第9話 デビッド


 3人は町の中心部へ歩く。


 通りはどこもお祭りのアーケードで飾られていた。


 中心部にはフェスティバルの運営本部と、大きなホバーバイクが置かれていた。


 トールとグレイは少し遠くからバイクを見ている。


 「お、がきんちょ、来たな」


 「デビッドさん」


 「お前は、グレイか?」


 「うん」


 「大きくなったな、俺が町にいた頃はまだ学校に上がったかそれくらいだったよな」


 「そうでしたっけ?」


 「こっちはトールか」


 「うん」


 「こちらのお嬢さんがカナリアちゃんかな」


 「はい」


 「みんなの前にあるホバーバイクの説明をすると、まあ、一言で言えば化け物だな、これは、PN-1っていうんだ」


 「そうなんですね」グレイは目がキラキラしていた。


 「グレイはいい反応だな、乗ってみたいか?」


 「え?いいの?」


 「3人順番に乗せてやるよ」


 「あ、ありがとう」



 ホバーバイクの浮遊感。


 魔法石の駆動音がしたかと思うと、上にふわっと浮き上がる。


 走ったのはおそらく、500メルほどだろう。


 それでも、十分だった。


 3人ともそれぞれに興奮していた。



 その時だった。


 町の中心部で叫び声がする。


 どうやらモンスターが現れたようだ。


 ただ、町役場の避難誘導の声が尋常じんじょうではない。


 ツインデビルが現れたようだ。


 ツインデビルとは子どもの身長ほどしかない、双子の悪魔で懸賞金が2,000金貨ほどかかっている。


 ツインデビルは相当な知性があるらしく、人殺しを楽しんでいるようだ。


 そして、ツインデビルが現れた町や村はことごとく壊滅している。


 町には5,000人の住民がいるが、それぞれパニックを起こして入り乱れる。



 「トール、お前が一番年上だ、他の2人と逃げろ、家に帰ろうとするなよ、ツインデビルなら、俺たちを皆殺しにしようとするはずだ、だから、うまくすり抜けろ」



 そう言うと、デビッドは長剣を手に、PN-1に乗って町の中心部へ向かった。



 中心部はひどい有様だった。


 首を刎ねられた死体。


 両手、両足を切り離された子ども。


 心臓や、両目をくりぬかれた死体。


 ツインデビルの姿は見えない。


 子どもほどの身長だというが。


 デビッドは上空から町の様子をうかがう。


 

 いた。


 赤の悪魔と青の悪魔。


 赤の悪魔の方が住民を襲っている。


 一直線にホバーバイクを走らせる。


 赤の悪魔の目が光る。


 デビッドの体に恐怖が走る。


 赤の悪魔の両目から出る怪しい光線を左腕に受けると、デビッドの左腕は吹き飛んだ。




 グレイたちは、いつもの遊び場にまずは逃げ込んだ。


 周りには人影はいない。


 あちこちにあった悲鳴もほとんど鳴りやんでいる。


 もう、デビッドが退治してくれたのだろうか?


 トールとグレイが話し合うものの結論は出ない。


 小さな森の秘密基地。


 3人はそこで、3時間程じっとしていた。


 カナリアはガタガタと震えている。


 グレイがじっと手を握る。


 「俺、周りを見てくるよ」


 「え?大丈夫?」


 「ああ、何かあったら、お前が隊長だ、カナリアは守れよ」


 「うん」


 トールは、そのまま帰ってこなかった。


 町の外に逃げたのか、ツインデビルに殺されたのかも分からない。


 さらに、2時間グレイとカナリアは2人で救助を待った。


 もう、外も真っ暗だ。


 「グレイ、私、もう、耐え切れないよ」


 「カナリア」


 「ねえ、私たち、助からないよ、それならさ、自分たちで死んじゃったほうがいいんじゃない?」


 「最後まであきらめちゃだめだ、カナリア」


 「でも、トールだって戻ってこなかったし、パパやママももう殺されちゃっているよ」


 「そんなことは言わないほうが良い」


 「ね、私、グレイのこと好きよ」


 「え」10歳の少年には衝撃的な言葉だった。


 「一緒に死のう」


 「だめだ、カナリア」


 「そう」


 「カナリア」


 カナリアはすくっと立ち上がると、秘密基地から出て行く。


 グレイもその後を追う。



 静まり返った町、深夜ということもあるが、それにしても人声もしない。


 道端にはたくさんの遺体が転がっている。


 男の人、女の人、少年、少女、老人、見境がない。


 そして、少し離れた方に、いる。


 青いドレスを着た、悪魔。


 2人を見つけると、走ってもいないのに、すごいスピードで近寄ってくる。


 グレイはカナリアの手を取って、反対方向へ走る。


 少し走ったところで、カナリアは息を切らして足を止めてしまう。


 「カナリア」そう振り向いた時。


 カナリアの首から上がなくなっていた。


 「カナリア!!」

 

 青い悪魔が近寄ってきても、もうグレイは逃げなかった。


 近くにある棒切れを持って立ち向かう。


 青い悪魔は少し驚いたようにグレイを見る。


 グレイは走って、悪魔の方へ向かう。


 その時、轟音がして、デビッドの乗るPN-1が現れた。


 乗っているデビッドも満身創痍だ。


 片腕しかないデビッドはその右腕でグレイを摑まえると、そのまま高く浮上し町から離れた。


 「デビッド・・・」


 デビッドは左腕の傷だけでなく、腹部にも大きな傷があった。


 革ジャンにはべっとりと血が絡みついている。


 それでも、PN-1を最高速度まで持っていき、全力で町から離れる。


 1時間程、飛ばして大きな都市に着くと、デビッドはホバーバイクを止めた。


 周りには人が集まってくる。


 「グレイ」


 「なに?デビッド」


 「このバイクはお前にやる」


 「え?これ?そんな?デビッドの大切な物でしょ?」


 「いいんだ、これはお前にふさわしい、青い悪魔に向かっていく少年なんて初めて・・見た・・・」そこまで言うと、デビッドは大量に吐血して意識を失った。


 大人がたくさん集まってきて、グレイから事情を聴いた。


 



 

 気づくと、毛布が掛けられていた。


 サヤか・・・。


 子どもの頃の夢。


 たまに、見ることがある。


 ツインデビルとはまだ決着をつけていない。

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