第35話
ラムダニュー銀河タウロー星系第3惑星衛星軌道上。
サンゴウは周囲にあるデブリを回収し金属インゴットを作成しながら、人工衛星等だったと考えられる残骸の調査を行っていた。それと並行してシンとキチョウの龍騎兵をモニターしていたのだった。
デリーはミウと共にシンのモニターに映る姿をじっと見つめていた。何も出来ない自分の悔しさに拳を力一杯拳を握っていたのである。
そして、ミウはそんな様子も気持ちも気づいていたがそっと寄り添って座っているだけだ。何かを言うべき時ではないと本能的に理解していたからだ。
「富士山だなぁ。ざっくり3倍くらいの大きさになってるけど。さてさて、遺跡の場所は上空から入口だけは確認出来るけど、人は居ないな。ガードロボットみたいのは居るけど。キチョウの勘とか超感覚で何かわかる事はあるか?」
「マスター。何かの波の信号は出ているから探知はされてると思うですー。そろそろ向こうから出て来るよー」
「そうかそうか。って、そういえばなんも確認して来なかったけど巨大機械騎士って飛べるのかな?」
デリーに確認しなかったのは、どうせ格下! と決めつけての舐めプであり、余裕である。
本当は単に忘れていただけなのだが、無意識に舐めているからこそ、確認する必要性に思い至らなかったということなのだろう。
もっとも、仮に確認したとしても、動かした記録が長い年月の間に失われているため、デリーも含めロンダヌール王国の誰もそれに関する知識を持ち合わせていないのだが。
そうこうしているうちに、巨大な、と言っても30mもない金色の人型の騎士が現れる。
それを視認したシンは、”機動する戦士しちゃってるアレに出て来るアレには似てないな。どっちかと言えば星が5つの方かな? あれ? どっちも同じ人のデザインだったような?”などと自身の記憶が怪しいことに思考を巡らせていた。
緊張感のない勇者である。
上空1万2千メートル付近を飛んでいたキチョウは、砲撃体勢に入った感じの動きを見せたそれに、一応の警戒心を向ける。
そして、”マスターのシールド破れるならすごいなー。無理だけど”と余裕で考えていたりする。
万一、シールドが抜かれる様な事態になれば、キチョウのプライドはズタズタになる。
自身の渾身のブレスでもシンのそれを100%貫けない事を知っているからである。
そんな未来は当然起こらないけれど。
「うわっ! 警告とかなんも無しで撃って来るかぁ。一応人が乗ってるって向こうは気づいてないんかな? キチョウ。避けなくても平気だけど、手の内明かしたくないから出来るだけ避けてな」
「はーい。下手くそ過ぎて当たるほうが難しいかもー」
ひょいひょいと躱して近づくキチョウは蝶の様に舞うのである。
「おーい。一度話を聞きたいんだが、撃つのやめないか? やり合うのは後にしてくれ」
「誰だお前? 俺と対等に話が出来る立場の奴なんざ居ねぇぞ」
シンの呼びかけにアホ勇者はそう答える。
「まぁまぁ。そう言うなよ。日本から来たんだろ? 同郷の誼でちょっとお話するくらいいいだろう? 俺は朝田だ」
シンはそう言ってキチョウに接近させながら、子機アーマーの頭部を解除していた。顔を見せて話し合うためである。
「お前、シンだろ! そんな変装で誤魔化せると思ってるのか? 髪の色がちょっと違う程度で。広域指名手配の重犯罪者がこんな所で何を言ってるんだ! お前のせいで俺は死にかけたぞ」
「は? 俺、犯罪者なの? 指名手配犯? 初耳なんだが。どこで指名手配されてんの? 何の罪で? てか、俺のせいで死にかけたとか何?」
予想もしなかったアホ勇者の言葉に思わず素で聞き返してしまうシンだった。
「何を惚けてんだ? ルーブル王国から魔力の源を盗んで逃亡したんだろう? チート野郎が! お前のせいで召喚された俺は、碌に魔法も使えないで戦う羽目になったんだぞ。そして、死にかけて気づいたらこの世界だ。俺にもチート寄越せ! 魔法寄越せよ!」
おいおい、ここへ来てまさかのルーブル王国からかよ。言葉に困ってないのは、俺と同じで言語理解を授けた存在が居るな? おそらくここへ来る時に。そう当たりをつけて初期の疑問を一部解決したシンである。
