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じい、とこちらを見る目は、単純に気になったから聞いてみた、というわけではなく、どこか値踏みするような、そんな感じのものだった。面接、というと大げさかもしれないが、わたしを確かめているような、そんな視線。
イエリオさん自身が、あるいは彼の身近な人間がこの物語の主人公と似たような目にあった、とでも言うのだろうか。
「まあ……諦めるしかないんじゃないですかね?」
わたしだったら諦めると思う。
そこまで何かに熱中出来ない、というのもあるが、そもそも二度ほど唐突に今までと違う生活を強いられているのだ。以前までの評価が全くあてにならない、ということを経験している身からすれば、諦めるのが一番簡単で、負担にならない方法だと思う。
悔やんでも過去は変わらないのだから。
しかし、イエリオさんはこの答えが不満だったらしい。あまり、明るい表情とは言えなかった。
「そうではなく……ええと、聞き方が悪かったですね。自分が失うのではなく、失った人間に対してどう接するか、という話です」
他人が、かあ。それなら流石に、簡単に「諦めれば?」とは言えない。わたしの潔さは唐突に転生して、再び唐突に転移したことによるものだ。そうやって強制的なリセットがあったからこそ、何があってもあっけらかんとしていられる自信になったのだ。
普通の人だったら、対して入れ込んでいなかったとしても、一つの能力しか認められていないのが現状だとしたら、そうそうそれを手放すことは出来ないだろう。
「まあ、その人のその後次第、ですかね……?」
「というと?」
あんまり頭の中でまとまらないまま答えてしまったので、そう深堀されるとちょっと困る。
わたしは言いたいことを頭の中で整理して、口を開いた。
「うーんと、つまりですね、もしその相手が何か似たような道を探すのであれば応援しますし、わたしの様に諦めたとしても、けなすようなことはしないと思います。ただ、もう手元にない栄光にいつまでも縋って威張り散らすのなら見限る、ってところですかねえ。相手の出方しだいです」
小説の主人公で言えば、歌えなくなったところでファンだったのならそう簡単に離れはしないし、パッと嫌いになるわけではない。でも、いつまでもうじうじされていたらそれはそれで嫌いになる要因になりえるので、歌姫であった彼女を綺麗な思い出とするためにそのまま離れて行くだろう。
「まあ、全く同じ対応は無理だと思いますよ。出来なくなってしまったのなら、それを頼めなくなりますし」
何の能力かは知らないが、歌えない人間に歌えと言っても酷な話だろう。
「この答えで大丈夫ですか?」
わたしがそう聞くと、イエリオさんは「大丈夫です」と答えた。あんまりにこやかな顔ってわけでもないけれど、険しい顔でもないので、及第点ってところなんだろうか。
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