第99話「又兵衛の武志道」
野獣を率いていた強者は
又兵衛は
放浪中の又兵衛は時には残忍とも思える程の行為を行い荒くれ者を従えた。
武を以て秩序を為す…
それが権力を捨て
「……ま、俺様の
「生まれ持った環境は変えられない。だからこそ環境を得ている者が持たざる者を導く、それもまた必要な事だと?」
夜は更け、既に今日となった江戸入り後の話を終えた義太夫と喜助が近くの寺に酒を貰いに行っている間、慶一郎と又兵衛は一対一で意見を交わしていた。
「ああ。人としての生き方を知らねえ奴等が人道に
(やはり似ている…考え方に多少の差異はあれど、
「
唐突に慶一郎が切り出した。
「あん?なんだ急に改まっちまってよ。改まるほどの
「ええ、そうです。少なくとも私には」
「そうか。なら……」
慶一郎は
これは、自らに礼を尽くさんとして座り直した慶一郎に対する又兵衛の返礼であった。普段は粗雑な態度を取る又兵衛だが、その実は紛れもなく
「これでいい。んで
その言葉を放った又兵衛の態度にはどこにも粗雑さはなくなっていた。それを見た慶一郎は一層改まり、視線を逸らさずにゆっくりと口を開いた。
「…
「ああ、
「ええ。では本題です。…
「力だと?…単なる牢人に何が出来る?」
「
「将?ってことはおめえ…」
「はい。近く豊臣は将兵を集い挙兵します。それに伴い早ければ年内には戦となるでしょう。相手は無論…」
「徳川か。くくく…戦か。なるほどやっとわかったぜ。真田んとこの次男坊が
「…言葉を交わす
慶一郎は
信繁と慶一郎、二人の出逢いは
出逢ってすぐに二人は互いに
慶一郎は徳川の世をより深く知り、その是非を自らの眼で見極めるために江戸を目指し、信繁は自身の描く世の実現に際して必要不可欠な戦いの時に向けて刺客から身を隠して療養せざるを得なかった。
二人が出逢った時の状況、その激烈な運命の奔流が慶一郎と信繁に多くを語り合う
「豊臣の血か。ま、口上としてはそんなとこだろうな…だがな
「…では、
「さあな。…どうやら二人が帰ってきたぜ。まずは呑み直しといこうや」
「
「おう。たりめえだ。おめえが俺様に対しても世の中に対しても
その言葉の直後、喜助と義太夫が小屋の中へ入ってきた。
「二人共待たせたな。気付けの酒以外全部貰ってきたからとことん呑もうぜ!」
「なあに心配ない!!
当時の寺には必ず酒が置いてあった。
その理由は二つ。一つ目は喜助の云った気付けの酒、即ち怪我をした人間の傷口の消毒用の酒というのが一つ。もう一つは義太夫の云った様に仏門に入り寺に住まう者が呑む酒と客人を
「うっせえぞデカブツ!
「出来るものならやってみい!!」
「まあまあお二人さんよ、楽しく呑もうぜ。なあ、
「…
慶一郎のこの言葉で場の雰囲気が一変した。
騒がしさは消え去り、緊張にも似た真剣な空気が小屋を満たした。
そして、喜助と義太夫が座ると慶一郎は口を開いた。
「
「くくく…ああ、構わねえぜ。呑みながらならな」
「ほれ、お主の分じゃ」
「おう、ありがとよ。んん…ふはっ!こいつはなかなかいけるな。…さてと何から話すかな。とりあえずは
義太夫が酒を渡すと又兵衛はそれを杯に注がずにそのまま少し呑み、それから再び四人が揃った小屋で自身の知る事を話し始めた。
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