エドガーの章

十七日目『分裂』

 今日。

 勇者たちは魔法の訓練にいそしんでいた。

 訓練所内にて、空に浮かぶ複数の円形の的を狙って、勇者たちはその的目掛けて遠距離魔法を放っていた。だがしかし、魔法はそう簡単には当たらない。なぜなら……


「的が動くなんてずるいぞ」

「どうやったらあんなのに当てられる」

「動くのはいいけど、その速度が異常だろ」


 高速で動く的、しかもその的が動く速度はとても速く、勇者たちはその的に当てることができないでいた。


「おいお前ら。今日は一発でも的に当てた奴から帰っていいぞ」

「いやいや。無理だって」


 リーフィアの無謀な発言に、誰しもがそう思った。

 皆内心では怒り狂っていたが、誰もそれを表情に出すことはしなかった。だが皆諦めムードで的に魔法を放っていた。


「絶対無理じゃん……」

「そんなことはない。案外簡単なのさ」


 そう言って、一人の少女は苦戦している者たちを嘲笑っている。それに怒りを見せた勇者エドガーは、その少女へと歩み寄った。


「おいサクラノ。お前ならやれるのか?」

「当たり前さね。私は君よりは遥かに優秀だからさね。余裕さね」


 サクラノは優雅に道を歩くと、近くに人がいない場所で立ち止まった。一体何をするのかと皆が興味津々でサクラノを見ていると、サクラノは両手を空へかざした。


「水魔法、そして火魔法」


 右手から火炎、左手からは水を放出した。二つの属性は空中でぶつかり合って混じり合い、謎の白煙が天井を埋め尽くしていた。とそこへ、サクラノは両手から火炎を放った。すると白煙に火炎が引火し、その火炎の中に空を泳いでいた的が全て焼却された。


「おやおや。この程度もできないとは、君たち本当に勇者かい?」

「なんだとぉぉお」

「勇者ならば実力で私を感服して見せよ。その程度のこともできなければ、勇者には向いていない」


 冷徹にサクラノは言い放ち、颯爽とその場を後にした。

 彼女がいなくなった訓練所では、皆怪訝そうにサクラノについての罵詈雑言を吐きまくっていた。


「まじなんだよあいつ。ただ才能に恵まれているだけじゃんか」

「本当だよな。まじあいつ意味わかんねーよ」


 口々に皆は語るが、全員が全員言っているわけではなかった。

 罵詈雑言を言わない者は寮へと戻っていた。


「ねえニャーマル。どうなる思う?」

「そんなもの分かんないが、弱い奴は結局弱いままだよ。ただ暴言を吐いてストレスを発散するか、強くなって見返すかは人次第。だから俺たちは静観でもしていよう」

「やっぱニャーマルは冷たい」

「それが普通なんだよ」


 ニャーマルは少女とともに寮へと去る。

 その中で、一際異彩を放っていた謎の一人の少女は、影ながらリーフィアを観察していた。そのことにリーフィアを薄々勘づいてはいたが、どういうわけかその正体を掴めずにいた。


(一体私は誰につけられている?)


 そんな疑問を抱えながらも、リーフィアは教師寮へと歩みを進める。するとその気配は消え、リーフィアは警戒を解いた。


「いつか決着をつけなくてはいけないな。この何かに」


 リーフィアはそう呟き、漆黒色の扉を開いた。

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