二十九日目・前夜『敵討ち』

 日が明けた。

 勇者寮を失った勇者たちは、皆訓練所で寝泊まりしていた。

 頼れるリーフィアも失い、途方に暮れていた。


「なあ誰か。アリアンヌとハーブ、あとニャーマルを知らないか?様子が一切見えないのだが」


 そう言うレフィーネのもとへ、マリーは静かに歩み寄る。


「居場所を知っているのか?」

「アリアンヌはずっと森の中でうずくまっているよ。ニャーマルは……もうここにはいない」

「どういうことだ?」


 首をかしげるレフィーネの前で、マリーはしばらく黙り込んだ。


「どうした?」

「ニャーマルは…………ニャーマルは……」


 マリーが言い欠けたが、それを邪魔するようにブルーが焦りながらレフィーネへと告げる。


「レフィーネ、大変だ。森の中でハーブが死んでいた」

「何だと!?」


 レフィーネたちは急いでその現場へと向かっていた。するとそこには、ハーブが心臓に剣を刺されて死んでいた。


「またか……」


 レフィーネは長い髪を払うと、周囲を見渡して何か痕跡のようなものがないか探す。だが痕跡などどこにもなかった。

 仕方なく立ち去ろうとした際、レフィーネは森の中である人物を見つけた。それは木の陰でうずくまっているアリアンヌであった。レフィーネはアリアンヌへと歩み寄る。


「アリアンヌ。いつからここにいるんだ?」

「…………」


 アリアンヌは答えない。


「アリアンヌ。何があったんだ?」

「…………」


 アリアンヌは無言を貫き、木に背をつけて座り込んだまま動かない。

 レフィーネはため息をつき、ついてきていたマリーとブルーに言った。


「アリアンヌを勇者殺害の犯人と見なし、拘束する。そいつを訓練所隣にある倉庫へと閉じ込める」

「ですがアリアンヌは絶対に誰も殺していません」

「言いきれるのか?」


 鋭い殺気だった。

 その殺気に押し負け、マリーはレフィーネに何も言い返せなかった。


「連れてこい」


 ブルーはアリアンヌを背中で抱っこし、レフィーネの背を追って倉庫の方へと連れていった。

 倉庫の中にはサッカーボールやネットなどがあるものの、その中へ乱暴にブルーはアリアンヌを倉庫へと入れた。


「よし。あとは鍵をして終わりだな」



 倉庫の中にも明かりはない。

 彼女の心にも明かりはない。

 どこを探そうと、もう明かりは失われた。

 彼女の瞳に、色はなくなったのである。



「マリー。お前は私とともに行動しろ。もし私の目の届かない場所に行くようならば、お前もアリアンヌとともに倉庫へと、いや、お前には死んでもらうかもしれない。少しは気を付けろ。マリー」


 そう言い、レフィーネはマリーを背に歩き出す。

 マリーはレフィーネの声に少し聞き覚えがあると感じながらも、思い出せずにいた。

 そんなもやもやを抱えていると、レフィーネのもとへブルーがやってきた。


「ブルー。作戦は完璧か?」

「はい。既に準備はできております」

「そうか。では今夜、罪深き者へ裁きを下そう」


(作戦?)


 レフィーネとブルーは何かをたくらんでいた。

 それはこの勇者を殺害してきた悪魔のような者へ、裁きを下すための作戦である。


「サヌキ。エリクサー。ハーブ。リーフィア先生。仇は必ず討ちますよ」

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