「は? 逃亡なんてしてないぞ? 俺は王国の罠に嵌められて飛ばされて死にかけただけだ。この世界に居るのは、色々と偶然と言うか、奇跡が重なった結果だな。重ねて言うが逃亡して来た訳じゃない。それと、魔力の源も盗んだりしてない」
シンとサンゴウとの邂逅が奇跡であったことは間違いない。そして、邂逅したのがシンでなければ、サンゴウもシンもこの宇宙には存在することがなかったのは紛れもない事実である。
「犯罪者の言い分が信じられると思うのか? だいたいここへ何しに来やがった。この国は俺の物だぞ。竜退治した俺への正当な報酬だ。どこに隠れてたのかは知らんが今更出て来ても遅いわ!」
アホ勇者はそう捲し立てながら未だ撃つのは止めない。
かなりの部分で重大な認識の齟齬があると、ここまでの会話で察知はしたものの、奴には奴なりの言い分と言うか事情があったらしいことはなんとなく理解出来たシンである。
しかし、だからと言って、もしも奴のやった事がシンの想像と同等かそれ以上であるなら、なんの免罪符にもならないけれど。
シンが言い合いのような会話で情報収集をしている間、キチョウは撃たれ続け、回避し続ける。戦闘経験をどんどんと積み上げ、回避行動がより精練されて行くのだった。
「ギルティ。日本からルーブル王国へ召喚された部分には同情出来るが、後の行動がダメダメ過ぎるわ。同郷の誼で一応聞くが、反省とか改心とかしてやり直す気とかある? 最後のチャンスだからよっく考えて答えろよ? 外道君」
更に色々と聞き出す事に成功したシンは、「ダメだこいつ。早く何とかしないと」と定番の台詞を心の中だけで呟く。
そして、チャンスを与えるような発言だが、実態は煽りに行っているだけである。
ここでもし、「すいませんでした! 反省してます。許してください」とか言い出され、土下座でもかまされた日にはどうする気だったのだろうか。
勿論、アホ勇者の選択は違うけれども。
斯くして、戦闘は中距離から近接でのキチョウと機械騎士の戦いへと移る。シンが手を出せば一瞬で終わるのだが、キチョウの成長の機会だと余裕を持って見物モードだ。
そして、外から見た絵面はきっとリアル系よりスーパー系だなーなどとどうでもいい事を考えていたりするのだった。
「キチョウ。もうそろそろいいか? これ以上は機体を壊す前に終わらせたい。あれはあれで機体性能だけは大した物だから、完全破壊は勿体ないんだ」
小一時間稼働し続け、未だにエネルギー切れも弾切れも起こさず戦闘出来ている金色の機体に興味が出たシンは、キチョウにそう話しかけて戦闘への介入の了承を得るのだった。
「さてと、ちょっと気の毒な方法ではあるんだ。でももう理不尽に恨まれてるようだし、いいよな? 影縛り! からの~影収納」
シンはあっさりと行動を封じると、機体丸ごと影魔法で影の中に放り込んだのだった。
この方法は、シン以外の勇者であれば、入れる事自体が機体サイズの問題で厳しく、入れたままの維持は魔力消費が継続されるため現実的な手段ではないのだが、シンにとっての負担という意味では限りなく0に近い、誤差とも言えるレベルの極小の負担となるのだった。
哀れ、アホ勇者は真の闇の中で精神に異常を来たすか、餓死のどちらかの未来しか存在しない完全に詰みなのだった。
「1週間も入れたままにしとけばいいだろ」
発想と行動が極悪非道な主人公である!
遺跡の入口の警備? 守備? をしていたロボット達は内部へと引き上げて行く。キチョウは子竜の姿へと変化し、シンと共に遺跡の内部へと入るのだった。
そして、入口直ぐの所で見つけた石碑。そこにはこう記されていたのである。
「我々の種族は肉体的に種族限界を迎え、精神生命体へと昇華する。我々が宇宙に蒔いた生命の種から進化せし者達よ。ここに残す機材は自由に使って役立てて欲しい。いずれは、我らの後へと続く進化を遂げることを願って」
俺は技能のお陰でこれ読めるけど、読めるのが来るとは限らんよな。実際ここの王家の人達だって読めてない訳だし。とシンは思ったが、おそらく進化の極限に達したであろう存在の考える事を理解しようとするのに無理がある! とそこら辺を突き詰めて考えるのは放棄する。
長期間劣化しない情報伝達の手段はやはり石碑最強だよね!
