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 でも、よくよく考えてみれば、結構考えなしな発言だったかも。いや、実際、何も考えないで言ったんだけど。

 透くんは祖父が引き取ってきた子供だ。ということは、彼の両親は既にこの世にいないか――もしくは、まともな家庭環境じゃなかったか。


 ちゃんと学校に通えるような状況じゃなかった可能性はあったのに、そこに配慮することができなかった。前世でも今世でも、そんな家庭環境の人間が周りにいなかったから、頭の中から、そういう人もいるのだということが抜け落ちていた。


「あ、ご、ごめんね?」


 なんてフォローすればいいのか分からないまま、考えなしの発言を謝れば、「いいえ、万結さんと学校に通うのは楽しかったですから」と笑って許してくれた。いい人過ぎる。

 でも、笑って許してくれたからって、何言ってもいいってわけじゃないよね。今後はもう少し、発言に気をつけないと。あんまり気を使いすぎてギクシャクするのもアレだけど、親しき中にもなんとやら、ってやつだ。


 そんなことを考えていると――。


「――あら。万結ちゃんじゃない」


 ――聞き覚えのある声が背後からした。

振り返ると、湖黒がバインダー片手に立っている。

 実際に彼が制服を着ているのは初めて見る――……立ち絵のイラスト、こんな感じの制服の着こなしだったっけ。もっとかっちりしっかり着込んでいたような記憶があるけれど……もはや別人だから、気にすることでもないか。

 着崩した制服を着る彼の腕には、実行委員、という腕章がつけられていた。


「こんにちは。文化祭、来てたのね」


「はい、姫鶴に招待してもらって」


 軽く話をしたが、どうやら彼は文化祭の実行委員として見回り巡回をしているらしい。


「折角の文化祭、ひぃちゃんと回りたかったのに、負けちゃったのよね……」


 残念そうに言う湖黒。何で負けたのかは知らないが……おそらくは攻略キャラの面子で争奪戦みたいなことがあったんだろうな。多分。


「だからこれ、あげるわ」


 わたしは湖黒からチケットのようなものを二枚もらう。


「後夜祭ステージの観覧チケット。アタシ運営側で、客席から見られないから持っててもしかたないもの。……観覧チケットより先に、ひぃちゃんの予定を押さえるべきだったわ」


 はあ、と深い溜息を湖黒が吐く。


「後夜祭って……学生たちだけでやるんじゃないんですか?」


 わたしは今まで文化祭の後夜祭がある学校に通ったことがないからイメージでしかないけれど、来場者が全員帰ってからやるものだとばかり思っていた。


「それは二部ステージ。一部は劇とか、歌唱とかで、一般客もチケットがあれば見られるの。音響や照明関係の万道具の発表でもあって、企業も注目するんだから」


 へえ、それは面白そうだ。

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