第10話:大絶叫、ホラー実況

『ほ、本当にやるの……?』


ユイ :『うにゅ、当然なの』




 モニターを前にして僕は緊張のあまり体が強張っていた。

 恐怖をかき立てるような音楽が流れているので、仕方ないだろう。


 しかし、そんな僕を前にしてもユイは容赦がなかった。




『うぅ……、どうして今が夜なの……。太陽さん、戻ってきてよぉ……』


ユイ :『うにゅ、この前、[太陽、堕ちないかな]って言ってなかった?』


『い、言わないでよ!? あれは気の迷いだったんだから……』




 震える手でゲームコントローラーを持ちながらユイに言う。




【コメント】

:ユキくん、厨二病w

:♯太陽堕ちないかな

:♯太陽堕ちないかな

:♯太陽堕ちないかな

:www

:www

:www




『や、やめてー!? タグ付けて僕の痴態を広めないでー!』


ユイ :『それよりユキくん、始まったの。楽しみなの』


『それよりって、僕にとっては死活問題だよ。ひっ!?』




 タイトル画面が出た瞬間に驚いて目をギュッと閉じる。これなら怖いものを見なくて済む。


 あとは……どうやって魔王討伐ホラーゲーをクリアするか……。


 アドベンチャー系ならただ会話を進めたらいいだけなのだが、今回は移動パートがある。


 進む先がわからないと攻略のしようがない。


 でも、今回はオフコラボ。

 つまり、一人っきりで攻略するわけではない。

 困ったときには素直にユイを頼れば良いんだ。




『ゆ、ユイ……、す、進む先を教えてくれない……?』




 ユイに聞いてみたけど、返事がない。



 ど、どうして……?

 さっきまで一緒に配信してたはずなのに……。




『ゆ、ユイ……、ど、どこに行ったの……?』




 恐る恐る目を開く。

 まだボタンを押していないので、モニターはタイトル画面のまま。

 配信画面にもユキくんとユイの姿が映っている。


 しかし、周りにユイの姿だけがなかった。




『えっ!? ゆ、ユイ? ほ、本当にどこ行ったの?』




 目を開き、周りを見渡す。

 すると、そのタイミングで肩を叩かれる。




ユイ :『ゆーきーくーんー』


『ピィァァァァァァ……』





 突然聞こえたユイの言葉に飛び跳ねそうになるくらい驚いて、その場で顔を伏せ、ぶるぶると怯える。





ユイ :『うにゅ、ユキくん、驚きすぎなの。飲み物とってきたから渡そうとしただけなの』




 ユイの手にはペットボトルのお茶が二本。

 本当に飲み物を取ってきてくれたようだ。


 ただ、僕はユイが何事もなかった安堵感からその体に思いっきり抱きついてしまう。




『ゆ、ユイ……、よ、よかったぁぁぁ……。お化けに襲われたのかと思ったよぉぉぉ……』


ユイ :『大袈裟なの。それよりその、そろそろ離れてほしいの。そ、その、ゆいも恥ずかしいの……』




 ユイが少し照れた表情を浮かべていた。


 しかし、恐怖から僕はどうしても離れることができなかった。




『も、もう少しだけこうしてていい……?』


ユイ :『はぁ……、仕方ないの。ユキくんの好きなだけくっついてると良いの』




 すると、ユイはため息を吐きながら頷いていた。




『うん……、ありがとぉ……』




【コメント】

:まだ始まってないのにw

:悲鳴助かる

:甘えん坊ユキくん

真心ココネ🔧:ゆ、ユキくん、大丈夫?

美空アカネ🔧:おっ、いい悲鳴

:ユキくん、クリアできるのか?




ユイ :『うにゅ、大丈夫? 無理そうならまずはユイが――』


『ううん、が、頑張る。ゆ、ユイが僕のために考えてくれた企画だもん』




 ようやく動けるようになったので、僕は再びコントローラを手にホラーゲームに取り掛かる。

 ただし、チラチラとユイがどこにも行かないかを確認しながら――。




ユイ :『うみゅ、大丈夫なの。もうどこにも行かないの』


『う、うん……、信じてるよ……』




 そう言いながらもチラチラとユイを見るのを忘れない。




ユイ :『もう、ユキくんにはゆいがいないとダメなんだから……』




【コメント】

真心ココネ🔧:ゆ、ユキくんのママは私だよ!?

