第14話:シロルーム遊び合戦ポンぽこ、ぱーとすりー

「よし、こんなところかな?」


「はい、ありがとうございます。ユキ先輩のおかげでみんなが来る前に準備を終わらせることができました」




 未来美の部屋には人数分の座布団やコップ。

 テーブルの上にはおやつやジュース。

 退屈しのぎのトランプ。


 さすがにお酒の類は置いていない。

 まぁ、この部屋の主たる未来美が未成年なので当然だろう。


 葵だけはどこからか、ビール缶をいくつか持ってきていたが……。


 そして、部屋に置かれたパソコンモニターにはフウちゃんと僕のアバターが映っており、もう一つのモニターはゲーム画面が映し出されていた。


 あとはみんなが来るのを待つだけだった。


 先ほどと同じ場所に座ると、未来美がそのまま隣に座ってくる。




「今日は頑張りましょうね。罰ゲームを避けるためにも」


「うん。……えっ、罰ゲーム!?」




 さすがにそんな話はしてなかったはずだけど、未来美は当然のように言ってきた。




「はい。シロルームのコラボ対決ならありますよね?」




 確かに僕自身は何も聞いていないけど、いつも通りなら何かしらの罰ゲームがあっておかしくない。




「確かに……、何かあってもおかしくないね」


「なら、こちらから提案するのはどうでしょうか? 例えば、一週間真面目に過ごしてもらう……とか」


「うーん、真面目に暴走しそう……」




 むしろ普段から真面目にしてる、と言い出してきそうなところが恐ろしいところでもあった。




「……ですよね。その辺りが問題ですよね」


「それはみんなに相談しても良いかもね。せっかくみんな来てくれるのだから――」




 そんなことを話していると葵が恍惚とした表情で戻ってくる。

 その手には……結坂の姿があった。


 荷物のように抱えられた結坂は必死に手足をばたつかせていた。




「うみゅーーーーー!! 離すのーーーー!!!!」


「はぁ……、お姉さんは幸せよー……」


「あ、葵ちゃん!? 知らない人にそんなことをしたらダメ!!」


「ゆ、結坂!? だ、大丈夫!?」


「うみゅ……? ゆ、ユキくん……。そ、それじゃあ、誘拐されたわけじゃないんだ……」




 結坂はほっとため息を吐いていた。

 そして、未来美に怒られた葵は結坂を離して残念そうな表情を浮かべていた。

 一方の結坂は僕の後ろに隠れて警戒心をあらわにしていた。


 ……いや、後ろから僕を抱きしめてくる。




「久々にユキくん成分、吸収なのー」


「わふっ!? ぼ、僕はそんな成分出てないよ!?」


「なら、お姉さんはこっちを……」


「も、もう、葵ちゃん! ただでさえややこしいのに余計に掻き乱さないで!」




 結坂が加わることで、更に混沌とする。

 そんな状況を何とかしようと未来美が目を回しながら聞いてくる。




「そ、それよりもそちらの方はユキ先輩の知り合いだったのですね」


「あっ、そうだった。みんなの自己紹介が必要だね。この二人は四期生の狸川フウちゃんこと立木未来美たつきみくみちゃんと姉川イツキさんこと宇多野葵うたのあおいさんだよ。それじゃあ、ユイも頼んで良いかな?」




 一応アバター名の方がわかりやすいかな、とそちらで教えてあげる。

 すると、ユイは眠たそうな表情を見せながら両手を挙げる。




「うみゅー! ユイはユイだよー! ユキくんの飼い主だよ」


「ち、違うよ!? 僕は飼われてないからね!? えっと、ユイは結坂彩芽ゆいさかあやめだよ。もう、ユイモードになるといつもそんな感じなんだから……」




 ため息交じりに、なぜか僕が結坂の紹介をする。




「あっ、ゆ、ユイ先輩だったのですか!? ご、ごめんなさい、葵ちゃんが変な真似を――」


「お姉さん的には問題ないわよ」


「葵ちゃんの行動が既に問題だよ!?]


「うみゅー……、それより、ユイがベッドを使って良いかな? 配信が終わったら起こしてほしいの……」


「だ、ダメだよ!? ここに寝に来たわけじゃないよね!?」




 ベッドに潜り込もうとするユイを慌てて止める。




「うにゅ……? もう朝なの?」


「ずっと朝だよ!?」


「お姉さんが添い寝をしてあげるわよ?」


「葵ちゃんは余計なことをしないでください!!」


「うみゅー……、狸はうるさいの……」


「私ですか!? 私がおかしいのですか!?」


「えっと……、おかしいのはユイの方だから安心して……」


「すぅ……、すぅ……」


「お姉さんも寝ようかしら。よいしょっと」


「だ、ダメーーーー!!」




 同じくベッドに入ろうとする葵を体をはってガードする未来美。




「うみゅ、やっぱりうるさいの……」


「もう……、だからまだ寝る時間じゃないよ……」


「シエスタは良い羊の嗜みなの」


「……初めて聞くよ、その言葉」


「なら、しっかり脳裏に刻みつけておくと良いの」


「嫌だよ……、ユイにしか当てはまらないでしょ……。それよりユイはゲームって得意だったよね?」


「うみゅ。ユイに勝てる人間はいないの」




――あれっ? 僕の替え玉として結坂に戦ってもらったら勝てるんじゃないの?