内部の調査で召喚に使われたと思われる機械は、大量の魔石の残骸がエネルギー供給源と考えられる感じで接続されてはいた。が、シンにもキチョウにも原理を理解する事は出来なかった。
魔法的技術の召喚ではないという事が理解出来ただけである。
エネルギーとなる魔石は完全に使い尽くしており、もう稼働する事は無いと考えられたが、シンはさくっと機械丸ごと収納空間へと放り込んだ。
アブナイものは放置しておけないのである。
尚、この機械も含め、機器の全てに小型の石板が近くに設置されており、使い方はそれを読めさえすればサルでもわかるような親切設備になっていた。
アホ勇者が色々と直ぐに使いこなせた理由がこれで判明したのである。
そして、囚われていたデリーの姉は遺跡内部で無事に発見される。サンゴウは地表の遺跡入り口付近までやって来てデリーとミウを下し、彼らは感動の再会を果たすのだった。
「デリー。姉さんが無事で良かったな。ところで、ここの遺跡なんだが。もうめぼしい物は残っていない。宇宙船があったドックは使えなくもないけど宇宙船が無いのだから無用の長物だろう。俺としては封印魔法で封鎖しておきたいところなんだがどう思う? あ、アレが出て来た機械と巨大機械騎士だけは俺が報酬として貰うからそこは納得してくれ」
「はい。封印していただいて構いません。私達には使いこなせませんから。後、機械とかに関しては、決定権のある父はもう居ませんので私の判断で許可とします。王家の財産なのですが、ジンさんにお渡しできる報酬は他に有りませんので。寧ろ、それだけでいいのですか?」
「ああ、勿論だ。あ、それとアレの身柄。必要なら引き渡しても良いが、どうする?」
公開処刑とか、シンとしては気分の良い話ではないものの、王家としてデリーが必要なら仕方がない事だと割り切ることも出来る。親の仇なのは確定であるのだし。
「要りません。只、ジンさんのお手を煩わせるのは恐縮ですが、キチョウさんに私も姉も乗せて貰って城へ凱旋する事は可能ですか?サンゴウさんも共にで。それが実現出来れば、機械騎士は倒したと宣伝しても信憑性が得られ、臣下も民も落ち着くと思うのです」
「ああいいぞ。キチョウ。出来るよな?」
「はいー」
こうして、デリーはシンが江戸城だと思っていた、ロンダヌール城へと帰還する。
まだ幼少であるので、即位式を行い王位継承は行われるが、姉が後見人として摂政も兼ねることとなる。
そして、ロンダヌール王国が全国統一王朝としてスタートを切る事となったのであった。
ジンとキチョウとサンゴウは、怪物が最後に荒らして倒された場所の岡山周辺、四国、九州の復興作業に協力した。
そうして、2か月後には魔法無双とサンゴウの性能のゴリ押しにより、何の問題もなく初期の復興は終わる。
デリーの配下の管理部門の人間を連れまわし、色々と見せつけられた彼らは、”なんじゃこりゃぁぁぁ~”と頭を抱えたのだが、それは些細な事なのである。
何も問題はなかった! いいね?
「本当に、領地とか身分とか要らないのですか? 姉との婚姻だってOKなのですけど」
そこまでデリーが言った瞬間、ミウの気配が膨れ上がる。獣人の殺気丸出しは危険だ! 抑えなさい!
「あ、ジンさんは奥さんがいっぱい居ますから必要ないですよね。すみません。失言でした」
この後、デリーとミウは話し合う時間を取る。議題はミウがシンと共に帰るのか、ここに残るのか、だ。
デリーは王位を継いだばかりで信頼出来る護衛が居ないと考えたミウは、シンにお願いして、叶うのならば数年はここに護衛として残ると決めた。彼女は自身の我が儘は承知だが、どちらも叶えたいので仕方がない。そしてそれは、シンには叶えて貰えると確信していたのだった。
こうして、シンとサンゴウは帝都に戻るが、定期的にデリーの城に用意されたジン専用の部屋へと顔を出す事が決まった。ミウは内々の愛人枠を手放す事はなかったのである。
あれ? キチョウの進化はどうなったんだ? と未来の龍の姿を妄想しつつ、サンゴウを影に収納して転移するシンなのであった。
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