:ココママがママ認めてて草

:ママ悔しそうw

美空アカネ🔧:私が拾って帰るぞ

:www

:暴走し始めてるw




『えとえと、怖いんですけど、ゲームの紹介をしてもらいます。ユイに。ぼ、僕は耳を塞いでるから……ってなんでヘッドホンを付けるの!? うぅ……、さ、さっきより音がはっきり聞こえちゃうんだけど……』


ユイ :『やっぱりゲームをするならヘッドホンは必須なの。それじゃあ、今日していくゲームを説明するの』




 ユイがそういうと配信画面にホラーゲームの詳細が表示される。


 それは有名なホラーアドベンチャーで、美術館から異なる世界へ飛ばされた主人公の少女を操って、元の世界へと戻る。というただのホラーではなく、しっかりとしたストーリーと謎解きの要素があり、名作として名高いゲームであった。




ユイ :『説明するのは面倒だからいつも通りなの』


『えっ、な、なに……へ、変なことをしないでよ……』




【コメント】

:良いチョイスw

:人気どころできたな

:いつもの物臭さw

:しかし、ユキくんの耳には入らないw




ユイ :『うみゅ、早速始めていくの』


『うぅ……、序盤を少し触ったから余計に怖いよ……。ひぃ……』




 ゲームを始めると、すぐにちょっとした仕掛けで悲鳴をあげてしまう。




【コメント】

:悲鳴いいw

:ユキくん涙目w

:ユキくん、がんばれw

:悲鳴助かる




『はぁ……、はぁ……』




 僕は少し息を荒くして、目に涙を浮かべていた。

 すると隣でユイが応援してくれる。




ユイ :『うにゅー、ユキくん、みんな応援してるの。頑張るのー』


『う、うん、頑張……ピィァァァァァァ!?』




 突然ゲーム内でマネキンだと思っていたものが動き出して、思わず大声をあげてしまう。




ユイ :『うみゅ、とっても良い叫びっぷりなの』


『うぅ……、変なことを言わないで……、ピィァァァァァァァ!?!?』




 ユイにツッコミを入れようとしても、ゲームのせいでまともにツッコめない。




ユイ :『うみゅ、好きなことをし放題なの』




【コメント】

真心ココネ🔧:変なことをしたらダメだよ!?

:悲鳴助かる

:ユイちゃん草

:渾身の悲鳴回

:悲鳴好きにはたまらない

:悲鳴助かる





 コメント欄では散々な言われようだった。

 そもそも僕の悲鳴なんて誰が聞きたいんだろう……。



――うぅ……、こんなホラーなんかに負けては男が廃る。な、何かの本で確か男は包容力で女性を守ってあげるものだと書いてあった。ぼ、僕がホラーゲームてきからユイを守らないと!



 チラっとユイの方を見て、更に気合いを入れる。

 その瞬間にまたゲーム内で絵画が動き出す。




『ピィァァァァァァ……!?!?』




 思わず大声をあげてしまう。




ユイ :『うみゅ、ユキくんも喜んでくれて嬉しいの』




 後ろでユイは満面の笑みを浮かべていたが、僕自身はそんなことを気にしている余裕は全くなかった。




◇◇◇




『ひぐっ……、ひぐっ……、そ、そろそろ終わり……だよね?』


ユイ :『ユキくん成分が満タンなのー』




 ずっと叫び続けて四時間後。


 いつの間にか僕はユイの膝の上に座り、すっぽりと彼女の腕の中に収まっている。

 そして、ユイは満足そうな表情を浮かべていたが、僕は全く余裕がなくそのことについては触れない。


 ずっと悲鳴を上げすぎて、反抗できる気力がなかったのもある。

 しかし、それとは別に側にユイがいるという安心感のおかげでホラーゲームの恐怖も幾分か和らいでいた。

 その点だけは感謝していた。


 ただ、この企画を持ってきたのもユイ、ということは忘れていない。




『わふぅぅぅ……、ゴ、ゴールまだぁ?』




【コメント】

:ユキくん、頑張れー

:あまり寝てないって言ってたもんな。そろそろ限界か?

:そろそろユイちゃんの出番?

:でもそろそろ終わりじゃなかったか?

美空アカネ🔧:いいぞ、もっと叫べー

海星コウ🔧:アカネ、正座する?

美空アカネ🔧:ユキくん、あとちょっとだから声を出さずに頑張れ―!

:www

:www





ユイ :『ユキくん、もうすぐで一回目のエンディングだよ。あとちょっとだから……』


『そっか……、もうすぐゴールなんだね……。もう、ゴールしてもいいよね……』




 時刻はすでにニ時を回っている。

 昨日、まともに寝ていない僕はすでに眠気のせいでふらふらであった。

 もちろん原因はそれだけではないが――。




ユイ :『ユキくん、まだゴールしたらダメなの。それは死亡フラグなの』




【コメント】

:ユキくん、頑張れー!

