転生魔王様の異世界せいかつ! ~義妹と恋仲になるために転生したのに、義妹が姉で俺が妹でした~
名月ふゆき
プロローグ
転生魔王の幼少期(前編)
「魔王様、保育園の時間ですよ」
「わかった」
なるべく威厳を保つように出した低い声は大人から見れば非常に甲高く、ただ配下を微笑ましい顔にさせただけだった。
クソッ、なぜこんなことになってしまったんだ!
俺の名はディアボロス。世界を支配するべく降誕した『禁獄の魔王』……だった。俺は勇者との戦いに負け……たわけじゃない! 断じて負けたわけではないが、間違って勇者の仕掛けた地雷を踏み、勇者や配下、義妹などを巻き込んで死んだはずだった。
だが次に目を覚ますと、俺は『
しかも、巻き込まれたヤツらは皆俺よりも早くに転生していて、元の姿よりも若干若い年齢に留まっていた。
まあそれはいい。……いや、全く良くないが、主役は遅れてやって来るものだしな。多少のことは仕方ない。数年から数十年程度、大したことはない。
だが1つだけ、許せないことがある。
それがコイツだ。
「夜、保育園行くのか? 折角だし送ってやろうか?」
前世の俺とかなり似通った容姿を持つ男……『
我が愛しの義妹である『エレオノーア』の恋心を奪おうとしているのだ!
許すまじ月宮皇太郎!
エレオノーアの恋心を盗んで良いのはどの世界だろうとただ一人、俺だけだ!
まあ、一度も盗めたことはないがなッ!
「いい。行こっ、ヴァルター・鈴木」
「ハッ!」
兄の顔を見るとイライラする。俺は配下の一人である『ヴァルター・鈴木』を連れて皇太郎の前から立ち去る。
ちなみにヴァルター・鈴木の本名は鈴木三郎と言う。前世の名前がヴァルターだったからヴァルター・鈴木と呼んでいる。特に意味はないが、コイツだけは俺と同じように前世のことを覚えていた。
だから誰よりも俺への忠誠心が高い。
そんな前世では暗黒騎士として名を馳せていたヴァルターだが、現在は鈴木三郎として我が家で執事をしている。
「あっ、夜。保育園行くの?」
「お姉ちゃん!」
俺に話しかけてきたのは今世の姉である『月宮
だが例え兄妹が姉妹になった程度で俺の愛情が変わるかと言えば否ッ!
俺はエレオノーアのことが大好きだ!
「えへへっ、お姉ちゃん大好き!」
「夜は甘えん坊さんなんだから」
俺は乃愛に抱きつく。前世ではこんなことできなかったから、これが姉妹の特権というヤツだろう。俺が乃愛の妹に生まれて良かったと思えたことの1つだ。
男のままだったら血の繋がった家族だから結婚することもできなかったからな。こうして触れることすらできなかっただろう。
……一つ言い忘れていたが、皇太郎と乃愛は本当の兄妹ではない。二人は互いの両親がそれぞれ連れてきた子供で、義理の兄妹である。
そしてその両親の間に生まれたのが、この俺というわけだ。
忌まわしいことに、皇太郎には乃愛と結婚することができる権利がある。この日本という国では同性結婚は認められてない上、俺と乃愛は血が繋がっている姉妹だ。正直言ってかなり不利な状況だ。
だからと言って譲る気は全くないが。
「ほら、いつまでそうしてるの。保育園行くんでしょ?」
「もーちょっとだけ」
「お姉ちゃんだって学校行かないといけないんだから」
「夜様。乃愛様もお忙しいのですから、早く離れてください」
俺はヴァルター・鈴木に言われ、乃愛から無理やり離された。
「……鈴木のくせに」
少しぐらい姉妹のスキンシップぐらい許してくれても良いじゃないか。
さすがに人の前ではヴァルター・鈴木とは呼べないし、ヴァルター・鈴木に魔王様とは呼ばれたくない。魔法の存在しないこの世界でその行動は、頭のおかしい人認定をされてしまうのだ。
そんなことも知らずに母親の前でヴァルター・鈴木と呼んだら、血相を変えた母親が俺を病院に連れて行ったことをハッキリと覚えている。だからこの呼び方をするのは二人の時かつ、気分が魔王な時だけだ。
魔法といえばこの世界には存在しないようだが、体内には前世よりかは少ないものの、ある程度の魔力量がある。下級魔法で試し撃ちをしてみたが、特に問題なく扱えた。
「魔法が存在しない」というよりかは「魔法が扱えない」と言った方が正しいのかもしれない。
「行きますよ。夜様」
「はーい……お姉ちゃん、いってきます」
「いってらっしゃい、夜」
乃愛に見送られてヴァルター・鈴木と家を出る。
この近辺の家よりもやや大きな我が家には七人の人間が住んでいる。俺と母親と父親、皇太郎と乃愛、それから執事のヴァルター・鈴木とメイドのルーシー・佐藤だ。
ルーシー・佐藤は記憶こそ失われているが、間違えなく俺の配下だ。ちなみに本名は『佐藤
「夜ちゃん、おはよう」
「おは、よ、う、ござい、ます」
保育園にたどり着くと教師にまず、挨拶をしなければならない。
いつもは魔王側で挨拶をされたら「うむっ」と言ってるだけだったのでマトモに挨拶をしたことがない。だから挨拶なんて不馴れなのだ。
しかも挨拶をしなければ、この教師に取っ捕まえられて挨拶を強要させられる。意味がわからない。「うむっ」で良いじゃん。それともなんだ? 「うむっ、ご苦労」とでも言えば良いのか?
そんなことを長考しながらも、俺はヴァルター・鈴木と別れて建物内に入る。
俺は毎日五時間もの時間をここで過ごすことになっている。意味はよくわからんが、母親にも何かしらの考えがあるのだろう。
教師が言うには『おともだち』というものを作るような場所らしい。
『おともだち』とは何なのか、気になって父親に訊いてみたのだが、それは謎に包まれていた。よくわからないことを考えても仕方ないので、俺は忘れることにした。
「夜ちゃんあそぼっ!」
「うん」
俺に話しかけてきたこの少女こそ、良きライバルである勇者の妹……『
陽菜もまた、記憶が失われているがこうして二人で何かしていると楽しく感じる。陽菜の記憶が失われていなかったら、こうして遊ぶこともなかっただろう。記憶というのは無い方が幸せな場合もあるのだな。
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