第2話
第15惑星周辺宙域。ベータシア星系の惑星軌道のうち外側から数えて2番目に位置する惑星である。
どこかのアニメで見たような宇宙船? 宇宙艦? が、5隻の宇宙船と複数の機体、小型人型兵器と思われるものに追い回されているのが、サンゴウのメインモニターの映像から確認出来ていた。
「介入可能距離まであと60秒です」
「こちらからの連絡は可能か? 賊と同類と思われて攻撃されたらつまらんしな」
「はい。言語解析は終わっておりますのでサンゴウとして通信も可能ですし、艦長の映像と音声を先方が使っていると思われる通信方式での送信が可能です。しかしながら、映像データの再現やそもそも再現できるような機器があるのかは判断しかねます」
ここまでの解析や予測していることからして、このサンゴウという有機AIは、相当に優秀なのであろうことは容易に想像出来た。この言い方から察するにシンとしての音声通信が望ましいと考えてはいるが判断は委ねるといったところなのだろう。
「了解だ! では俺の音声を送り付けてやってくれ」
「こちら宇宙船サンゴウ。緊急と思われる通信を傍受し、救援に駆け付けました。艦長より音声による通信を行います。尚、言語体系が異なるため翻訳して送信します。翻訳ミスによる若干の問題の発生があったとしてもお許しください」
ここへよろしく! とばかりに、マイクのようなものが足元から生えてきて、驚くものの時間もないのでとっとと話しかけることにするシンだった。
「えー。艦長のシンだ。困ってる感じなので助けに来た。これより当艦は戦闘行動に入り、追っていると思われる賊らしき物を排除する。何か排除以外の希望があるなら助けを求める時に出した通信の方法を以て、当艦サンゴウに呼び掛けてくれ。必ずしも希望通りにこちらが行動出来る訳ではないが、出来る範囲の事は対応したいと思う。では通信終わり」
さくっとマイクが仕舞われていくのをなんとも言えない気分で見ながらサンゴウに問い掛けるシンである。
「あー。サンゴウに確認せず排除するって言い切ってしまったが、俺が理解しているサンゴウの性能であれば、見た感じのあれら賊の排除は可能だよな?」
「はい。勿論可能です。あ、賊らしき側から『俺らと獲物に手を出すんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ。黙って消えとけ!』だそうです。面白いですね。見たところのあの程度の戦闘艦では。サンゴウの所持データと比較すると30世代程度は性能が異なっておりますのに。蟻が戦艦に喧嘩売ってるのと同じだと理解が出来ないようですね。フフフ」
30世代という差が、どの程度の年月の差や性能差を生み出すモノなのかはシンには実感としては理解出来ない。まぁ当然の話ではある。
そして最後のフフフが怖い。とても怖い。なのでなにも突っ込まず無言を貫くシンなのである。
「通信波を受信。音声による出力を行います」
「こちらベータシア伯爵軍所属輸送艦ベータワン。貴艦の救援に感謝する。うわぁ被弾した! とにかくこいつらの排除をお願いしたい。頼む助けてくれ!」
「殺さずとか妙な条件の要望がなくて良かったな。じゃサンゴウ。排除を任せて良いか?」
「はい。ターゲットロック。物資の無駄を避けるため恒星からのエネルギーを利用するエネルギー収束砲を使用します。発射」
ビーム砲のようなナニカ。もちろんエネルギー収束砲のものであるが。複数一気に発射される。派手に爆発でもするのかと思っていたのだが、艦や機体を貫いただけである。艦には複数当たっており、とても無事じゃ済まないであろうことは容易に想像出来る。出来るのだが、ここは様式美として派手派手の爆散の花火が欲しい! などと不謹慎な考えに至ってしまうシンなのであった。
あっさりと賊は片付いた。が、ベータワンは止まる気配が無い。というかエンジン部かスラスターあたりが故障なのであろう。慣性で航行しているだけに見える。
このままだと第15惑星の重力圏に捕まるのでは? などと考えながら、どうしたもんかなとシンが思ったところにサンゴウから声が掛かる。
「艦長。ベータワンの艦の温度が急激に下がっています。おそらく深刻な故障が発生していると考えます。こちらからの通信呼び掛けへの返信もありません。いかがなさいますか?」
