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ゲームが現実になってしまうと、『設定』も『設定』ではなくなるのだな、と、至極当たり前のことを、店にやってきた男の顔を見て、思った。
「先日は弟が迷惑をかけたみたいで悪いな」
詩黄が店にやってきて、わたしのことを散々ブスだと言って帰った数日後。赤希がわざわざ菓子を持って謝りに来たのだ。
彼が持ってきたのは、この辺で有名な菓子屋の羊羹だった。しかもめっちゃしっかりしたやつ。羊羹は透くんが好きなので、彼が配達から戻ってきたら分けてあげよう。
赤希の隣には、泣くまで怒られたのか知らないが、目じりがちょっと赤い詩黄が、ぶすっと不満そうに顔をそらしていた。
「おら、お前も謝れ!」
そう言う姿は、ちゃんと『お兄ちゃん』だった。言葉こそ荒っぽいが、兄をしっかりと務めている。
……公式ホームページには、兄弟仲が良くないと書かれていた気がしたんだけど……気のせいだったかな? 少なくとも、仲の良くない兄弟ならば、弟がなにかしでかしたところでこうやって一緒に謝りにはこないと思う。
『兄弟』という設定が、『設定』ではなく、現実のものになっているのを感じながら、わたしは彼らを見た。
「――……ごめんなさい」
謝るのが不満です、反省してません、という態度を隠しもしないまま、詩黄は言った。
わたしにそう伝わってしまっているのだから、当然、赤希も分かっただろう。「ちゃんと謝る!」と詩黄の頬を思い切りつねっていた。
「いた、いたたた! 何するのさ! 言っておくけど、ボクは悪くないからね! いつもこの女の話をしてまともにボクの想いを本気にしてくれない姫鶴と本当にブスなこの女が悪――痛い痛い痛いッ!」
そのまま頬の肉をむしり取ってしまうのでは、とはらはらしてしまうほど、赤希が詩黄の頬をつねる、というか、つまんだまま、ねじっている。
そりゃあ、面と向かってブスと言われて何も思わないわけじゃないけど。
でも、別に、前世は詩黄が推しだった、というわけでもないし、そう言った理由が理由だし、というか死亡フラグとは別のヤバいフラグを立てていそうな姫鶴の方が心配だしで、そこまで気にしているかと言われたらそうでもない。
むしろ、『人の心を操る万道具』の話の方に印象を持っていかれてしまったのだ。
だから、本当にそこまで気にしていないのだが――。
「――ッ、事実でも、言っていいことと悪いことがあるって、兄ちゃん教えただろ! 何でも口にしていいってわけじゃないって!」
――気にして、ない、んだけどなあ。
思わず、という風に言ってしまった赤希を見て、なるほど、これは『兄弟』だな、と、わたしは一人場違いなことを考えていた。
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