第33話

 旧自由民主同盟最終支配宙域。


 シンとサンゴウは賊を探してウロウロとしていた。3か月ほど自宅でのんびりいちゃついた後、復興開発の一助も兼ねた活動を開始した結果である。


 ジンとなってしまったシンは傭兵ギルドのランクが一からやり直しとなっていた。

 しかしながら、サンゴウを相続しているという点が、ギルド登録時にマスギルに考慮され、中級下の仮免許扱いというギルドマスター権限での特別措置が取られることとなった。

 これは、功績を積み上げるまでは、賊狩り関連に限って中級下までの依頼を受けられるけれど、立場自体は見習いからのスタートというものである。

 戦闘の実績が0のジンでは、信用の問題から護衛や輸送では優遇は受けられない。

 さっさと賊をどんどん狩って実績積んで下さいね! という傭兵ギルドの打算丸出しの優遇措置なのであった。

 帝都周辺宙域では治安が良いため賊はほとんどいないが、まだ支部すら置いていない宙域の常設依頼として、賊狩りを消化して欲しいという理由もあったけれど。

 そして、ジンとしてのシンは、特に身分証が必要な立場ではなくなってしまっているが、日本人が車の運転免許を取るような感覚で登録と活動を行うのだった。


 鉱物生命体の侵略を受け、殲滅被害にあったシン達がいる宙域は、現在、統治領主の選定がされている最中である。

 新しい公爵家を置くのか、辺境伯とするのか、も含めて選定が難航しているのだった。

 しかし、復興開発は先行して行われている。そして、当然ながら各星系の治安維持を担う領軍は存在していない。

 つまり、賊にとっては狙い目の宙域と化していたのである。


「お、またそれっぽいのが探査魔法に引っ掛かったぞ。サンゴウはどうだ?」


「はい。おそらく同じ物を探知出来ています。向かっていますよ」


「マスター。退屈ですー」


「キチョウがやるとサンゴウの撃墜スコアに記録上ならんからな。ランク上げが終わってれば”鹵獲品さえあればいい”で任せてもいいんだが。しばらくは我慢してくれ」


 種族的な進化は神龍で止まるハズであるのだが、キチョウは自身の更なる進化の可能性をより鋭くなった勘で感じていた。なので、戦闘経験と魔力の両方を欲していたのである。

 しかし、無理に急ぐ事でもないので、シンからそう言われてしまえば、魔力を貰って大人しく寝ている事にするのだった。


 こうして、3か月ほどこの宙域に留まったサンゴウは順調に撃墜スコアを稼ぎ続け、仮免許ではなくなる程度の実績を上げる。やって来る端から片付けていたので、賊が持っていた財貨は少なく、あまりお金にはならなかったけれども。


「艦長。小型の高速物体から微弱な通信波のようなものが出ています。通信内容はわかりません」


「ほう。このモニターに見えてるやつか。探査魔法に引っ掛かってはいたんだが、人工物だと思ってなかったわ。これ宇宙船か? 見たことない型だな。ん? 破損もしてないか? これ」


「破損していますね。何かに攻撃されたというよりは、障害物に接触したという感じです。後、サンゴウが持つ艦船データには該当する物はありません」


 サンゴウが持っているのは帝国、旧自由民主同盟、デルタニア軍の艦船データ全てである。


「生命反応を感知。1つですね」


「通信波は音声変換出来るか?」


「はい。音声変換して出力します」


 シンは音声を聞き、救助求むの繰り返しであることを知る。そして、またかーと思いながらもサンゴウに指示を出すのだった。


「サンゴウ。救助対象だ。鹵獲してくれ」


「はい。では相対速度合わせを行い、牽引で鹵獲します」


「ベータワンの時と同じだ。子機で内部の調査を。後で収納空間へ放り込むからデータも抜けるなら抜いておいてくれ」


「はい。そのように」


 こうして、シンとサンゴウは男の子が入ったカプセルをサンゴウ内に運び込み、意識が戻るよう手を施すのだった。


「5歳かその辺の年頃の男の子だよな? 意識が戻ってもまともに話が成立するかわからんぞ。これは」


 内心では、とりあえず、異形の宇宙人じゃなくて良かった。と胸をなでおろしていたシンである。


「そうですね。サンゴウではおそらく会話が出来ませんので、意識が戻ったら艦長に対応はお任せします。生体反応レベルは上昇中。後1時間以内には目を覚ますでしょう。後、艦長、宇宙船のデータは抜き取り終了です。子機の撤収も完了しました。以後はデータの精査に入ります」