「えーと。サンゴウの性能からの判断なのだが、停止させてその後の牽引も可能だよな? だが、内部の生命体のみの収容はともかく、あの輸送艦丸ごと収容したり修理したりは不可能ってことで良いか?」
「はい。そうです。今のところ内部の生命体の反応は有りますが、状況から推測するにこのままでは長くないのではないでしょうか?」
「わかった。とりあえず横付けして強引に停止させてくれ。重力波を発生させて内部の生命体が、慣性で激突して死亡なんてことがないように上手いこと調整してやってくれるか? 後は俺のシールド魔法でとりあえず生命に支障が出ない空間を作り出すよ」
「あの特殊フィールドを使われるのですね? ですが、包み込んでも内部の環境は現状維持なのではありませんか?」
「ああ。そうだな。だが、勇者だった俺には範囲回復持続魔法があるんだ。魔力でごり押ししてやるから問題ない。ハズだ!」
確信も自信もある訳ではないが、そこは言い切ってしまうシンなのである。サンゴウには伝えないが、仮に助からなかったとしても俺のせいじゃないしな! などと、それでいいのか主人公! 的な考えまであったりするのだった。
「はい。では捕獲停止作業及び重力波調整を行います。作業完了まであと約10秒です」
「さすがだな。では10秒待ってっと。シールド魔法発動。範囲回復持続魔法発動」
あっさりと捕獲には成功し、現状維持は出来た。出来たのだが、さて、ここからどうするのか? が問題となる。
当初の予定では、”救助を恩に着せて情報を引き出そう”だった訳であるが、現状助けた生命体は会話できる状態に無いのである。もっと言えばこのまま生きている状態で会えるのか? まである。
「ところで艦長。先ほど排除した賊なのですが。生命反応の確認がてら近づいた時に機体、艦体が次々に消滅しております。優先順位が低いと判断した事と、艦長がなんらかの行為を行ったとの判断で報告しておりませんでした」
さすがにそりゃ気付くよなぁとポリポリ頬を掻きながらシンは答える。
「おう! 収納空間へ全部放り込んだ! 伝えてなくてすまんかった」
「収納空間? ですか? そのような物が存在するのですか? どういう原理でどういう物なのでしょうか? 興味がありますね」
原理なぞ聞かれても答えられる訳もなく、ただ使えるから使う。今のところ収納容量に上限を感じた事はなく、非生命体のみ収納可能だという事だけをサンゴウに伝える。
「なるほど。原理は謎だけれど便利に使える技能なのですね。サンゴウなら原理が謎な時点で入れた物が出せなくなるかも? という可能性も考慮して使うのを躊躇いそうです」
ま、そこはラノベ天国の日本人オタクだったり某ネコのロボットのアレだったりを知ってるという前提があるシンには使用への躊躇いなどない。ないったらない。
「という訳でだ、賊の死体と思われるモノも今俺の収納空間には当然入っている。だが、艦やら機体やらという認識で収納しているため、死体のみを出して検分するという事は出来ない。それをすれば少なくともどういう外観の生き物なのかだけはわかるのだがなぁ」
この時点でのシンには、サンゴウの内部において小型機だけでも収納空間から出して検分するという発想が無かった。サンゴウはその点に気づいていたが、優先順位としては検分するより輸送船の救助活動を優先と考えていたため、あえて指摘はしなかったのである。
「そういうものなのですね。サンゴウの推測になりますが、小型の機体は艦長の外観特徴である2足歩行と1対の手と頭部がある機体でした。ですので、形状としてはそのような知的生命体であると考えます。艦長と近似した外観特徴であると考えて良いのではないでしょうか?」
聞かされてみればなんともごもっともと感心する推測である。シンとしても人間(地球人)と同類のような生命体だと気が楽であるのでちょっと期待もしてしまう。
姫か貴族令嬢で頼むぜ! なんていうオタク脳まで発動してしまっていたりもする。
「お、おう。そうだな。で、あの輸送船なんだがな。俺がシールド纏って調査に行く方法とサンゴウの子機を内部に送り込む方法の2択しか思いつかないのだが。サンゴウになにかいい案はないか?」
「はい。方法としてはその2つだけになろうかと考えます。ですが艦長がわざわざ出向くよりは、子機による調査、可能であれば生命体の運搬及び当艦への収容がサンゴウとしてはベストと判断致します」
「そうか。やはりそんな感じだよな。では子機でよろしく頼む。後はモニター表示で見てることにする」
