第44話「早雪の強さ」
「ちっ!外れたか…少しでも前に進んでりゃあ当たったんだがなあ…」
そう云いながら、矢を放った者が二人の前に姿を見せた。
「外れたのではなく、外したのではないですか?わざと軌道をずらしていたのでしょう、
慶一郎に向けて矢を放った者、それは他でもない鬼助であった。
「さあな。それにしても今回は出来るだけ無心で放ったつもりだったが、まさか
「
早雪は鬼助の姿を捉えるや否や
「待て待て待て!落ち着け
「問答無用!!先に洒落にならぬ事をしたのは貴様だ!!峰打ちであることをありがたく思え!!」
洒落にならぬ事。
早雪の云ったそれは鬼助が慶一郎に向けて矢を放った事であり、鬼助の云ったそれは早雪が短刀で斬り掛かっている事である。
短刀とは云えど日本刀。日本刀である以上は一定の
峰打ちとは、決して安全なものではなく、当て様によっては人の命をも奪うことの出来る強烈な殴打なのである。
それ故に峰打ちだからと安心することなど出来るものではなく、鬼助は早雪の行動に驚いていた。
「
「
「はあっ!!」
「くっ!
慶一郎は早雪が鬼助に斬り掛かり、鬼助が心底困った顔で辛うじてそれを
その時の鬼助の
空の想い…
それは、自身の留守中に里を
慶一郎は空の想いがわかった。慶一郎は空が例え短期間でも鬼助が早雪と共に過ごす時間を作りたかったのだと感じた。
そして、慶一郎は気がついていた。空にはわからなかった早雪の持つ何か、桜と佐助に笑顔を齎したその何かが優しさであることを…
(
慶一郎は早雪の強さを悟った。
早雪の強さ…
それは、剣の腕や
他者の悲しみ、他者の痛みを決して他人事にはせず、それを共に背負い、和らげようとする想いやり、それこそが早雪の根幹、早雪の持つ真の強さであると慶一郎は悟った。
慶一郎の悟った早雪の根幹、真の強さ、それは空が早雪に云った言葉にも現れていた。
『汝はそうあるべきだ』
空は早雪と出逢ったその日、早雪と慶一郎と出逢ってから間もない時に早雪へ向けてそう云っていた。
その言葉は、長い間殺戮者として生き、相手の実力を見抜くことに長けていた空が早雪の強さの根幹を見抜いた言葉だった。
その言葉は、早雪が身を挺して空から慶一郎を
その言葉は、早雪の生き方、早雪の信念を聞いた空が早雪を認めた言葉だった。
他者を護ることに力を使え…
空は早雪にそう云っていた。
空の里を訪れてからの一連の出来事で、慶一郎が早雪に対して悟ったことと、空が長年の経験から見抜いたこと、それらは他者のためという点で共通していた。
早雪の根幹…
早雪が早雪である由縁…
それは
そのためには時として自身の命すら
それは、慶一郎に対してだけではない。場合によっては見知らぬ者のために殉ずる程の優しさが早雪の根幹であり、早雪らしさなのである。
それ故に早雪は、弱者が虐げられる世の中を変えたいと願い、父である
早雪は常に自身の幸福よりも他者の幸福を願い、自身の悲しみを避けるよりも他者の悲しみを避けることを優先し、自身に痛みが伴おうとも他者の痛みを防ごうと行動する。
それが、早雪である。
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