ある怒りの記憶

いつの間にか爪がくい込むほど

握りしめていた掌に気づいた時に

喉に詰まったようなこの感情が

怒りというものだったと知った


黙っていることは

平気だからじゃない

何も言わないことで

許した訳でもない


ただ

わたしの世界から

その人の存在を永遠に追放した

静かな完全なる拒絶


わたしの世界はわたしのものだから

それくらいの傲慢は許されるだろう


この価値すらない怒りを手放そうと思った

これ以上、ここに囚われないように


わたしの人生をまた歩き出すために




──これはずっと昔、ある怒りの記憶の話。

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