155日目「面白いファンタジー小説を読んだわ。」
「面白いファンタジー小説を読んだわ。」
いつものように寝る準備を整えて、紗奈はスマホと枕を持って僕の部屋を訪れ、僕のベッドに座りこちらを見ながらそう言った。
その様子はチラリと見ただけでもウキウキしているのが見て取れる。
僕は机の上を片付けながら、紗奈に尋ねる。
「ご機嫌だね?
何が良かったんだい?」
紗奈はぱむぱむと自分の隣を叩く。
はいはい。
紗奈の隣に座ると、紗奈は僕の手を握り、こてっと僕の肩に頭を乗せる。
「私ね。
納得いかなかったの。
テンプレが面白くないと感じてしまう『自分』が居たの。
でも違ったの。
本当の面白い作品は羽ばたくの。
テンプレが関係ないとかではないの。
その展開が熱いの!
それはスパイスで、そこから素材そのものが輝き、そして至高の料理へと発展していくの。
ナ◯シ◯で言うなら、『汚れていたのは』おっと、そこまでの話じゃないわ。」
「そうだね、そこまでいくとズレていくね。
言いたいことは分かるよ。
面白い話は本当に面白い。
言葉が、世界が、そこで生きる人が、生きている。
それこそが小説の面白さだと僕も思うよ。」
紗奈は興奮し過ぎていたらしい。
ほふーと息を吐いている。
「私もそんな話が書きたいわ。
とりあえず、テンプレで書いた小説の『勇者に幼馴染を奪われた。器用貧乏な俺はスキルのおかげで底辺から最強に至る。』のタゴサークとネトラーレをサークとラーレとまともな名前に変えるわ。」
あれって、紗奈の中でテンプレなんだ、、、と思ったけど、敢えてツッコまない。
「紗奈の思うように試したら良いと思うけど、紗奈、もう一つ、毎日書いてなかった?それ書き終わった?」
紗奈はあからさまに目を逸らす。
「ストーリーもラストへの道も出来てるの、、、。
でも、ラストに向け全力を出し尽くすにはエネルギーがいるの。
エネルギーが貯まるまで待ってるの。
でも、そうすると別の話が書きたくなるの。
、、、私、勢いで書くタイプだから立ち止まると書けなくなるの。」
書かなければいけない段階になると別の話が書きたくなるということらしい。
人はそういうものかもしれない。
僕も勉強しないといけない時ほど、出来なくなる時がある。
「そっか。まあ、僕は紗奈の1番のファンだからさ。
紗奈が楽しんで書いてくれるのが1番かな。」
紗奈の頭を優しく撫でる。
「ふ、颯太ぁ〜。」
紗奈は僕を押し倒そうと、えいえいと押してくる。
はいはいと僕は紗奈を抱き締めながら、後ろにゆっくり倒れる。
「えへへー。」
紗奈は天真爛漫に笑った後、微笑む。
その微笑みは僕には妖艶に見えた。
紗奈の手を軽く引くと紗奈は、フッと笑い、横に流れた髪を耳に掛けながら、僕に口付けをする。
そこから僕らはそのまま口を重ねていく。
もきゅもきゅもきゅもきゅ、、、。
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