はじめてのクラブ活動


 この世界で初めてシャドウウルフと遭遇してから三日が経った。

 今のところ新たに目撃情報はないし、テレビなどのニュースもよくチェックしているが特に情報を得ることは出来なかった。

 これとは別の話にはなるが、毎週水曜日の放課後にリコーダーを音楽教師のオバサンから直々に伝授して貰うことが決まった。その際に陽菜もリコーダーが上手く吹けないからと言って一緒に放課後練習することも確定した。


「この後は初めてのクラブ活動になるから、各自集合場所に向かうように」


 五時間目がいつもより少し早め終わると即座に帰りのホームルームが始まった。

 何故かって? そりゃ何を隠そう、今日は初めてのクラブ活動なのだ!


「夜、佐倉先生がちょうど言ったばかりなんだから同じこと二回も言わなくていいよ」

「…………」


 ナチュラルにヒトの心を読んでくるな。お前はエスパーか。

 それから美人教師に連絡事項を伝えられると、「さようなら」の挨拶をして解散となった。


「夜、どこで着替える?」


 解散すると陽菜がわたしに聞いてきた。

 事前に貰った資料によると、着替えを済ませてから体育館に集合とのことだったので、着替えを済ませる必要があるようだ。着替えは体操着ではなく、休日ランニングで使っている白いジャージだ。

 わたしたちの他にも運動系のクラブに入った人たち……主に男子だが、既に着替え始めようとしている。


「え? ここで良いんじゃない? ほら、未来ちゃんなんてパンツ一丁だし」


 わたしがパンツ一丁の未来ちゃんを指さしながら言うと、顔を真っ赤に染めた陽菜が未来ちゃんに急いで服を着させた。


「女の子なんだから少しは気をつけてよ!」

「すまんすまん。幼児相手じゃとつい……」


 未来ちゃんの言い訳にわたしも頷いた。

 年を重ねると幼児に見られても特に思うこともないんだよ。おまけに元々は男だったわけだし。男の視線なんて全くといえば嘘になるが、ある程度なら気にならない。

 わたしも今すぐここで着替えても良いのだが、それをすると陽菜が殴ってくるような気がするからやめておこう。

 そうこうしていると、着替えを終えた女子たちが教室に戻ってきた。


 ……他の女子たちはいったいどこで着替えているのだろうか?


「トイレでしょ」

「なるほど。じゃあ行こっか」


 男子たちが教室で着替えているのに、着替え終わってから荷物を取りに来るのも、男子たちからしたらキツいだろうな。

 ここは荷物も持ってトイレに行くとしよう。ランドセルとかはトイレの前に置いておけば良いし。

 わたしと陽菜は荷物を持ってトイレで着替えることにした。未来ちゃんはトイレの前で荷物番。

 一人一つずつ個室使っていると、本当に緊急事態のヒトがやってきたときに困るので二人で一つの個室に入った。

 まあ、連れションとかでもたまにやってるから問題はない。ただ若干狭いが。


「ねえ、夜」

「なに?」

「その格好、下に何も穿いてないみたいでエッチだね」


 仮にも六年間も一緒にいた幼馴染みの親友に対して、何てことを言うんだ。

 わたしだって気にしてるんだよ。


「そういう陽菜はスカート? 運動するっていうのにずいぶん変態マシマシな格好してるじゃん」

「誰が変態だ。これは中がスパッツになってるの」

「なるほど……」


 どういう構造なのか気になったので、陽菜のスカートを捲りあげて確認してみる。

 本当に同一化しているのか……日本の服というのはよくわからないものが多いな。


「今は良いけど、人前ではやらないでよ?」

「やらないよ。やるなら陽菜が水泳の日に下着を忘れたときだけだよ」

「貴様は鬼か」

「魔王ですー」


 ……ん? どうした? 女子同士でもスカートを捲りあげれば恥ずかしがりながら「やめてよぉー」と言うとでも思ったのか?

