24

 シーバイズの一般的な家は、回廊をメインに作られていることが多い。部屋を四つ作り、その周りを廊下で囲む、というのが基本スタイルだ。夫婦の部屋なら扉をつけて直接行き来できるようにすることもあるが、四つの部屋に回廊、という形が当たり前で、故にシーバイズの家は四の倍数で部屋がつくられる。

 増築をする場合も、廊下の一辺を挟んで向かいに四つの部屋と回廊を建てる。

 それから基本的に平屋だ。なので、本当に土地が必要になる。田舎で人口も少なかったから、土地は結構あったけどな!


 なんでそういう文化になったのかまでは流石に知らない。わたしがシーバイズに生まれたときは既にそうだったし、そういうものなんだ、って深く考えたこともなかったしね。


 と、まあ、そんな感じのことを余計なことを省きつつ、かいつまんで説明すると、あからさまにイエリオさんはしょんぼりしたような顔になった。


「カイロウ、という文化は気になりますが、確かにそのような形では、フィンネルでは難しいですね」


「というか、四つづつ部屋が必要なんだろ? 俺らは五人、部屋が八つあるって、かなり豪邸にならないか?」


 いや、多分正確には十二必要になると思いますよ。リビングにキッチン、風呂と脱衣所ですでにワンセット使うので。とは、言わない。流れ的にシーバイズ形式にはならなそうだし。

 わたしだけでなく、グリオンさんとウィルフさんから反論されてしまい、目に見えて落ち込んでいる。なんだか可哀そうになってきた。


 うーん、フィンネル式にも合いそうな建築様式、なんかなかったっけ……。


「あ、窓枠とドアノブはどんな感じになりますか?」


 ぱっと思い出したのは窓枠とドアノブの彫りだ。窓枠には不審者防止用、ドアノブには魔除けの模様を彫りとして入れるのもまた、シーバイズの家の特徴だ。窓枠の方は本当に不審者が来たら警報がなったり、そもそも侵入をさせなかったり、と実用性のある、魔法陣を簡略化したものを彫り込むが、ドアノブの方は完全に魔除けと言われているだけで実際には特に効果のない模様だ。

 ただ、これ、実際に彫り込んであるので、めちゃくちゃ埃がたまる。非常に掃除が面倒だし、手間がかかっているのでお金もかかるというデメリットがある。そのため、だんだんと廃れていき、今では彫りではなく塗料で書き込んだり、そもそも特に手を加えなかったりするようになったのだが。


 これもまた、シーバイズと言えばシーバイズの文化である。文化と言うか……廃れつつある伝統だが、まあ、嘘ではない。

 今世の祖父母の家はちゃんと彫ってあったし。築四十年以前の家には標準であるのだ。


 説明をし、実際に模様の図を書いてみると、少し難しい顔をされた。先ほどよりは全然現実味のある提案ではあるが、やはり金がかかるらしい。この辺だとこういった装飾は大きい商会の商人なんかはするみたいだが、庶民はしないようだ。


 とは言え、他にないんだよなあ、と思っていると。


「お金なら! 払いますから!!」


 というイエリオさんの必死な要望により、この案は通ることとなったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る