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「な、なんでそんなこと考えていたんですか?」


 そわそわと落ち着きがなさそうに透くんが問うてくる。

 ……冷静に考えたら、急にする話じゃないな?


 いくら暇とはいえ、開店中に上がるような話題でもない。結婚のための万道具の注文があったならまだしも、突拍子もなさすぎる。透くんの顔がいいなあってじろじろ見てた、なんて言うの、気持ち悪すぎるな。

 既に会話の軌道修正が難しくなってから、自分の気持ち悪さに気が付いた。


「え、あー、えっと、ほら、姫鶴――さん、いるじゃない。彼女、恋人と結婚したら、どんな万道具注文してくれるかなって。そしたら、透くんが目に入ったから、透くんが結婚するときには、どんな万道具をお祝いでプレゼントしようかなー、なんて考えてたの」


 結構苦しい言い訳ではあると思うけど、それっぽい嘘を考える。


「縁金魚を預けてくれるような人だから、珍しいもの作らせてくれないかなって」


 駄目押しでそう言ってみれば、透くんは納得してくれた。今、姫鶴からの注文で作る縁提灯のための素材作りをしているから、説得力はそれなりにあったのだろう。


 ……ちなみに、姫鶴の方から、縁提灯の製作依頼のキャンセルは来ていない。彼女が縁提灯を必要としていたイベントは十中八九消化されているから、いらなくなった、とキャンセルされてもおかしくはないのだが。

 イベントを消化した後でも欲しいのか、キャンセルを忘れているのか、どちらなのか定かではないが、キャンセルと言われないことをいいことに、わたしは着々と縁提灯の製作を進めている。


「わたしは結婚するつもりないから、結婚用の万道具作るタイミングを折角なら逃したくないし」


 なんの気なしに、そんなことを言うと――。


「て、店長結婚しないんですか!?」


「うおぅ、うるさっ」


 耳がキーンとなるほどの透くんの大きな声に、肩がびくっと跳ねる。そんなに驚くことか?

 そこまでわたしの結婚事情が気になるか? 仮に結婚したとしても、わたしが万道具製作を辞められるような女じゃないことは分かっているだろうに。


「手は荒れ放題で万道具が最優先。仕事中はあんまり化粧しないし……需要、ないと思うよ」


 顔は腐っても乙女ゲーヒロインと同じもの。顔面可愛い部類だと自分は思っているけれど、中身が中身だから……。

 ヒロイン補正なのか、顔は手入れしなくてもほとんど荒れず、シミもニキビもない綺麗な肌だし、食べても太らないでスタイルはいいまま。


 でも、手荒れだけはどうしようもない。

 そう言えば、パラメータ次第では、攻略キャラがハンドクリームをくれたことが何度かあった。ハンドクリーム、というか、万道具の軟膏なのだが。採集に入る前の小さいイベントとして渡されてくるので、流石のわたしでも知っている。


 なので、手荒れだけはいくらヒロインと言えども蓄積されていくものなのだろう。ゲーム内ではない、今のわたしには、適度にハンドクリームをくれる攻略キャラがいないから、荒れ放題なままだけど。

 でも、別に欲しいわけじゃないしな、と思いながら、わたしは手荒れで固く、カサカサになった自分の手を撫でた。

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