第23話お前は正しい、ただ同時に間違ってる。
「「「ははははははははははっ」」」
「おい聞いたか? こいつらあのFクラスと来た。つまりあれだな、いわゆる落ちこぼれの集団だ! そんな奴等がAクラスの俺に楯突こうなんざ、身の程を知れってもんだ!」
「「ははははははははははっ」」
「あっ、こいつ寝てやがる! 道理で俺にツッコム声が一つ足りないと思った!」
声が一つ足りないと思ってドリアドの方を見てみると、なんと机に突っ伏して寝ていた。ていうかこいつさっきまで会話に参加してたよな!?
「えっ、ナツそれってお前ワザとボケたってことかっ? いや、えっ、なんのために?」
「いや、ボケて無いぞ。ただ爺ちゃんの言う通りにしただけだから…………」
「いやいや、意味わかんねえよ! ていうか道理でクルセウスが突っかかって来たわけだ。こいつが起きてたら絶対突っかかって来ねえはずだもん!」
「あの〜、ナツ氏、ソウ氏。とりあえずクルセウス氏を無視してあげないでくだされ。某達を煽って来たのに某達がそれを無視してるからかなりお怒りである」
「「えっ?」」
メクルの声と共に俺とソウはクルセウスの方を見る。すると、かなりご立腹な様子だった。
まあ、たしかにおふざけが過ぎたな。
「お、お、お、おいお前ら! よくもFクラス風情が俺をコケにしてくれたな! いいか、お前らFクラスは俺達の顔色を伺ってさえいればいいんだよ! 所詮は学園のお情けで受かったような連中だろ!」
「そうだ! そうだ! お前らFクラスは『ラーンベルト学園』の恥なんだ! その意識をしっかり持ちやがれ!」
クルセウスの言葉に同調するように周りで見ていた一般の生徒が徐々に声を上げる。
「そもそも学園に来るんじゃねえよ!」
「お前らは魔素量がまともにないようなクズ同然の連中なんだ! 目障りなんだよ! 調子に乗るようなら今すぐ帰りやがれ!」
「そうだそうだ!」
「「「「か・え・れ! か・え・れ! か・え・れ!」」」」
うわ、すげぇ言われようだな。これあれだよな、俺らがFクラスってだけでこいつらこんなに言ってんだよな。あれか? Fクラスには傷付く心が無いとでも思ってんのか? これはいくら俺でもちょっと効くぞ。
まあ、幸いなのはこの言葉を浴びせられてんのがFクラスって事に劣等感をあまり持ってない俺らって事だな。メクルはなんか勢いに付いて行けてねえだけだし、ソウは声をあげてる奴等見てなんか憐れんでるし、ドリアドの奴はよくこんな状況でも寝れるよな。逆に尊敬するぞ。
いや、ていうかこれ他のクラスメイトだと不登校とか考えるレベルじゃねえのか?
「「「「「か・え・れ! か・え・れ! か・え・れ!」」」」
………………………………いや、いくらなんでもこいつらのこの態度には我慢出来ねえぞ。こいつら他のクラスメイトにもこれをやるつもりか? 魔法が他の人より使えないだけでこの仕打ちか?
こいつらやばいな。魔素量なんてただの才能だろ。そんな物で人の価値を決めてんじゃねえ。
「黙れ!!!!!」
すると、帰れコールを一掃する様にとても大きな声が一つ上がった。それは聞いた事のある男声だった。声のした方向を見てみると、そこには魔素量試験で一緒になったフィンラル・アークンハイドがいた。
『栄光の世代』四席の登場に、声をあげていた全員が怯む。
「お前ら、何をやっている! 見た所ここには一年しかいないようだな。なら! 彼等は共に競うべき友だろ! 共に笑いあうべき友だろ! その友に対してこの仕打ちはなんだ! ふざけるな! 『ラーンベルト学園』恥はまさしくお前らの方だ!」
フィンラルの正論に周りの生徒達は声を出しあぐねる。自分達より弱い者が今の発言をしたならまだしも、フィンラルは間違いなく今声をあげていた連中の誰よりも強い。そんな者に弱者の味方をされたら、何も言えないのだ。
「落ち着いてくれフィンラル・アークンハイド」
そんな中、唯一クルセウスだけがフィンラルに話しかけた。
「お前は…………"黄金騎士"、クルセウス・シュナイダーか」
「お前は本当にこいつらの味方をするつもりか?」
「ああ、当然だろ」
フィンラルのその返答にクルセウスは笑みを浮かべ答える。
「そうか、なら恥ずべきはお前の方だな」
「何っ!?」
「まあまあ」
怒りで怒鳴ろうとしたフィンラルをクルセウスは手で抑える。
そもそもクルセウスはなんであんな余裕そうなんだ? 自分より実力が上なフィンラルにあんな事言われたら普通なにも言い返せないだろ。
「いいか、フィンラル・アークンハイド。今人類が総出でやらなければいけない事はなんだ?」
「そんな物、魔王の討伐だろ」
「ああ、そうだ。じゃあ魔王討伐の際必須となるのは?」
あっ、これまずいな。フィンラルの奴絶対言い負けるぞ。
「魔法に決まってるだろ」
「そうだ、その通りだ! そしてその魔王討伐にはある程度の魔素量が無いと強制招集されない! つまり魔法をまともに使えない奴等は魔王討伐に参加しなくていい事になる! 俺達は命を賭して戦うというのにこいつらFクラスの連中は安全圏でのびのびと過ごす事になるんだぞ! お前はそんな事を許していいのか! いいや、ダメだ! だからこそ俺達はこいつらを馬鹿にする! こいつらを徹底的に否定する! 誰になんと言われようとな!」
「くっ………………」
クルセウスの言い分にフィンラルは言葉を言いあぐねている。反論が思いつかないのだ。同然だな、クルセウスのいってることは正しいんだから。
「ちょっと待て」
俺がそう厳かに言葉を放つと、普通の声量なのにこの場にいる全員が俺の方を向いた。それほど無視できない声色だったのだ。
「いいか、クルセウス。お前は間違ってる」
「なんだと?」
たしかにクルセウスの言ってる事は正しい。正しいが、同時に間違ってる。魔素量の無い奴等は命の危険が無い、だから否定していいだと? その考えがどれほどの罪なき命を奪ったと思ってる。どれほどの悲劇を産んだと思ってる。
もうああいった悲劇を産まないために俺はこの学園に来たんだ。
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