「はい。では最優先で生命反応がある地点を子機にて調査致しますね。現時点では反応は3つです」
300mほどもある全長の艦で3名の生存者。シンの感覚的なものではあるが、乗組員が3名のはずはなくほとんどが死亡してしまっているということなのだろう。
出来る範囲でやった結果であるのでシンが責任を感じる訳ではないが。
「生命反応3つ。1か所に固まっているところの付近に到着しました。扉と思しきものがありますが開閉機構は破損し稼働不可能です。子機による強制開放を試みます」
ミニサンゴウと言えるような、サンゴウをそのまま小さくした外観の子機が、羽部分を腕のように利用して強引に開けているのを別の子機からの視点でモニターする。
ちなみに、別視点で見られるのは3つの生命体を運ぶ可能性を考慮して3機が同時に調査に向かったからである。
「開放完了。部屋内部の空気の流出を確認。温度も急速に低下。生命体はなんらかの機械内に眠るように居ます。映像を確認して下さい」
「おお! えるふ? エルフ? かこれ!」
テンション爆上がりのシンである。そして部屋の中には残念ながらお亡くなりになったっぽい遺体が2つ。子機がいそいそと体細胞の採取および分析を行う。
「遺体からの遺伝子分析結果が出ました。艦長と大部分の遺伝子は一致か近似しております。あくまで推測になりますが、流出してきた空気の成分分析結果からも、呼吸可能な空気の成分は同じもので大丈夫と思われます。標準と思われる筋力、体格などから重力調整も個別扱いは不要と判断致します」
なんというご都合主義的結果であろうか。いやシンとしては不都合など全くないのだけども! むしろ大歓迎まであるのだけれど!
「そうか。位置は確認できた。そのカプセルポッドみたいのをシールド魔法で囲うからシールドごと持ち上げて運ぶのは可能だろうか?」
「はい。ではシールド魔法の特殊フィールドを確認したら子機に運ばせます。ただし、収容後、一旦艦内で隔離して滅菌処理と健康診断を行います。その後、モニター越しに対話して今後の対応を艦長が判断するという流れでよろしいでしょうか?」
検疫処理相当もちゃんと処理するとは! そんな事まで気が回らないシンは、サンゴウの提案にただただ感心する。ある意味脳筋ゴリ押しポンコツ勇者である。そして当然ながら代案や補足すべき点も思いつかない。
そんなこんなでシンは全面的に了承をサンゴウに伝えるのみであった。
「子機による収容完了しました。収容室の空気成分調整および重力調整完了しました。これより生命体が収容されている機器を開ける作業を開始します。開放後即滅菌処理に入ります。よろしいでしょうか?」
「ああ。予定通りやってくれ」
女性の寝顔をまじまじと見た事もない童貞勇者であるシンは、答えながらも目はモニターに釘付けである。そんな状態でありながらもベータワンの艦体はチャッカリと収納空間へ入れている。
但し、シンの頭の中は美人エルフが3人! 美人エルフが3人! の大興奮。ホントにただのヤバイ奴である。
検疫を兼ねた健康診断が始まったので、シンは範囲回復持続魔法を止める。サンゴウからは状態に異常は認められない。収容されていた機器を調べたところ、強制的に代謝機能を低下させるものであり、最低限の生命維持を小エネルギーで長時間駆動しつつ救難信号を発信するという物であったという報告を受ける。
サンゴウから見ると艦自体は30世代前の技術相当である。しかし、この収容機器は、生存に重点を置くという点のみにおいてかなり優秀というか技術が進んでいるそうだ。
でも、それって今回みたいなケースだと、賊が即見つけて捕まる危険満載だよなぁ。などと割とどうでも良い事に思考を向けながら、相変わらず目はモニターに釘付けのシンである。
「生体反応レベル上昇中。おそらく数時間以内には会話可能な状態になると判断します。状況に変化があるまで第15惑星付近にある小惑星を航行エネルギーに変換してよろしいですか?」
「ああ。そういえばエネルギーはまだ十分ではなかったんだな。おう! どんどんエネルギー蓄えちゃってくれや! ついでに俺の飯もよろぴく!」
エルフに興奮して言葉使いがちょっとおかしくなりかけているシンなのであった。
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