第4話

  第15惑星周辺宙域サンゴウ船内。ロウジュ達3人を収容し、モニター越しに面談を行っている部屋である。


 区切りの良い所で一旦中断し、客室区画への移動をサンゴウは提案する。そして、個室と4人部屋を3人での使用とどちらが良いのかの確認が行われ、ロウジュら3人は4人部屋へと案内されたのだった。


 その後も適度に休息、食事、入浴、睡眠などを挟みつつ、ロウジュからギアルファ銀河についての通り一遍の知識、その他開示できる情報というものをどんどこ語って貰う。そして、サンゴウの適度な知識欲からくる質問なども挟みつつ3日。ついに、中立コロニーグレタの宙域へと到着する。

 到着はしたのだが、サンゴウは通常なら持っているべき船籍コードや艦籍コードなど当然無い。また外観的にも、明らかにメカチックなこの銀河の宇宙船とはかけ離れており、不審な目で見られるのは避けようもない。

 なんの手段も講じずグレタへの接近を行えば、賊の宇宙船として扱われ、攻撃されかねないのである。


「ロウジュ様、事前の打ち合わせ通り、通信回線を開きますのでグレタとの交渉をお願いしますね」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


「では、艦長最初の挨拶は艦長からで」


「おう、回線開いてくれ」


 そうしてグレタとの通信が始まる。


「こちら宇宙船サンゴウの艦長シン。この銀河星系外からやって来たためここで通用すると思われる艦籍コードを所持していない。が、決して賊の類ではなく当方に攻撃の意思はない。グレタに入港したいと考えるがどうすれば良いか? 指示を願いたい」


 一旦言葉を切って、ロウジュの様子を確認する。特に問題はなさそうなので言葉を続ける。


「尚、本艦はここへ来る途中の宙域において賊と輸送艦の戦闘に遭遇。輸送艦の救助要請を得て戦闘に介入。賊の掃討に成功はするものの、その時点で輸送艦は大ダメージを負っており、残念ながら3名の生存者のみの救出となった。生存者は当艦内に保護しており、該当3名はグレタへの入国を希望している。一度該当3名の代表者に通信を代わる」


「ベータシア伯爵家の長女ロウジュ・ハ・ベータシアです。優秀なクルー、そして従者の尽力により、妹2名と共に避難カプセルに退避したことで生き残りました。グレタへの渡航手続きは事前に連絡が行っているはずですのでご確認いただきたく」


「こちらグレタ入国管理局。オペレーターのガンコンです。船籍コードか艦籍コードの無い艦船の入港は前例がなく、また賊ではないという証明も不可能であるため、入港及びこれ以上の接近は現時点では許可出来ません。ロウジュ様リンジュ様ランジュ様の3名については、本日の到着予定時刻を12時間程過ぎています。ベータワンの位置確認、そして通信も出来ず、伯爵家と当コロニーから捜索隊が組織され、あと30分程で出航予定でした。まずは、お亡くなりなった方々については大変残念な事とお悔やみ申し上げます。ですが、伯爵家三姉妹のお嬢様方全員の生還は喜ばしいことです。貴艦の入港や伯爵家令嬢の入国を含め対応を検討するので、少々お時間をいただきたい。対応の決定の有無に拘らず、一旦1時間後に再度通信連絡を入れ、対応の決定や進捗について改めてお話するという形でご了承いただきたい。艦長のシン様よろしいでしょうか?」


「艦長シン。了解だ! では、本艦は現宙域にて待機。次回の通信連絡を待つものとする。いい塩梅によろしくお願いしたい。通信終わり」


 おおむねサンゴウの事前予測の範囲内に事は収まった。打ち合わせ済みの内容の推移であったため特に問題なく最初の交信は終わったのだった。


 現時点でロウジュに確認すると、藪蛇になりそうな事であるため、サンゴウとシンだけで内緒話をして、あえて放置している問題が1つだけ残っている。賊の鹵獲品についてである。

 通常の賊は軍用の武装品を持っていないという常識と、戦闘開始前に避難カプセルに入った3姉妹は戦闘状況を知らないため、そして数の戦力比が、サンゴウの賊への攻撃映像から、多勢に無勢でベータワンはやられたのだろうと、納得できてしまう数に見て取れていたため、ロウジュが軍用の武装で襲われているとは認識していない点である。

