」

「はい」

「なにロクでもないこと話しあっとんじゃこのド変態コンビーっ!」

 突然玄関口から体操着姿の女の子が一人飛び出してくると、右手に持った大振りな釘抜きを振り回し、いきなりゼファーとスズの頭をぶん殴った。ゼファーの場合は布と藁なのでボフンですむが、スズの場合は鋼鉄製なのでヒットした瞬間に金属同士がぶつかる派手な音と共に、大釘抜マジカルバトンを掴んだ手が思いっきり痺れた。

「いたーっ!?」

 殴ったほうの手をぶんぶん振りながら体操着姿の生徒――委員長がお約束のように悲鳴を上げる。

「我輩も痛いですぞ娘殿!」

「通常状態の委員長さんの戦闘力であれば頭部に打撃を受けても傷は付かないので私は構わないのですが、多分そのうち委員長さんの手首の方が捻挫しますよ」

 衝撃で少し斜めになってしまった首間接から上を手で元に戻しながらスズが言う。

「うるさいわね! それでも殴らなくちゃならないのよ! なにキサマら聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるようなケツトークしとんじゃ!」

 しかも二人とも人間ではないという、ある意味天井知らずな恐ろしい状況である。

「委員長さんは本日は股関節部分がブルマ装備なのですね」

 委員長は何故か寮内で体操着、しかも下半身装備がハーフパンツではなくブルマであるのをスズが突っ込んだ。

「……ゼファーがあんなこというからちゃんと穿いてきてやったわよ! 感謝しなさい!」

 委員長はそういいながら、少しはみ出してしまっている尻の肉をしまうために食い込みを直した。

 最後の決戦時、ゼファーは魔封じの首飾りをかけられていきなり戦闘不能となっていたのだが、それは委員長も同じことなので、スズも含めて全員が無事に帰ってこれた約束として、委員長はこの格好になっていたのだった。

「こんなに良いおヒップを一日観賞出来るとは、試しにいってみるものですな」

 そう、約束では委員長はこの格好で一日ゼファーの前をうろうろすることになっているのである。委員長は今から頭が痛い。

「委員長さんの臀部は部屋の中でいつも見ていますが、やはり良い形をしていますね」

「改めてそんな風にいわれると超恥ずかしい!」

「我輩も自慢のおヒップでございます」

「私のケツがいつからキサマのものになった!」

「多分ゼファーさんに幼少時からずっと見られていたので、自然と臀部が鍛えられていたのでは」

「それは私が一番いわれたくなかったことだーっ!?」

 スズの指摘に、委員長が心から絶叫する。

 人間とは誰かに顔を見続けられていると、形が微妙に変わってくる生き物である。人前に出るのが基本の仕事である俳優や役者が「顔つきが目に見えて変わった」といわれるのはそのような理由。

 だからそれが顔以外の部分、例えば尻をずっと見られていたのだとしたら、自然と引き締まった良い形になっていてもおかしくない。そして委員長は小さい頃から、正体は知らなかったとはいえ、ずっと見られていた訳である、このド変態カカシに。

「というかゼファーはともかくとして、なんでスズまで隣りで女の子のケツ見てんのよ」

 喋るカカシの隣りで自動人形が一緒に女子たちの尻を観賞しているという、何故こんな異次元空間になっているのか、そもそもの原因を委員長は問うた。

「寮生の皆さんの形の言い臀部を見定める審美眼を鍛えるのも学習ですので、まずはそれをゼファーさんの下で学ぼうかと」

「何ごとも勉強ですぞ」

「はい、師匠」

 どうやら随分前にいわれたゼファーからのロクでもない教えを、スズは実践しているらしい。

 しかもこのド変態カカシを師匠などと呼んでいる。委員長は違う意味で頭が痛くなってきた。

「とりあえず他のたちが迷惑してるでしょ!」

「自然に吹いた風かもしれませぬぞ」

「私にそれが効くか! こちとら魔法少女だぞ!」

 といいつつも、昨今の少女たちは制服も私服もスカートが短いので、不自然な風が吹いても、捲れるのは最初から仕方ないと思っているのか、気にせずそのまま行ってしまう女子生徒も多い。そのような御時勢なので、委員長と同じようにオーバーパンツを常着している女の子も増えた。

「いえ、自然に吹いた風かもしれませんので」

 そして弟子がフォローを付け加える。

「……スズはもう一度首と胸だけになって、何も出来ない状態で床に転がされるとか、そんな酷いお仕置きをしてあげた方が良いみたいね、教育上」

 その態度を見て委員長は、危険な方向に片脚――既に両脚かもしれない――を、突っ込んでいるこの自動人形の矯正には、それくらいの猟奇的仕置きが必要なのではないのかと真剣に思ってきた。

「でもそれですと、視線が必然的に下に下がりますので皆さんのスカートの中を覗き放題ですね。臀部がいっぱい見れます」

「ぎゃふん!」

「みんなどうしたの?」

 自動人形らしい返しを食らって悶絶する委員長の後ろに、水上保安庁の制服姿の女性がやって来た。

「ん? あ、村雨さん、もう帰るの?」

 艦颶槌を入れた長袋という見慣れた格好に、少し大きめのバッグが追加されている。寮で短期間暮らすために用意した彼女の私物を入れたものだ。

「うん、お世話になりました」

 スズの護衛役を終えた龍那は第弍海堡に帰るのだ。

「リュウナさんがいなくなると寂しくなりますね」

 スズが箱から立ち上がって龍那の前に行きながら言う。脅威はもう去ったので、ずっと護衛してもらうわけにもいかない。さすがにこれは養母(雪火)の力でもどうにもならない。