 一瞬そんな考えが浮かんだけど、すぐに首を横に振って否定する。




「うん、心強いよ。相手が相手だから、僕たちだけじゃ手に余るし……」


「そ、そうですよね。どうやっても勝てる気がしなくて――。でも、何もせずに罰ゲームを受けるのは嫌ですし……」


「あらっ、罰ゲームがあるの?」




 未来美に抱きついたままの葵が聞いてくる。




「まぁ、あるよね? なかったことがないし……」


「うみゅー、きっとユキくんをもみくちゃにするつもりなの。そんなの絶対にユイが許さないの!!」


「えっ、僕限定!? むしろ、それなら可愛い未来美ちゃんが……」


「わ、私よりもユキ先輩の方が可愛いですよ!? だから安心して生け贄になって下さい」


「お姉さん的にはどっちも歓迎よ。あられもない姿のミクちゃんとユキ先輩を見られるのなら」


「ちょっ!? ど、どうして僕たちが罰ゲームするの前提なの!?」


「しかも、勝手に罰ゲームを決めてるし……」




 呆れ顔の未来美と息を少し荒くする葵。

 きっと良からぬ想像でもしているのだろう。


 今日会ったばかりなのに未来美がどれだけ苦労してきたのか良くわかってしまう。

 だからこそ、僕は彼女の手を掴み、ジッと目を見ながら言う。



「僕にできることがあったら手伝うからいつでも相談に乗ってね」


「えっ!? ……あっ、はい。あ、ありがとうございます」




 キョトンと一瞬呆けていた未来美だが、顔を染めて俯きながら頷いていた。

 その表情を見て、僕も照れてしまい顔を俯けていた。




「うみゅー!! ユキくんはユイのものなのー!!」


「ぼ、僕は誰のものでもないよ!?」


「はははっ、お姉さんは三人ともでも大歓迎だ!」


「葵ちゃんは変なこと言わないで!? そ、それよりも四人いたらとりあえずゲームの練習ができますね。他のみんなが来るまでしてみますか?」


「お姉さんが勝って、三人とも罰ゲームにしてあげるわ」


「ゲームでユイに勝てるはずないの!」


「えっ、な、なんで罰ゲームなんですか!?」


「ユイに勝てるわけないよね?」




 それから、しばらく僕たちはゲームをしていた。

 結果は当然ながらユイの圧勝だった。




◇◇◇




「うみゅー、みんな罰ゲームなのー!」




 両手を挙げてうれしそうな声を出すユイ。

 負けるのは想定通りだけど、まさか運も絡む大富豪で一回も勝てないのは予想外だった。




「この結果なら仕方ないね……」


「でも、ユイ先輩一人を相手に勝てないならこのあとも大変ですよね?」


「そんなこともないよ。たしかに僕たちだけだと勝ち目はないけど、今回はユイの手助けもあるわけだし――」


「それじゃあユイは寝るの。おやすみなの……」




 再び布団に戻ろうとするユイの後ろからしがみついて、それを止める。




「だ、ダメだよ!? ユイだけが頼りなんだからね……」


「ユキくんから抱きしめてくれるの、初めてなの。仕方ないから協力するの」




 ユイはうれしそうに布団に入ろうとするのをやめてくれる。

 そのユイの言葉で僕は顔を真っ赤に染めて、慌てて離れようとする。

 しかし、僕の手をがっちりと掴んで離してくれない。




「あ、あの……、ユイ??」


「うみゅー、ユキくんへの罰ゲームは決まりなの。今日一日、犬語で喋りながらユイを抱きしめるの。たまに愛を囁いてくれるとユイが喜ぶの」


「えっ!? い、犬語!? わ、わふっ?? こ、これでいいのかな?」


「うみゅー……、語尾が足りないの。ちゃんと語尾には『わん』って付けるの!」


「わ、わん?? わふっ??」


「うみゅ、それでもいいの。今日一日はそれなの」


「そ、そんな……。わふぅ」




 つまり今日の配信はずっとこれを言わないといけないの?

 うぅぅ……、凄く恥ずかしいんだけど……。

 いや、よく考えるとあまり喋らなかったらいいのか。うん、それでいこう。




 問題が解決された僕は一応カタッターに罰ゲームを受けた報告をする。

 これをしておかないと僕はただ、犬の真似をする変な人扱いされてしまうから……。




 雪城ユキ@今日一日犬語 @yuki_yukishiro 今

 わふぅ……。ユイたちとオフでゲームをして負けちゃったわふっ。罰ゲームで今日一日、犬語で話さないといけなくなったわふぅ……。明日には元に戻るから気にしないで欲しいわふ。




 ふぅ……、これでよし。



 やるべき仕事を終えた僕は額の汗を拭っていた。

 すると、速攻でシロルームメンバーからのリプが付きまくる。




 天瀬ルル@シロルーム四期生 @ruru_amase 今

すぐ見に行きます!


