大賢者は剣士がしたい

水止 鏡明

第1話プロローグ 魔王封印・・・そして転生へ

(幾度戦っただろうか……)


(魔王、魔王、魔王……)


(何度転生しようと何度倒そうとも奴らは湧いてくる)


(実際には封印が精一杯なのだが……)


(転生ができるのは私だけ……)




 大賢者は7度目の魔王との最終決戦の前に思う


 大賢者だけが転生を繰り返し魔王を封印し続けてきたそれが使命だとわかっている


 仲間が死んでいく傍ら私だけ生き続けている感覚だ




「何考えてんだ?大賢者様」




 声をかけてきたのは勇者レオ


 今回の勇者は今までにないくらいに強い。


 何故かそれが少し引っかかっている




「いや今回はうまく行き過ぎているような気がしてな」




 私が経験してきた最終決戦はほぼ互角、若いものも集められ半数は死ぬ。


 しかし今回は勇者の活躍があり魔王側がいつもの20%ほどの戦力しかなかった。




「そういう時代があってもいいじゃないか。負ける気がしない」


 勇者は答える




「何なら一人でいい」


 本気なのか楽しそうに言う




「私がいないと封印できないだろ」


 呆れて返すが




「倒してしまえばいいんだよ」




 笑って答えるこいつを見ていると本当にできそうな気がする


 勇者と出会って3年お互いに25歳だ。今までの勇者より信頼ができ、強い、2人で何でもできる気さえするほど頼もしかった




「時間だ行くぞ」


 勇者にパァンと強く肩を叩かれた




 決戦が始まり何時間が経っただろうか。優勢には変わりなくほぼ勇者と私で前線を押し上げている。


 バランス良くパーティーを組まず強者だけを集め、バックアップ、雑魚狩り、とはっきり役割を分けた今回の陣形は戦力差もあり調子がいい


 私も勇者もこの勢いのまま魔王を討伐しそうだった。


 私が詠唱し、大部分を叩いている間に他パーティーを救援し私の周りに敵が湧くと戻ってくる。機動力を活かすため勇者と私は2人パーティだ。


 とびわまり華麗に敵を葬るその姿が私は好きだ。目に映る勇者はかっこよく後衛職では到底できるものではないと私は確信している。ついつい勇者に飲まれ前に前に出てしまう私を引き留めることもなく勇者は言う。




「なんだ?前衛したいのか? 殴り魔?」


 冗談を言いながら笑って続ける


「もっと進もう。おれとお前なら終わらせられる」




 敵に囲まれ血肉を浴び倒していくその感じは今までに味わったことのない感覚になる。守られ一番安全な場所で敵を倒してきた今までとはぜんぜん違う。こんなに前衛職が頑張っていることが素肌で感じられ、こんなに頼もしかったのかと今になって理解した…当たり前だと思っていたことに全然感謝できていなかった。


 今ならわかる前衛職の頼もしさ必要性、守られているその意味、このまますべての人類を守る。私がされてきたことをこの時代ですべて返す。




「ああ、行こう魔王のところへ」


 2人だけで魔王の元へ向かった。




 魔王と対峙していたがついに勇者と私は膝をついた。


 魔王は仲間をなんとも思わず仲間ごと私達に攻撃してきた。囲まれ動きが鈍り他を相手している間に攻撃を仕掛けてきた、思った以上に逃げ場がなくそれを受け止める、それが繰り返えされるうちに私達は消耗した。魔王はそんなやつじゃなかった。魔王と言えど心はあった。私達からしたら敵だが奴は奴なりに仲間を想っていた。だが今回は違った…なぜか?一番の誤算は勇者だった…


 勇者レオは強かった…強すぎた…魔王が警戒…そんなレベルじゃない。自分を守るためだけにすべてを犠牲にしていたのだ。




「ダメだわ悪い……」


 勇者が言った。




「お前が諦めるなよ」


 私は返す。




「この状況じゃ倒すのは諦めるしかねぇよ。けど……」




 すぐさま攻撃が来た。


 しかし私にはいまので十分だった。




「10分くれ!」


 私は叫んだ。




 私がミスった。少しでも期待してしまった。倒せると、本気でできる気がした。引っかかっていたものがここで理解できた。


 まんまと倒す気でいた私が深く入り込みすぎた。魔王は最初から狙っていた。倒されない方法を、封印でいいと最初から諦めていた。たぶん人数を集めても同じ結果だったと思うが魔王にとって一番いい結果になってしまった私達2人しかいない状況が…