:あと少しだよー!

:エンディングまで突っ走れー!

:死亡フラグwww




 みんなの応援とすぐ近くからユイの声援を受けながら、僕はなんとかエンディングへとたどり着く。


 一回目ということもあり、エンディングはノーマルエンド。

 それでも頑張ったということもあり達成感はすごかった。




『や、やったよ、みんな……。僕、クリアできたよ……』


ユイ :『よく頑張ったね、ユキ』




 ユイが頭を撫でてくれる。




『えへへっ……、あ、ありがとう……。ユイが抱きしめてくれたおかげで僕も恐怖が――』




 そこで僕の動きが固まった。



――そ、そういえば僕、いつからユイに抱きしめられていたのだろう?



 自然と顔が赤く染まっていく。そして、慌ててその場から離れようとする。




『あわわわっ……、ご、ごめん、ユイ。ぼ、僕、ずっと、ユイに抱きしめられていて……、その……』


ユイ :『うみゅ、ゆいもユキくん成分をたっぷり補充できたから満足なの』




 ユイが笑顔を見せてくれる。

 それを見て僕はホッとため息を吐いていた。


 だからこそ気づいていなかった。

 ココネが[ユイはガチ勢だから、生きて帰ってきてね]と心配してくれた本当の理由を。




【コメント】

:ユキくん、おつ

:おつ

:おめでとう

:おめー

:お疲れ様ー

:おめでとー

美空アカネ🔧:良くやった。さすがは私のしもべだ!

海星コウ🔧:お疲れ様。頑張りすごかったよ




――祝福されると気持ちいいね。頑張った甲斐があるよ。



 僕は笑顔でみんなに返事をする。



『えへへっ、みんなありがとう。怖かったけど頑張ってよかったよ。すごくストーリーもよくて、その、最後は怖さもあったけど、やっぱり先が気になってなんとかクリアすることができたよ。みんなの応援のおかげだよ。本当にありがとう』




 クリアしたという安堵感からようやく心の底から笑うことができた。



 ホラーゲーム。

 確かに怖かったけど、でもここまで達成感があるのならまたやってもいいかな。


 それに気づかせてくれたユイには感謝の気持ちしかなかった。




『ユイもありがとう。すっごく楽しかったよ』


ユイ :『うにゅ、楽しんでくれてるならよかったの』




 ……? なんだろう、今の言葉に何か違和感を感じたのだけど?




【コメント】

:いい終わり方だった

:ノーマルエンドだな

:楽しんでくれてる?

:まるでまだ続くみたいだな?

:いつものユイちゃんなら全てのエンディングを見るまで耐久だよな?

:やめて、ユキくんのライフはもうゼロよー

真心ココネ🔧:……ユキくん、まだ油断したらダメだよ




 コメントを見てて、ようやく違和感に気がつく。

 そうだ、終わりならここで最後の挨拶をしているはずなんだ。

 それで綺麗に終われるはずだから。


 でもユイは動こうとしない。

 まるでまだゲームはかのように。




『えとえと、も、もう放送、終わるんだよね?』


ユイ :『うにゅ、もちろん、ゲームをしたら終わるの』


『そ、それじゃあもう終わらないと……』


ユイ :『うにゅ? まだユキくんはクリアしてないよ? エンディング、全部見てないよね?』


『え゛!?』




 嫌な予感はこれだったんだ……。

 


 ユイはゲームのガチ勢だから、全てのエンディングを見て当然。

 一つのエンディングを見て終わり、なんて考えはなかったんだ――。



 僕を抱きしめてくれているユイはにっこり笑顔で告げてくる。




ユイ :『うみゅ、残りのエンディングも頑張るの』


『あのあの、こ、これ以上は僕の体がその……』


ユイ :『うみゅ、最後まで楽しまないとなの』


『あうあう……、ぼ、僕はもう十分に楽しんだし、ほらっ、たくさん叫んでもう喉がその……』


ユイ :『うにゅ、みんなもここで終わるのはよくないよね?』




【コメント】

:ユキくん、頑張れ!