「了解だ。では収納っと。あ、キチョウ。子供を驚かせるといけないから、モニター越しの会話をする時には映像内に入らない様にな」


「はい。マスター。後で遊んであげればいいですねー」


「そ、そうだな。その辺は臨機応変に頼む」


 神龍って、知能は高くても精神年齢はそれほど高くないのか? と疑問に思ったが口には出さないシンである。


 そんなこんなで時間が経過し、子供が目覚めた。


「ここは? 誰か! 誰かいないか!」


「艦長。起きましたよ。よろしくお願いします。後で翻訳可能なように内容解説お願いしますね」


「ああ。モニターで繋げてくれ」


 こうしして子供との会話が始まる。


「艦長のジンだ。ここは安全で君に危害を加える者は存在しない。落ち着いて話をしてくれないか?」


「ここはどこですか? 皆は? 妹や弟はどこ?」


「まぁ、パニックになるのはわからんでもないが、騒いでも解決はしないぞ? まずは名乗るとこから始めようか? 君の名はなんという?」


「わかった。私は、デリー。ロンダヌール王国の第一王子だ」


「そうか。改めてもう一度。俺はジン。この宇宙船サンゴウの艦長だ。君が乗っていた船の救助信号を受信して救助して今に至る。生存者は君一人だ」


「皆死んだのか。そうか、私だけか。ハハハ。古代超文明の遺産なんかに頼るからこんなことになるんだ! チクショウ!」


 デリーは座り込み、呆然とした顔でそう呟いたのだった。


「とりあえず、飯と飲み物は運ぶから食ってくれ。落ち着いて話が出来る様になったら、呼び掛けてくれよ。ではまた後でな」


 お手上げのシンは一旦時間を置くことにしたのである。先送りしただけとも言うが。


「サンゴウ。飯と飲み物。子供向けな感じで頼む。後、会話内容の解説するから、言語解析を頼むよ」


「はい。艦長。子機で食事を出しておきますね」


 古代超文明とかそんなパワーワード要らんのだけどなー。というか、ここで王子様? 王女様じゃないの? などと、どうでもいい思考に突入してしまったシン。残念勇者は未だ健在なのであった。


「なぁ。サンゴウ。あの子、おそらくだけど、ここの銀河の人間じゃないよな?」


 デリーとの会話内容の解説が終わって手持無沙汰になったシンはそうサンゴウに話を振る。


「はい。鹵獲船から抜いたデータで判別すると、ラムダニュー銀河という所から来ていますね。このデータからではよくわかりませんが推定で10万光年は離れていると考えられます。一番近いのが6万光年のウミュー銀河で、方向は全く違いますけど一応お隣の銀河ということになります。超空間航行の技術レベルはデルタニア星系の技術に近いレベルまで来ています。ただ、妙な事に長期間モスボール化されていた記録があります。5万年程。再稼働してから3か月弱ですので、再稼働後直ぐにこの銀河へ向けて発進しているようです」


