1年と89日目「ふー、今日も書けそうにないわね」

「ふー、今日も書けそうにないわね」


そう言いながら、ベッドの上で僕にしがみ付きながら紗奈はそう言った。

今日は朝から離してくれない。


まあ、引っ付かれると用事でもない限り、剥がしたりしないけれど。


「おつかれ?」

「エネルギーは颯太から吸収してるから違うわね。

多分、キツイシーンだからかな」


ほほう。

憑依型の書き方だと言ってたね。


そう言って紗奈は設定のメモ書きをスマホで見せてくれる。


「ここはこうなって、こうなるでしょ?

だからここがこうなる訳だけど……ここの言い回し一つで作品自体が崩壊することもあると思うの」


「はー、設定で流れが決まってても、会話の言い回しで変わるってことだよね?」


「うん、読んでる時は気にならないけれど。


それはつまり気にならないように書いているのであって。

気をつけてはいるけど、言い回しを間違えてると書いてる側は分からなくても、読んでる側には違和感が分かるから。


中盤も終わってくると世界観も伝わった後だから、おかしな部分って余計に伝わるのよね。

それがシリアスなシーンだと全部をダメにする。

だから疲れるの〜!」


紗奈は両手両足を投げ出し、脱力する。

なるほどねぇ〜。


「……それに応援もその肝心なシーンの前って、何というか前置きだから読んでくれる人も減るのよ。

見て。公爵の話、完結した詐欺師の話の半分のPVになってる。

作品フォロワーは公爵の方が2.5倍は居るはずなのに」


紗奈はウダウダと手足をバタバタさせる。


「まー……仕方ないんじゃない?

流れもあるし、ツイッターとかもやってないから宣伝が出来る訳でもないし」


ぶーと僕の枕に口を押しつけて不満の声をあげる。


「……ちょっと考えすぎて眠くなってきたわ。

颯太添い寝」


「添い寝も何もすでに隣に居るけど?」

そうじゃなくてぇ〜と紗奈は僕の首に腕を回して口を重ねてくる。


もきゅもきゅもきゅもきゅ。


口を離した後も、数回唇を重ねてくる。

「……慰めろ、と言ってんの」

要するに紗奈は甘えてきているということだった。


「了解、お姫様」

「なんか扱いが雑……ふんっぐっ」


もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ……。

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