最強魔王と生贄聖女 ~魔王様早く食べてくださいっ!~【短編ver】

羽生ありす

第1話 ~生贄聖女は食べられたい~

「はじめまして、魔王様! 私は生贄聖女のR1897。どうぞ美味しく食べてくださいませ!」


 ――俺は2000年ほど魔王をやっているが、人間ほど醜悪な生き物を見たことがない。嬉しそうに両手をひろげる聖女も、ヒト族が国家授業として孤児から生贄にするために育て上げているのだ。とりあえず世界を五回滅ぼしても問題ない気がしてくる。


 銀髪と菫眼の聖女は、俺が黙ったのは、自分を見定めているせいだと思ったらしい。慌てたようにまくしたてる。


「あっ。痩せすぎて美味しくないとお思いですか? 私、脱ぐと結構すごいんです! おすすめはペリコッタチーズのソースか、バシール風味みたいです。踊り食いでも悲鳴をあげない訓練はつんでおります! ご安心くださいね!」


 ニコニコと語る聖女(生贄)に、俺は頭を抱えた。

 隣では、秘書兼側近のジンが笑いをこらえている。


「おい、ジン。これはどういうことだ?」

「毎年謝肉祭の日に生贄が送られてくるんですねぇ。今までの生贄は泣き喚いて自刃するか、武器を持った密偵だったのでこちらで”処理”してましたが、今回は害もなさそうなので魔王様の前までたどりついた、と」

「はい! わたくし、今まさに旬の、生贄としても完全完璧に脂がのっておりますから! まずはこの指先からでもご試食如何でしょう!」

「……ジン」

「はい」

「あとは任せた」

「えええっ。どうしてですか魔王様! あ、おしょうゆ味が良いですか? ニンニクステーキソースも持参しております! ラディッシュと一緒に煮てもおいしいらしく……!」


 自身の調理方法を話しつづける声を背中で聞きながら、俺は執務室へと戻る。やはり、人間のことはよくわからない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る