 さすがに他人の目があれば恥ずかしいと思うが、二人だけなら陽菜もわたしもこんなもんだぞ。

 未来ちゃんの場合はクラスメイトが目の前に居ても自ら捲りあげるタイプだから、ある意味強者だぞ。

 本人は「スカート捲りとはさせるものではない。自らするものなのじゃ!」とか頭のおかしいことを言ってた。それにはさすがの陽菜もお手上げだったな。


「そろそろ行こっか」

「そうだね」


 着替えを済ませたわたしたちはトイレ前で待っていた未来ちゃんと合流してランドセルを背負い、体育館へと向かった。

 体育館に着くとバトミントンクラブの人たちが集まっており、四年生はこちらですと案内していた。

 各クラスから三人ずつでクラスは二クラスしかないため、四年生は全部で六人だ。これは五年生も六年生も同じことなので、バトミントンクラブは全部で十八名いる。


「それでは自己紹介からお願いします。まずは六年生から!」


 去年のオバサン教師がわたしたちの目の前にやって来たと思えば、何の突拍子もなく仕切り始めた。

 いやお前が自己紹介しろよ。お前誰だよ。……まあ覚える気はないけど。


「仮にも去年お世話になった先生でしょ」


 まあ同級生は全員知ってるし、上級生たちは去年の持ち越しだからオバサンに自己紹介なんて不要なんだろう。


「二人とも? だれがオバサンだって?」

「「ごめんなさい……えっ?」」


 オバサンの圧力に謝らされたのだが、わたしと同時に謝る人間がいた。少し驚いてその声の主の方を見ると、たまたま向こうも同じ考えだったようでこちらを見た。

 この国にしては珍しい茶髪に翡翠の瞳をした少女。身長はわたしよりも少し高いか、同じぐらいだろう。

 わたしは学年でも一位二位を争うレベルで低い。……というか争うヤツは未来ちゃんしか居ないが。それでも他の人たちと比べて5cm以上離れているため、少し高いだけというのは非常に珍しい。


 後で自己紹介をしてわかったことだが、彼女の名前は『白石 アリス』というらしい。

 名前を聞いて思い出したが、彼女は授業サボり魔で有名だ。

 特に体育などの運動を伴う系の科目ではサボりが酷いらしいのだが……なぜここバトミントンに?


「じゃんけんってクソだな~……」


 なるほど。それは、まあ……どんまい。

 それから自己紹介も終えて軽く練習をすることになった。


「まずはサーブの練習からしましょう!」


 オバサン講師によってサーブの練習から始められる。まあ、サーブが出来なければ何も出来ないから仕方ない。

 陽菜が未来ちゃんとペアを組みたいと言ったので、わたしは余っていたアリスちゃんとペアを組むことになった。


「行くよ、アリスちゃん。……それ!」


 アリスちゃんの前にシャトルが落下する。アリスちゃんもシャトルを持ってサーブをしようと一生懸命学校から借りたラケットを振るが、ラケットは掠りもしない。

 ……ちょっと待って!? このままアリスちゃんが飽きてしまったら、わたし一人になってしまうのでは!? それだけは阻止しなくては!

 わたしはアリスちゃんに近寄って、サーブのやり方を教えてあげることにした。


「しっかり握ったら、こう……上手く振ったときにぶつかるようにしてサーブを打つとやりやすいよ」

「夜ちゃんってさ……」


 突然口を開いたアリスちゃんにわたしは耳を傾けた。さっきまで黙りだったのに、どうしたのだろうか?


「めっちゃエロいよね」

「――――ッ!?」


 なんかよくわからないけど、その声を聞いた瞬間に鳥肌が立った。わたしは顔を真っ青に染めて思わず後退った。

 な、なんだ……今の……? このわたしが震えている……? 魔王であるこのわたしがあのアリスとかいう少女に怖れているとでもいうのか……!


 白石アリス、どうやらわたしはとんでもない人間を見つけてしまったようだ――――。




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