:こうなったらユイちゃんは誰にも止められない

:耐久でもいつもこうだもんな

:ご愁傷様

真心ココネ🔧:ユキくん……骨は拾うからね




『うぅ……、わ、わかったよぉ……。や、やればいいんだよね……』




 覚悟を決めた僕は全エンディングを目指して突き進んでいくことになった。


 もちろんすぐ後に悲鳴が木霊し始めることになる。




◇◇◇




 全てのエンディングを見終えた時、すでに日が上りきったあとだった。




『うぅ……、怖かったよぉぉぉ……』


ユイ :『うにゅ。よしよし、よく頑張ったの』




 すでに涙目になりながらユイの胸元で震えてしまう。そんな僕の頭をユイはゆっくり撫でてくれていた。




【コメント】

:ユキくん、お疲れ様

:お疲れ様ー

:おつかれー

真心ココネ🔧:お疲れ様ー




『僕……僕……が、がんばった……、すぅ……』


ユイ :『ユキくん、どうしたの? えっ、ユキくん!?』




 心配そうな声を上げるユイ。

 しかし、それに反応することもなく限界が来てしまい、放送中にも関わらず糸が切れたかのように意識が落ちてしまった。




◇◇◇




 目が覚めると既に夕方だった。

 いつの間にか僕には布団が掛けられており、隣で結坂が微笑みかけてくれていた。





「おはよう、ユキくん」




「うん、おはよ……って、あれっ? 僕、寝てしまって……。ほ、放送は!?」


「大成功だったよ。これもユキくんのおかげでね」




 結坂が手でVの字を作って笑みを浮かべてくる。




「アーカイブ、見る?」


「うぅ……、少し怖いけど見たいかな」


「わかったよ、それじゃあこっちに来て」




 結坂に促されて、彼女の隣へと移動する。

 そして、僕が寝てしまった後の放送を見ることになった。



◇◆◇




『僕……僕……が、がんばった……すぅ……』


ユイ :『ユキくん、どうしたの? えっ、ユキくん!?』




 結坂が必死に声を上げるが、僕はすっかり寝てしまっており、返事がなかった。




『すぅ……、すぅ……』


ユイ :『あっ、寝ちゃったのか。ユキくん、頑張ったもんね……』




 ユイはどこか安堵の表情を浮かべる。




【コメント】

:ユキくん、寝ちゃったんだ

:たくさん叫んだもんね

:俺的にはご褒美でした

:そんなところだと風邪ひくよ? 俺が持ち帰ってあげよう

:通報しました。代わりに俺が持って帰る

:お前たちw

:ユイちゃん、素が出てない?

:珍しいな。というか素があったんだ




ユイ :『うにゅ、ゆ、ゆいの素はこっちなの……。それとユキくんは寝顔も可愛いの。持ち上がらない……。仕方ないの』



 パサッ。



 何かが掛けられる音が聞こえる。

 それと同時に配信画面のユキくんの上にも段ボールが置かれる。


 書かれている文字は[睡眠中]で、更に頭上には『Zzz……』の文字が置かれる。




ユイ :『うにゅ、ユキくんも寝ちゃったことだし、寝息を聞きながら今日のゲームの総評にいくの』




【コメント】

:まだ続くのか!?

:ユキくんの寝息……

真心ココネ🔧:起こしたらダメだよ!

:本当にユキくんのママだなw

神宮寺カグラ🔧:コラボ……

:カグラ様、羨ましそう

:そういえばカグラ様の初コラボは誰がするんだろう?

神宮寺カグラ🔧:べ、別にコラボしたいわけではないからね

:わかりやすすぎw




ユイ :『うみゅ、今日のゲームの総評は【ユキくんは可愛かった】に尽きるの。怯えてるユキくんも必死にゲームをしてるユキくんもクリアしてるユキくんも全部全部、とっても可愛かったの。それを引き出せるゲームは最高以外の何物でもないの。みんなもそうだよね?』


『すぅ……すぅ……』




【コメント】

:ユキくん、かわいいよ

:はぁはぁ

:通報しました

:直接見たい




ユイ :『うみゅー、直接見れるのはオフをしてるゆいの特権なの。ユキくんの初めてのお泊まりはゆいのものなの』




 ユイは画面に向けてブイ、としていた。

 そして、そこで配信は終わっていた。




この放送は終了しました。


『《♯羊布団 ♯ユキユイ》突発オフコラボ! ホラーゲー、ユキくんがクリアするまで終われまてん《羊沢ユイ/雪城ユキ/シロルーム三期生》』

3.2万人が視聴 0分前に公開済み

⤴1.0万 ⤵87 ➦共有 ≡₊保存 …


チャンネル名:Yui_Room.羊沢ユイ

チャンネル登録者数3.7万人




◇◇◇

【コメント】

真心ココネ🔧:お、お泊まり!?

:俺も泊まりたい!

:通報しました

:ユキくん、もう寝ちゃってるよな?

:二人で一つのベッドか

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