103日目「アンタなんか嫌いよ!」

「アンタなんか嫌いよ!」


僕のベッドの上で、寝転がって足をバタバタして、スマホで小説を読んでいた紗奈さなは、突然、身体を起こしそう言った。


僕はペンを持った状態で振り返り、尋ねる。


「ツンデレネタ再開?」

「ん〜。」


それには答えず、紗奈は立ち上がり、腕組みしながらウロウロ。

僕のそばまで来ると、上から口を重ねてきた。

もきゅもきゅ。


「ん〜。」

まだ悩みながら、そのまま僕の部屋を出ていく。

隣の部屋でガサゴソしている音がする。


何か紙を持って帰って来た。

「ここに名前書いて?黒ペンで。」

紗奈が差し出した紙には『婚姻届』の文字。


、、、まぁ。

僕は特に動きを止めることなく、自分の名前を書く。

「住所も書いておこうか?」

「ううん、まだいい。必要ならこちらでも書けるし。」


成る程。


「はい。」

紙を紗奈に渡す。

「うん。」


頷いて、紗奈はそれを持って、また部屋を出る。

隣の部屋でガタガタ。

どこに保管してるの?


そして、また僕の部屋に戻り僕のそばに立ち、上から顔を近づけ口を重ねる。

もきゅもきゅ。


ご馳走様とでも言うように、紗奈はペロっと自分の唇を舐め、ようやく僕のベッドに座り直しこちらを見て言った。


「アンタなんか嫌いよ!」


ちなみに僕はその間、ペンを持ったまま動いていない。


「分かってるかしら?

別に私はアンタなんて、好きじゃないんだからね?」


「ここまでされた後で、僕はどう反応したらいい?」


紗奈はう〜んと、天井を見上げる。

そして、思いついたように言った。

「勘違いせずに、でも勘違いしてジレジレを楽しむのよ。」

「ジレジレ?」

「そう、ジレジレ。両片想いなのに、相手は別の人が好きなのかも?と思って、恋に苦しむの。

でも両想いだから、他の人のところに行っちゃダメよ?」

「誰が?」

「私たちが。」


、、、どうやって?


「ネット小説にそういうがあったの?」

「あったし、多いよね?勘違いジレジレ系。

大好きなジャンルなんだけど、あれって結末出るまでどうなるか分からなくて怖いのよね。」


ああ、なんとなくは分かるな。


「ネット小説は完結した状態で、投稿されるのは少ないからね。


両片想いがいずれ成就されると思って、ジレジレを楽しんでたら違う展開になって、それじゃない感というのかな?そういう事が起こることがあるから、ちょっと怖いよね。

僕も結構好きなジャンルなんだけど。


特に一時期流行ったザマァ展開や寝取り展開は、そのジレジレを匂わせて落として来る危険なものが多かったから、トラウマになりそうだよね。」


うんうん、と紗奈は頷く。


「そうね。だから検証も兼ねて、颯太と両片想いやってみようと思って。

でも万が一、本当に誤解されたら泣いちゃうから、人質(?)とっておこうと思って。」


『婚姻届』を相手がサインした時点で、ジレジレは致命的なほどに終わっているよね?


、、、まあ、そう言うなら。

「僕は別に紗奈のことを好きじゃないよ。」

「、、、え。」

絶望的な顔をして、泣きそうな顔をする紗奈。


僕は紗奈の隣に座り、包むように抱きしめる。

「はいはい、ジレジレじゃなかったの?そんな顔しない。ちゃんと大好きだからね。」

「ほんと、ほんとに?」

「ほんとほんと。『婚姻届』人質(?)にとってるんじゃないの?」


「好きじゃなくても、結婚出来るもの。」

じゃあ、人質(?)の役目果たしてないよね?

ヨシヨシと頭を撫でる。


「でも、でも好きじゃなくても良いから、せめて結婚してもらえたらって、でもやっぱり。」


「はいはい。とりあえず、好きだと分からせてあげよう。」

顔をこちらに向けさせ、紗奈の口を口で塞いだ。

もっきゅもっきゅ、、、。

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