三十三日目『かつての悪夢』
訓練所横の倉庫にて、
マリーは倉庫に閉じ込められていたアリアンヌを見つけ出した。だが未だにニャーマルのことを背負っているらしく、彼女は未だに表情が暗いまま。
「アリアンヌ。今モンスターが大量に発生しているんだ。速く逃げないと」
「良いよ私は。私はもう……いいよ……」
諦めた表情が、マリーの目には映っている。
「アリアンヌ……」
「私は……ニャーマルのいない世界では生きる意味なんてないんだよ。だからマリーだけで逃げて。私はここにいる」
「アリアンヌ。そこにいたって死ぬだけだ」
「死んでいいじゃん。生きていることに意味なんてあるの?」
マリーは何も言えなかった。
(ああ。アリアンヌの目には私が映っていないのだろう。私には、彼女を救うことなんて、できやしないのだろう)
「アリアンヌ。久しぶり」
顔を下に向けたままのアリアンヌは、まるで希望を見つけたかのように顔を上げた。そこにいたのは、懐かしき彼。
「ニャーマル……!」
「ただいま」
紛れもなく、そこにはニャーマルがいた。
マリーは驚きのあまり固まり、アリアンヌは喜びのあまり跳び跳ねてニャーマルへと抱きついた。
「ニャーマル。私、ずっと待っていたよ。ニャーマルが生きていると信じて」
「そうか。ありがとな。俺も生きていてよかったと思ってるよ」
(本当にニャーマルなのか?)
マリーは疑っていたが、生憎確かめる術など持ち合わせていない。
マリーはただ抱きつく二人をそばから見ていることしかできなかった。
「あ、そうだアリアンヌ。死んでくれない」
ニャーマルの腕は突如カマキリのような鋭いトゲを有した腕に変形し、形は鎌となった。その鎌は静かにアリアンヌへと振り下ろされた。
「アリアンヌううううう」
振り下ろされた鎌。
だがしかし、その攻撃はアリアンヌには届かなかった。
「アリアンヌには、手出しはさせないぞ」
ニャーマルの鎌となった腕を白刃取りのようにして受け止めていたのは、マリーであった。
「マリー!?」
だが華奢な体であり、尚且つ温厚な性格であるはずのマリーにしてはあまりにも鋭い目付きをしており、爪は鋭く伸び、さらには鋭い牙はまるで狼のようであった。
「これがマリーである私の能力」
マリーの固有能力。それは……
「二重人格」
マリーは爪を振るい、ニャーマルの体へと傷をつける。するとたちまちニャーマルの体を宿としていた何かは本性を表し始める。
ニャーマルの体は狼頭人体鹿足となって変化し、筋肉質の体に四足の足を手に入れた狼の頭を持った化け物となった。
「初めましてマリー。俺はケンタウホース。魔王に支えた十人の一人」
「何言っているのか解らないけど、今の私はマリーであってマリーでない。その意味、お前には解らないだろうが、殺すぞ」
マリーはアリアンヌを護るようにして立ち塞いだ。
「アリアンヌの体も良いとは思っていたが、やはり君の体も良いな。奪わせてもらうぞ。その体を」
「私の心に、入れるものなら入ってみろ」
(アリアンヌ。今の内に逃げていてくれよ)
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