泣いていいから
彼はずっと泣かなかった
闘病生活を支えている間も
ホスピスの病院に通っている時も
そして彼の愛する祖父が
大きな息をひとつ吐いてから
その呼吸を止めた時も
通夜や葬式が終わり
山の家に帰りついた時も
彼はひっそりと静かだった
それでもそれが
深すぎる悲しみを内包したものだと
わかっているからわたしは心配だった
大晦日の夜に
わたしと息子たち、それぞれに想い出話
一度言い出したら聞かなくて頑固で不器用
それでも
ばあちゃんを愛しぬいて
家族を愛し続けた”じいちゃん”の話
彼が、ぽつりと言った
ある時、二人きりになった病室で
「おまえで良かった。一緒に暮らして側にいてくれてありがとう」
じいちゃんが言ってくれたのだと
それが嬉しかったと
不肖の孫で心配ばかりかけていたのに……と
真夜中の部屋で泣いている彼
男の子から一人の男になったんだね
声はかけないでいくよ
ねぇ、泣いていいから
大人になるとなかなか泣けなくなるけど
今は思い切り泣いていいから
泣いていいから
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