第6話 恐怖の始まり
天狗との会合の後、俺達は鞍馬寺を散策し碧を楽しんだ。
相楽 菫も、それとなく楽しんでいるように見える。
ここまでついてきたんだ、楽しんでもらわないと罪悪感を覚えてしまう。
誰かと、どこかに出かける。(普通の人間と)
そんな、忘れていた久しぶりの気持ちを思い出させてくれた。
楽しい。そんな気持ちに同級生といてなったのは、何年ぶりだろうか。
ただ、ここで浮かれてはいけない。
相楽 菫が、優しく付き合ってくれているだけで本心がどこにあるのか。
霊や妖怪が、見えるから仲良くしてくれているだけ。
そう考えているほうが、何かあっても傷を受けずに済む。
我ながら、卑屈だ。
まぁ、今更だが。
「お~い わしゃ、腹が減ったぞ!」
「私も、おなか減った」
「あそこのカフェでも入るか~」
「いらっしゃいませ~」
黒髪に眼鏡をかけたいかにも真面目そうな青年が接客に入ってくれた。
顔は中性的だが間違いない。
細身だが筋肉質な腕にいいなと羨ましく思える程だからだ。
「ご注文は、いかがされますか」
「え~と……抹茶のパンケーキとエビフライ」
「勝村君は、女の子っぽいね! 私は、ドレスオムライスとコーヒーゼリー」
「かしこまりました!」
「なんで、エビフライなの?」
「晴明が、好きだから」
「本当に仲が良いね~」
「まぁな」
「隆、よくやったぞ!」
「偉そうに 何も頼まなくてもよかったんだぞ!」
「ふ~んだ」
え~い!
可愛い、うざい、可愛い。
人間相手だったら、どう思っていたのかわからないな。
そっぽを向く、晴明にそんな感覚を覚えていた。
「あの、怒らないの?」
「え??」
突然の話の転換に頭が追い付かなかった。
楽しそうに鞍馬寺を観光していた人間から、突然、怒らないのと聞かれても分からない。
「駅で待っていたこととか、御香宮で覗き見していたこと……」
「あぁ~見られたのは、俺の不手際だからな~
声かけてこれば、良かったのにって思うぐらい」
「それなら、良かった~」
ほっと、安堵の溜息のようなものが相楽 菫から漏れる。
肩の力が抜け、自然な位置に戻った。
「でも、駅で待っているのは少しやめてほしい……」
「は、はい。すいませんでした……」
「嫌なわけではないんだけど、罪悪感があるから」
「私に気遣いは、必要ないですよ!」
「俺の気持ちの問題かな」
失笑を浮かべてみると察してもらえたのかこれ以上言及されることは無かった。
もしかすると興味が損失しただけかもしれないが。
「まぁ、それはともかく。 私の事は、菫でいいよ~」
「うん わかった。俺は、隆。これは、晴明で大丈夫」
「何故、わしゃの呼称までおぬしが決めるんじゃ~」
「う~ん。 じゃあ、何がいいんだ?」
「そうじゃな~やっぱり、晴明かのう~」
「ほら見ろ!ってことで、改めてよろしく」
女性を名前で呼ぶのは、いつ振りだろうか。
掘り返すと、辛い記憶にたどり着きそうだからやめておこう。
「おまたせしました。こちら、ドレスオムライスとエビフライです。 抹茶のパンケーキは、食後は、食後にいたしましょうか?」
「いえ、今よろしくお願いします」
「かしこまりました」
気遣ってくれたのだろう。
普通猫がエビフライを食べるなんて思わない。
「いいよ、先に食べて!」
「じゃ、お先に。 いただきます!」
「すまぬな。いただくぞ!」
「何の決意表明だよ」
「おまたせしました。抹茶のパンケーキです」
食事の沈黙を破ってくれたのは店員さんだった。
「ありがとうございます!」
「ご注文は、以上でよろしかったですか?」
「はい」
「では、ごゆっくりどうぞ」
とても丁寧な対応だった。
これが普通だと、感じるかもしれないが普通ができない人間が多い。
「美味しそう……」
思わず涎が垂れてきそうな程だ。
綺麗な抹茶色に粒あんとバニラアイスが乗っている。
俺はこし餡より粒餡が好きだ。これは、譲れないところだが、世の中のこし餡好きに配慮して何も言わない。
なんて、器の大きさだろうか。
「はぁ~ごちそうさま~」
「隆! おかわり!!」
「ここは、家じゃない! 本当、美味しいな~」
晴明を一刀両断にし菫を捌く。
二人ともゆっくり食べていてくれたようだが食べ始めが遅かった。
「ごめん。ちょっと待っててな~」
菫に詫びを入れ、残り三口程を早々と放り込んだ。
「ごちそうさま~お待たせ!」
「遅いぞ~」
「うるさいな~それじゃ、行こうか」
楽しいな。
食事によって、人間関係の感覚を少し取り戻した気がする。
どこかで、周りの環境を妬んでいたのだろうな。
人間という、くくりでも多種多様なものだ。
一つとしてまとめるのは、あまりよろしくないのかもしれない。
そこから更に鞍馬の土地を観光した。
鞍馬から森を抜け貴船神社に抜ける。
建物による柵がないせいだろうか。より一層森が輝いているように感じる。
「蝉の声が、凄いね……」
「そうだな~さすが、森って感じだ」
「わしゃは、耳が潰れそうじゃ」
「なぁ、晴明。平安時代って、蝉はいたのか?」
「おったぞ~古今和歌集にも蝉は出てくるじゃろう?」
「そうなのか!知らなかったな~」
「へぇ~平安時代にもいたんだ!」
「相変わらず、隆は知識が少ないのう~」
「余計なお世話だよ」
どうだと言いそうな態度に、多少の苛立ちを感じた。
もっと大人にならないとな……
辺りが暗くなり始めた。
「まだ、そんな暗くなある時間じゃないのにな」
「森だから、光の入りが都会と違うからじゃない?」
「そうじゃな~」
「今何か、うめき声しなかった」
「え、本当?」
「耳を澄ませてみてよ!」
「グオー」
森のほうからだろうか。
確かに聞こえる。
「本当だな」
「この道をを早く、抜けたほうがいいようじゃな」
そこから、早歩きで森を出ようとした。
だが、そのうめき声は徐々に近づいてくる。
「うめき声が、消えた?」
「隆、後ろじゃ!」
晴明の声に思わず振り返ってしまった。
そこにはあまりにも恐ろしい生物が立っていたのだ。
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