「モスボールって確か保管というか保全のために使わないでお蔵入りみたいなやつだよな?」


「はい。ざっくりとした認識はそれで合っています」


 モスボールについてサンゴウに確認しながらも、おいおい、今度は亡国の王子ってか。戦争終わってまだ半年くらいなんだがなぁ。と遠い目になるシンである。


 デリーが落ち着いた後、改めて事情聴取となる。意外にも歳相応以上の利発さを見せたデリーから、結果わかったことは以下となっている。


・デリーが乗ってきた船は同じものが3つあり、妹と弟がそれぞれ別々に乗り込んで脱出したこと。

・船自体は古来から王家に伝わっていたもので秘匿されていたものであること。

・妹が生まれた年に怪物が現れ、国土を蹂躙されたため、古の伝承に従って、英雄への祈りを捧げたこと。

・祈りを捧げた古代遺跡から1人の男が出現し、遺跡内の兵器を使って、怪物を退治したこと。

・怪物退治後、姉を攫い、俺が王になると兵器の力を国と民へ向けたこと。

・王は王子2人と王女1人を脱出させ、おそらくその後死んでいること。


 そこまで確認が出来た後、なんとも言い難い気分になりながら、シンはデリーに尋ねた。


「デリー、その現れた男にどうやって怪物退治をさせたんだ? 強制する何かの方法を取ったのか?」


「いいえ。伝承によれば、生命の窮地に陥っている人で、力ある者が出現することになっていて、出現後1日以内なら祈りを捧げた場所に戻れば、元の所に帰れるようになっていることを説明ました。力ある者のはずですので、強制ではなくお願いです。但し、お願いが聞いて貰えない場合は、帰っていただくか、幾ばくかのお金をお渡しして出て行って貰う話になっていました」


 拉致からの隷属や強制ではないなぁ。選択の余地がないから強制と本人は受け取るかもしれんけどな。って勇者召喚じゃねえか! いやーな予感がヒシヒシとしてきていたシンは更に疑問を投げ掛ける。


「その現れた男の容姿って、黒い髪と黒い瞳じゃなかったか? 後、魔法! とかチート! とかステータス! とかの言葉に聞き覚えはないか?」


「髪は金髪でした。瞳は黒かったです。チート寄越せ! って叫んでいました」


 髪を染めてる日本人だなーっと思いながら、どーするべ? と考え込んでしまうシンである。


 そして、シンは、デリーをシンが保護することにして一旦自宅に戻り、今後の事はゆっくり考えよう。と説き伏せ、話を切り上げる。

 何をどうするにせよ、このまま帰らずに活動する訳には行かないのだった。


 サンゴウは帝都へ進路を向ける。子供が乗っているので速度はそれなりとなっていた。

 そして通信可能距離まで来た時、以前の獣人の時と同じようにシンと協力して各種手続きを行うのだった。過去に似たような経験をしているので楽な作業だ。但し、外国の王族であるので、帝国への住民登録は行わず侯爵家の客人扱いである。


 この航行中に、デリーは艦内でキチョウを見る機会が有り、”怪物の子供が何故ここに!”と恐慌状態に陥った。が、シンとサンゴウが上手く取りなし、今では一緒に遊べるようになっている。

 怪物呼ばわりされたキチョウは、最初は面白くはなかったが、自身と見間違えるような生き物がこの世界にも居るのかと興味を示し、情報を引き出そうという打算もあって、お友達になったのであった。

 ちなみに、情報収集した結果から、怪物は老竜クラスの地竜でブレスが使えないタイプだと推測された。空も飛べずにブレスも吐けない地竜と、一緒にして欲しくない! と考えてしまったのは、キチョウのプライドなのであろう。


 20m級で自宅へと到着したシンは、ミウにデリーの事を任せた。異文明から来たという共通点があるので、馴染みやすいと思ったからである。


 シンの心情としては、デリーの話を聞く限りでは同郷のアホウがやらかしたのでなんとかしてやりたい。

 そして、古代超文明の遺跡とやらに、この銀河に到達する手段がある可能性が否定出来ず、バカが戦艦でやって来る前に叩き潰したいと考えていた。

 また、魔法がないはずのこの世界で勇者召喚が出来たのは何故なのか? を調べたいという興味もあって、デリーの惑星へ行ってみたいという欲求もあったのだった。


 そうしたモロモロの考えから、まずは内々でローラ様にご相談となる。


「という訳で、数年程留守にしていいですか?」


「いきなりなんですか! 何がという訳なのかちゃんと説明なさいな。でも、聞いても許可は出せませんよ! ノブナガ君に当主を譲るまでは無理です。早くてもまだ2年以上は先です。それに急げば、ノブナガ君は経験が少ないまま当主を継ぐことになり大変ですよ?」


「えーとそれでは、家族旅行という事で、全員で」


「ダメに決まっているでしょう! 近衛に所属していて長期間、緊急出動が出来ないとか許可出来る訳がないでしょうに」


 こうして、ローラとの妥協点を探す話し合いが続く。デリーの居た星へ行くことはシンの中では決定事項であるので、後はどう折り合いをつけるかである。


 アホ勇者とか勘弁して欲しいんだがなぁと、自身が残念ポンコツヘタレ勇者なのは棚に上げて考えてしまうシンなのであった。

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