 真心ここね@シロルーム三期生  @kokone_magokoro 今

ユキくん、かわいいですよ。もふもふしてあげます


 羊沢ユイ@シロルーム三期生 @Yui_Hitsuzisawa 今

ユキくんはユイが飼ってるの。


 美空アカネ@天才美少女 @Akane Misora 今

はははっ、犬姫は私のものだ!


 猫ノ瀬タマキ@シロルーム二期生 @tamaki nekonose 今

これはいいにゃ。今日の罰ゲームでしばらく犬語で話してもらうことにするの


 貴虎タイガ@シロルーム二期生 @taiga kitora 今

犬猫の仲だから戦いは必然だったか


 姫野オンプ@シロルーム二期生 @Onpu Himeno 今

犬さんと猫さんは仲良しなのですよー


 氷水ツララ @turara korimizu 今

また犬拾いに行く


 神宮寺カグラ@シロルーム三期生 @kagura zinguuzi 今

はぁ……、また変なことに巻き込まれてるわね




 ちょっと待って!? み、みんな反応しすぎじゃないかな!?

 いや、見なかったことにしよう……。




 少し焦りながら僕はカタッターの画面を閉じていた。




「うみゅー……、ユキくんの罰ゲームは決まったとして、あとはポコちゃんとイツキなの」


「ぽ、ポコ……ですか!?」


「お姉さんは何でも歓迎よ。服でも脱いで抱きしめてあげますよ?」


「あ、あははっ……、そ、その、センシティブに引っかからないようにしてね。……わふ」


「うみゅ、イツキは一人我慢大会なの。たっぷり服を着て脱いだらダメなの」




 ユイはビシッと指を突きつけながら言う。



――それなら確かにセンシティブに引っかかるようなことはないよね。



 ユイのファインプレーに思わず心の中で賞讃の言葉を投げかけていた。

 しかし、葵は息を荒くしていた。




「はぁ……、はぁ……。まさかこのお姉さんに我慢プレイを強要するなんてなかなかハードプレイをお望みなのね。可愛い顔をしてドSだなんて――」


「はい、葵ちゃんはそのくらいにしておいてね。ただ、葵ちゃんが着れる服はその……私の家にはないですね。取ってきてくれる?」


「えぇ、もちろんよ。ちょっと待っててね」




 葵が急いで部屋を出て行く。

 そこでようやく場に平穏が訪れていた。




「うみゅー、あとはポコちゃんなの」


「えっと、私はその……フウ……ですよ?」


「なら、今日一日ポコちゃんなの!」


「ふぇっ!?!?」


「うみゅー、とっても可愛いの」


「えっと、それはカタッター名とかを今日だけ変える感じかな? ……わふ」


「うみゅ。それで自己紹介は『シロルーム四期生、狸動物園のポンぽこポコー!』でいくの」


「そ、それはさすがにその……」


「うーん、それなら最初に元の名前を言わせてあげてほしいよ。せっかく先輩とのコラボなんだから、ほらっ、見に来てくれた人に名前を覚えてもらうためにも――わふ」


「うみゅ、確かにそれはあるの。ユイも最初の頃、お気に入りを増やそうと頑張ってたの」


「僕の場合はその……、どうやってお気に入りを増やさないか考えてたんだけどね……。わふ」


「えっ、そ、そうなのですか? でも、ユキ先輩のお気に入り数……、もう四十万近いですよ?」


「えっ!? あぁ、ほ、本当だ……。これってまた記念配信の流れになる……よね? わふ」




 僕は頭を押さえて悩みたくなる。




「だ、大丈夫ですよ、ユキ先輩ならあっという間に五十万にも届きますよ」




 未来美が両手をギュッと握りしめながら僕を励まそうとしてくれる。

 もちろん、それは逆効果だったが。




「どうやったら減ってくれるかな……わふ」


「へ、減らしたらダメですよ!?」


「うみゅー、ユキくんの犬好きさんはユイがもらっていくの」


「と、とにかく、挨拶の最初に名前を言ってから、罰ゲームで今日はポコです……でいいよね? わふ」


「うにゅー、仕方ないの。それで手を打つの」


「ほっ……。あ、ありがとうございます。ユキ先輩」




 未来美がうれしそうにお礼を言ってくる。

 少しは先輩らしいことができたかな……。


 僕は安堵の息を吐いて、自然と未来美の頭を撫でていた。




「うみゅー!! ゆいもゆいも!!」


「ゆ、ユイは関係ないよ!?」




 口では呆れ顔になりながらも、結局ユイの頭も撫でていた。


 すると、その瞬間に部屋に入ってくる三人の影が見える。




「は、離して……。ぼくはユキ先輩に会うために――」


「ルルちゃんは私と一緒にフウちゃんをサポートするの!!」


「はいはい、ルルもエミリもお姉さんがもふもふしてあげるからね」




 どうやらイツキが戻ってきたのだが、その腕の中にはなぜかルルとエミリがすっぽり収まっており、ご満悦の表情を浮かべていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る