「すまないレオ」


 口からこぼれていた。


 私の目には守るのが精一杯の勇者が写っていた…と同時に魔王がなにか言った気がした。




「10分ってお前にしちゃ長げぇよ」


 勇者がつぶやく




「もう喋らないでくれ」


 回復魔法を全力で行うが助からないのはわかっていた。




「封印おめでとう。けど今回も倒せなかったなゴメンな。何度も転生して辛かっただろうに。お前の話聞いているうちにお前のために強くなろうって思ったんだ。」


 かすかな声が聞こえる。




「それ女に言うセリフだからな」


 いつもの冗談を言っているのかと思った。




「笑わすなよ。2秒でも早死してもいいのか?」


 にやけて勇者が言う




「だからしゃべるなって…私もおまえといて楽しかった。今までとは違う経験をいっぱいさせてくれた、それだけでお前みたいになりたいって思うようになった。」




「また世界を頼むよ……」


 フッと笑ったように見えたがそれから何一つ動かなくなった。




 魔王の封印解除の周期は200年この間に世界は復興と成長を繰り返している。私が転生をしているのはみんな知っているがいつどこに等の詳細を知っているのは一部の人間だけだ。世界最大の王国、ヴァイオレット国王、私は代々ここに使えている。それと私が作ったその国内最大ギルド《天国の城ヘブンズキャッスル》のマスター5人とその時代の勇者だ。あの魔王討伐から45年勇者を失った世界をまとめ若者を育てる手助けし一生を終える時が来た。


 転生というより全盛期の私が次の時代に召喚されるという魔法だ。




「では150年後、お迎えよろしくな」


 前回の転生から5年で討伐、45年この時代に残った、ちょうど150年後が魔王復活の日だ。


 事情を知る6人に別れを告げ、ギルド《天国の城》の召喚室にて詠唱し転生した。




(頭が痛い)


 ギルド《天国の城》の召喚室にはいるので召喚自体は成功している…しかし迎えが一人もいない。いつもなら召喚日と時間は指定して飛んでいるので知っているものが迎えに来ている。


 いつもならこんなことはないのだが、頭が痛く集中できない。


 フラフラと歩いていく通りかかった部屋の鏡を見て驚愕した。




「なんでこんなガキなんだ?」




 いつもなら20歳で転生し4,5年で新しい魔法や能力最新技術を取り入れ魔王討伐に尽力する。


 が、なぜか今は16歳位のガキじゃないか。20代が全盛期ってのもカッコつかない、と思っていたのにまさかの10代だと…久しく10代なんてみてないから違和感しかない…


(ということは、146年後?なぜんそんな時代に飛んだ?迎えがいないのは辻褄が合う。しかしこんな格好で賢者です?無理があるよな…知り合いは…いるわけないよなぁ。なんて説明すればいいんだ?もうわけわからん)


 召喚室に戻り、頭の中が整理できず悩む




 ドドドッ


 なにか足音が向かってきている




「あぁ~!なんで倉庫がぐちゃぐちゃになってんの?誰が片付けると思ってんの?こんなとこで遊ぶなよ。」




 なんか騒がしいやつがやってきた


 転生の衝撃で中の棚とかは崩れ倒れている。そもそもいつから倉庫になったんだここは?




「君かね?ん?」




 目があった…40代ぐらいだろうか?おじさんだ…




「いやまぁ、そこ通ってきたんで…」




「通る?何いってんの?こんな倉庫で遊んじゃダメでしょ?君10代後半くらい?それくらいわかるでしょ?名前は?」




 かなりめんどくさそうだ。名前を言えばわかるだろ。




「レイシュルト・ヴィ・ルーシュ」


 ここを知っているんだギルドマスター連中のとこにさっさと案内してもらおう




「ルーシュ君、片付けしてから帰っていきなさい。まったく近頃の学生は……」


(は?こいつアホなのか)


「いやだから、名前聞いてました?」


「ルーシュくんでしょ?いいからしなさい。上で待ってるからね」




 てくてくと階段を登っていってしまった。


(本気でやばい俺の名前を聞いてもなんとも思わないのか?)




「くそっ!めんどくさい」パチンッ


 指を鳴らすと棚からすべてが元通りになった。


 さてどうするか…座り込み考えていると疲れからか寝てしまった。

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