 ロウジュは、鹵獲品は民生武装の範囲内と思い込んでおり、鹵獲品の所有権は問題なくシンに帰属すると説明してしまっている。

 シンとサンゴウは、そもそも民生の武装がどういうものか、どこからが軍用の基準の威力に相当する武装なのかという知識は当然持ってはいない。いないのだが、曲がりなりにも、単艦航行が安全であると思われている軍用輸送艦がやられている時点で、軍用の武装が使われているのではないか? と疑いを持っている。

 そしてその疑いは事実としては正しい。となると、もしも鹵獲品が軍用武装だとバレれば、ロウジュの説明から接収対象になるということは容易に想像出来てしまうのである。

 サンゴウとしては特に執着もないので、接収されてもいくらかの対価を貰えばそれでも良いとも考えている。

 だが、シンは勇者時代の扱われ方から、自分の力で手に入れた物に干渉される事に対し、激怒するようになってしまっている。

 実際の戦闘自体はサンゴウがしており、厳密にはシンの力で得た物かと言えば、若干の疑問の余地はあるのだが、シンの認識ではもう俺の物になってしまっているのである。


 次回の通信まであと10分程になった時、サンゴウは1隻の宇宙船が接近してくるのを感知した。警告通信を発する。


「こちら宇宙船サンゴウ。当艦はグレタ入国管理局の要請により現宙域にて待機中。連絡待ちの状態である。貴船の接近目的は何か? 目的が明らかにされない場合や、当艦に害意があると判断した場合、自衛戦闘行動に移行する。速やかに接近目的を知らせて欲しい」


「こちらグレタ201号。ベータシア伯爵家グレタ邸執事長セバスと申します。お嬢様方の身柄の引き渡しを! と言いたい所なのですが、それは諦めます。せめて近くにて待機したいという点と、可能であれば、身の回りの世話をするメイド長以下3名のメイドだけでも乗艦させたいということでやって来ました。グレタでの対応決定を待っていると何時になるかわからないため、僭越ではございますが。バタバタとしており事前通信を怠っていた事についてはお詫び申し上げます」


 通信を聞いていたシンはそこはセバスチャンじゃないのかよ! と心の中で盛大にツッコミを入れる。全く持ってどうでもいいことで一人盛り上がったり沈んだりのポンコツ勇者である。そして、関係も脈絡もないが童貞である。拗らせるといろいろヤバイ奴に進化するという見本がここに居るのだった。


「艦長。どうしましょうか?」


「うーむ。近距離までの接近やメイドらの乗艦を認めた場合、サンゴウに対処不能な危険があるだろうか?」


「はい。絶対の安全であるとは言い切れません。が、実際のところその可能性はほぼないというレベルだと推測します。そして仮にですが、サンゴウに対処不可能な事態に陥った場合でも、艦長の能力があればなんとでもなるのでは? とも推測しております」


「ま、俺、勇者だったからね。相応の実力はある。おそらく個人の単独戦力評価なんてものがあったとすれば、最強で最恐の化け物クラスだろうな。サンゴウの信頼が嬉しくもあり、怖くもあるよ。だが、おそらくその通りなんだろう。よし! 接舷とメイド長以下3名の乗艦を了承する」


 サンゴウには見せてはいないし、教えてもいないが、聖剣を持ち出しての全力攻撃はものすごい威力である。攻撃系の極大魔法は今だ試していないが、勇者時代とは違い、込められる魔力に実質上限がないと思われるので威力はお察しである。そして防御力もシールド魔法を貫ける攻撃なんてあるのか? レベルである。

 少なくともサンゴウの攻撃でシールド魔法を抜くことは出来ない事だけは、シンにはわかっていたのだった。


 サンゴウは生体宇宙船であるため、いわゆる搭乗口と呼ばれるものは存在しない。外殻の大部分から任意で中に入る事が出来るのである。出来るのであるが、そんな事はこの世界の住人には理解出来なくて当たり前。

 そして、いざ接舷となった時に、どこに接舷すればいいんだよ! と執事とメイド長らが乗船している船の操縦士は悩むことになる。

 結局、操縦士は目視でそれらしい場所を見つける事が出来ず、通信士へと接舷場所聞いてくれと指示を飛ばす羽目になるのである。


「接舷作業中ですが、グレタオペレーターのガンコン様より通信。結論を出すまで12時間欲しいとのことです。了承でよろしいですか?」


「ああ、構わない。了承と送っておいてくれ」


「了解です。返信しました。そして、接舷完了。グレタ201号のハッチへ当船への乗船可能通路を接続して開きました。安全のため接続した部屋で、乗船予定の4名が到着後、健康診断と滅菌処理を行います」


