五十日目『魔王は死んだ』

 魔王は腕を斬られたことに動揺を隠せない。


「リンネ。貴様あぁ」


 魔王はリンネを握る剣を見るや、目を見開いた。


「どうしてお前が、その剣を持っている!?」

「私は輪廻転生をし、この世界へと戻ってきた。戻ってくる旅の道中で会ったんだよ。迷子になっている一人の女性に。そこで私は彼女から聞いた。この剣の場所を。そしてこの剣が、魔王、貴様の体を捉えることができることも」

「一人の女性……。そうか。ようやく目を覚ましたのか。ムーンアイ」


 魔王は曖昧な笑みを浮かべていた。

 剣を持って斬りかかろうとするリンネであったが、頭上から現れたラファエルに体を押さえつけられ、身動きがとれなくなっていた。


「ラファエル。その剣を貸してくれ」


 ラファエルはリンネから剣を奪い取り、魔王に投げた。魔王はその剣に触れると、拒否反応でも起こしたように魔王の手は破裂した。


「やはりか……」

「魔王。どうかしたのか?」

「いや、何でもない。ラファエル、その女はしっかりと捕らえておけ。ただし殺しはするなよ」

「はいはい」


 魔王は地に刺さった剣を眺めていた。

 柄には天使のような翼が四つ生えており、刃の部分は天の光を反射しているかのように神々しく輝いていた。


「ラファエル。お前はこの剣に触れられるか?」

「まあね。こんな感じで」


 ラファエルは片手でリンネを縛りつつ、地に刺さった剣をいとも容易く抜いてみせた。


「お前は抜けるんだな」

「魔王が触れられない理由はやはりあれではないのですか?彼女、ムーンアイにきら……」


 ラファエルが何かを言い欠けた途端、リーフィアが風を纏いながら玉座の部屋に入ってきた。


「そういえば忘れていたな。お前たち勇者がこの国に来ていたことを」

「なあ魔王。やはり全てはお前の仕業か」

「当然さ。それがというものだろ」

「そうだな。だからこそ、勇者が魔王を倒さなくてはいけないんだよ。皆の仇を討ち、世界を取り戻さないといけないんだ」

「かつて敗北した勇者が何を言うか。目障りなんだよ。勇者というのは」


 魔王はアイスエルに目を向けた。するとアイスエルは何かにとりつかれたように体を魚籠つかせ、次の瞬間、リーフィアへと氷で創製した剣で斬りかかる。


「邪魔だぁぁあ」


 リーフィアは剣をアイスエルへと振り上げると、竜巻がアイスエルを城の天井に穴を空けて吹き飛ばした。


「魔王。次はお前だ」

「さすがは勇者リーフィア。かつての力は衰えていないようだな」

「ああそうだとも。私はこれまでに死んでいった者たちのため、ここでお前を討たねばならぬ。それが……」


 だがリーフィアの剣は魔王には届かない。

 魔王は両手を再生させ、その手をリーフィアにかざした。するとリーフィアを獄炎が飲み込んだ。


「風よ。」


 だがしかし、獄炎は周囲に飛散した。

 宙へ舞うリーフィアへ、ロンギヌスは叫んだ。


「リーフィア。ラファエルが持っている剣を奪え。あの剣があれば、魔王を殺せる」


 リーフィアは視線をラファエルへと向けた。魔王は危機を感じ、ラファエルへと駆け寄っていた。リーフィアは風を放ち、最高速度でラファエルへと駆け寄っていた。



(私の手は届く。私の足はまだ動く。だからせめて、この一瞬だけでも、私に力を……)



 そう願うリーフィアの頭の中に、女性の声が届いていた。


「勇者リーフィア。どうか魔王を倒してください。変わってしまったあの方を、どうか、どうかという憎しみから解放してあげてください」


 そんな声が聞こえた。

 その声が聞こえなくなると、リーフィアの背中には翼が生えていた。リーフィアは一瞬にしてラファエルの前へと現れ、顎目掛けて剣を振り上げた。

 ラファエルは剣を手離し、リーフィアは握っている剣をしまい、ラファエルが落とした剣を握った。


「はぁぁぁあああ」


 リーフィアはその剣で、魔王の心臓を突き刺した。









 ーーようやく彼は……終わった。

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