「スズには前にも話したことあるけど、わたしは元々が旅人だからね。一つ所にずっといてはいけないのよ」

「……そうでしたね」

 龍那の真実を知っているスズは少し残念そうにいう。

「なによう二人だけの秘密の話ししちゃってー」

「委員長、あなたにはこれを」

 少し不満顔になっていた委員長に龍那が一つの封書を渡した。

 委員長は「なんだこりゃ?」という感じで渡された封書を見回すと、裏に封蝋がされていた。何か重要な物が入っている様子。

「……なんぞ?」

「水上保安庁配備の火炎放射戦車の一日貸与券」

「マジで!?」

「マジ」

 委員長はダメ元で――、いや、殆ど冗談に近いお願いだったのだが、先方では正式に受理されてしまった様子。

「事が終わった後に今回のことをムム隊長に報告したんだけど、わたしが委員長から火炎放射戦車のことを頼まれたことをいうとね『じゃあ私が本庁の方に行って頼んできてあげるよ』といって、それがこれ」

「……ムムさんって何者なの?」

「水上保安庁戦車小隊一番隊隊長だけど」

「……実はムムさんが水保の長官ってことはないよね」

「わたしはそんなところまで訊いたことが無いので分からないけど、全く無い……とは、言い切れない」

「……だよね」

 なんだか怖い考えになってきてしまったので、それ以上の詮索は止めることにする。

「それとこの券だけど、スズのお母さん疾風弾雪火さんの直筆サインも入ってるから、問答無用でどこにでも持って来てくれるよ」

 この貸与券を見て水上保安庁長官(今のところ誰だか分からないが)が難色を示したとしても、出資元の総帥が直々に戦車を運べる大型輸送機を用意してくれるだろう。雪火のサインとはそれ程のものである。

「で、どうやって使うのこれ?」

「水上保安庁の人間であれば誰でも良いから、これを見せればすぐに用意してくれると思う」

「村雨さんでも良いの?」

「今ここで使うと仮定すると、わたしがムム隊長の方に連絡を入れてムム隊長の方から本庁の方に出撃要請が行くから、最短で一時間くらいでやってくると思う」

 委員長はそれを聞くと、ギラリと目を輝かせて風使いのカカシの方を見た。

「フフフ、ゼファー、あんたの天下も終わりのようね!」

「何をいいまする娘殿! 文明の利器との風炎対決なぞ、我輩の方も望むところですぞ! 風使いのゼファーの名に懸けてその火炎、吹き消し去って御覧に見せますぞ!」

「まぁ今の内に精々減らず口叩いておきなさい」

 委員長はそういいながら、蝋で封がなされた封書を、折らないように大事に握った。これをもし使うとしたら、一体どういう局面なのだろうと考えながら。

「じゃあもう行くね」

 龍那はそういって荷物を抱えなおすと、寮の門へと歩いて行った。

「うん、また学校でね」

 委員長もさよならはいわない。機会は減るがまた会えるのだ。別れの言葉は必要ない。後ろでゼファーも「お元気でですぞー」といっている。

 スズは門のところまで着いていくと、そこで龍那を見送った。

 スズが「お元気で」と伝え、龍那も「スズも元気でね」と返した。

「私が今後他の機械神の中に行く決心をしたらその時はリュウナさんにお願いすれば良いですか?」

 スズが小さくいう。自分に持たされた役目を改めて外界からの使者に問う。こんな形で放棄したままで良いのだろうかと。

「スズ」

 龍那は委員長とゼファーからは見えない角度で右手の手袋を脱ぎ相手の手を握った。

「今はそんな覚悟なんか必要ないから、ここで精一杯みんなと幸せな時間を過ごすのよ。必要になった時に始めて機械神の下へ行くことを考えて、その時にわたしを呼べば良い。決心なんてその時にすれば良いのよ」

 龍那は剥き出しの右手でスズの頬を優しく撫でると、手袋を嵌め直し、その場を後にした。

「――」

 学校に置いてある戦車に戻るため、寮の前の道を歩いていく龍那の背中を、スズは静かに見つめた。

 寂しい。スズの機械の体も、今はその寂しさを感じている。そして受け止めている。

 でもだいじょうぶ。

 どこにいても繋がっている。

 そしてこれからも新しい関係はどんどん増えていくに違いない。

 新しい未来は、まだ始まったばかり。

 私はみんなに降りかかろうとしていた災いを打ち滅ぼすために、機械神から使わされた使者だったのかも知れない、使い捨ての。

 でもそうして使用済みになって廃棄されたとしても、まだ命が残っていたら。

「もう役目は果たしたのだから、そこから先の人生は自分の思うとおりに生きてみても、良いですよね」

 スズは小さくそういうと、二人の下へと戻った。


 ――Fin――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る