 さすがサンゴウだ。そういうとこは忘れないのね。と妙に感心してしまうシンなのであった。暢気なものである。

 そして、これもわざわざサンゴウに教えている事ではないのだが、状態異常への耐性はあるし(無効には至れなかった)解毒魔法、対ウイルス性病気回復魔法、解呪魔法といったものを一通り使えるシンなのである。よって、シン自身は即死でもしない限り病気で死ぬような事はないだろうと思っている。

 しかしながら、サンゴウがシンの身を案じて検疫をしっかりと行っている事は明白であるし、サンゴウ自身も生体であるので病魔と無縁でいられるとは限らないという点から、こういった事はきっちりすべきなのは間違いないのであった。


 サンゴウは宇宙服状態での滅菌後、空気の充填を行い宇宙服を脱いでの滅菌と健康診断へと入る。その間に子機が、持ち込まれた大荷物にまとわりついてスキャンを行い、安全性を確認している。


「有機AIサンゴウです。よろしくお願いします。さて、新たに乗船されました皆様へのお知らせとなります。改めて確認するまでもなく常識的な事であると解釈しており、武器持ち込みへの認識が異なっていた点に、気づかなかったことはお詫び申し上げます。ですが、当船への滞在時に武器所有を認める訳には参りません。ですので荷物の中から武器については、下船時まで封印して当船預かりとさせていただきます。なにとぞご理解ご了承のほどよろしくお願いします」


 あらま、大型ビームガン、小型ビームガン、閃光手榴弾、大型盾、長剣、短剣。いろいろ持ち込んで来てるなぁ。俺ってそんなに信用ならんツラでもしてるのかね? と、ちょっと凹むシンである。が、画面が暗転し着替えから復帰した映像を見てそんな気分は吹き飛ぶのである。

 エルフ耳メイド! エルフ耳メイド! 童貞オタクを殺しに来てるのか! と言わんばかりのゴシックロリータ風メイド服装備のエルフさん登場である。当然であるが彼女らに童貞オタク殺しなどと、そんな意図などない。全くない! 単なる職業的制服である。

 この勇者は一度死んでやり直すべきかもしれない。と、サンゴウに思われても不思議ではない位の、傍から見たら謎に見える盛り上がりを見せるシンなのであった。 

 本当に浮き沈みが激しいヤバイ奴である。


 モニター越しにメイド長らとシンの挨拶が行われる。アルラメイド長、第一メイドがミルファ、第二メイドがキルファ、第三メイドがジルファという名だと知った。よく似た名前である。(作者が面倒で似た名前を適当に付けたなどと考えてはいけない! いいね? わかったね?)


 サンゴウはメイド長に1室、3人のメイドには4人部屋を1室用意し、子機に案内させる。荷物は子機が荷物専用の部屋としてメイドの4人部屋の隣に運び込む。

 荷解きは彼女らのお仕事なので運び込んだだけで終了である。


 艦内の男女比は男性1人に対し女性7人。しかも美女揃いというどこのハーレム野郎だ! 状態なのであるが、シンは操船艦橋とそこに隣接する艦長用私室のみで生活しており、女性陣と生身で相対することがほぼ無い。というか、ロウジュがグレタとの通信時に艦橋へ来た時が実は生身での初めての対面であったりした。

 交流する理由がこじつけ出来ない童貞オタクなんてこんなものだ。画面越しでも美人を見られるってだけで、そこそこ満足してしまうヘタレ野郎なのである。


 シンは3姉妹に対し、救助し、安全を提供している。そして、生体宇宙船の船室という通常の宇宙船とは比較するのも馬鹿らしいほど快適な生活環境すらも提供している。それでいて、不用意に接触してこないという艦長に対する3姉妹の好感度は実はそれなりに高くlikeとloveの中間程度にはなっていたりする。ここで押せ押せならloveに届くかもしれないのだが!

 ポンコツ童貞勇者のシンにはそういった恋愛関連の技能はなく、ハードルが高すぎるのである。残念!


「艦長。小型人型兵器の解析が完了しました。それと搭乗員の遺伝子解析も完了しました」


 小型人型兵器ならサンゴウ内で収納から出すスペースの確保が可能なため、後々最悪接収もあるかもということで、さっさと解析を進めていたのである。


「子機の変形からの艦長への装着合体機構を、この機体の性能やら構造やらを参考に出来る様にしてみました。子機7体をそれ専用に改造しております。まぁ艦長なら宇宙服すら必要無しに生身で相手が出来そうなんですけどね。搭乗員は遺伝子から見てエルフではありません。艦長とほぼ同一人種だと推測されます」


 嫌な予感がビンビンくる賊の情報を得てしまったシンなのであった。

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