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二人の姿が見えなくなると、わたしはそのまま玄関を閉めた。流石にこの紙袋をもったまま、外をうろつけない。
これ、中身はなんなんだろう。学園祭の余りで作ったって言っていたけど……。
わたしは姫鶴から貰った紙袋を開けた。中には大判焼きのような食べ物が四つほど入っている。ちょっと楕円形っぽくて、大判焼きのように完全な円形ではない。ほんのりオレンジ色のものと、緑色の葉っぱが生地に練りこまれているのが見えるものと、二つづつ入っている。透さんとわけて食べて、と言っていたし、食べ物なんだろう。
……あの姫鶴らしき女性にも認知されているほど、わたしと、その、『透』という人は仲がいいのか。
ふと、袋の側面にメモ書きがあるのに気が付いた。『オレンジ シ』『葉っぱ タ』という、急いで書いたのが丸わかりな走り書き。どっちがどっちの味、というのが判別できるように書いてくれたのだろうが……シとタだけでは、味の想像がつかない。
「うーん、ま、いっか」
わたしが貰ったものなのだ。食べて問題ないだろう。
できたてなのか、四つとも、紙袋に入れたままでもほんのりと熱が伝わる。折角だし、今一つ食べちゃおうかな。
オレンジ色の方を今一つ食べて、残りは後にしよう、と一口かじり――居間の方へと向かっていた足を止めた。
「ふももっ!?」
なんだこれ! すげー味だな!?
オレンジ色だから、てっきり柑橘系のお菓子だと思っていたのに、とても裏切られた。
口の中に広がる風味は――パクチー!
甘くないし、パクチー独特の臭みが口の中を支配する。うぐぐ、香味野菜嫌いなんだよぉ……。
貰い物にケチをつけるのはいけないと分かっているが……まずい!
いや、でも、学園祭の余りの材料ってことは、これ多分、学園祭で売ってたんだよね……? ということは、これが単純にわたしの口に合わないだけで、この世界ではこれは標準的な料理なのかもしれない。
「ん……む、むぅ」
一口、口に入れて固まってしまったが、何とか咀嚼する。人から貰った食べ物を捨てるのも、一度口をつけたものを吐き出すのも、わたしのポリシーに反する。
なんとか、これだけでも、食べる。食べるのだ!
「ぐ、ぅ……ん!」
ごくり。何とか飲み込んだ。
二口目、どうしよう、食べかけを誰かに渡すわけにはいかないし、かといって食べ切れる自信はない。
でも、明らかにお礼の品であるこれを捨てるのはなしでしょ……と悩んでいると、頭に強烈な衝撃が走った。
わたしは思わず持っていた紙袋を落とす。なんなら、持っていた大判焼きもどきは握りつぶしそうになってしまった。
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