第45話 尾行の先に

「……」


 俺はシェイクジョーさんと大勢の騎士の後を尾けていた。

 数多くの疑問が頭の中に残っていたが、やはり本人、またはその周りを観察するのが早いと考えたからだ。

 

「もうそろそろ王宮だな」


 俺は民家の屋根から屋根へ飛び移りながら、バレないように慎重に追っていく。

 無論、気配は完全に消しているので、レイカさんを見ていた時のような油断さえしなければ俺がバレることはないだろう。


「……」


 ここまで動きはない……となれば、こちらから行動を起こすしかなさそうか?


 シェイクジョーさんが一人になってくれれば楽なのだが、騎士団長が単独で行動することなど中々なさそうだな。

 

「私は少し用事があるから席を外す。ダーリッシュ、お前は私の代わりに外部訓練が無事に終了した旨を国王様に報告してくれ。その後の内部訓練の指揮も頼む。わかったか?」


 俺が地上に降りようとしたその時だった。

 シェイクジョーさんは王宮の入り口から残り数十メートルのところですぐ後ろに控えていた一人の騎士に一つ声をかけると、途端に列から外れた。


「……やっと一人になったか」


 シェイクジョーさんは大勢の騎士が全員王宮に入っていったことを見届けると、王宮の裏手に向かって一人で歩いて行った。

 時折、背中の大剣を気にする仕草を見せており、これから訪れる何かに構えているようにも見えた。


「どこに行くんだ……?」


 俺は人気がないことを確認してから地上に降りて、シェイクジョーさんの後ろを尾けていた。

 腰を若干低くして足元に生い茂った草木の上を慎重に歩いていく。

 シェイクジョーさんは俺の存在に全く気がついていないのか、強く地面を踏みしめてどこかへ向かっていく。


「あれは……」


 数分ほど歩いただろうか。

 やがてシェイクジョーさんが立ち止まったのは、王宮の真裏にある一つの大きな木の前だったが、そこには既に先客がいた。


「フリードリーフか?」


 そこにいたのは木陰にいてもわかるぐらいに輝く金色の鎧を装備した男——フリードリーフだった。

 どうやらシェイクジョーさんはフリードリーフと待ち合わせをしていたらしい。


 両者の姿を確認した俺は、すぐにそばにあった茂みに身を潜め、隙間から目を凝らして様子を伺うことにした。


「フリードリーフさん。私をここに呼び出して何の用ですか? これから我々の部隊が内部訓練を行うというのはご存知のはずですよね」


 シェイクジョーさんは木に体を預けながら腕を組むフリードリーフに向かって言った。

 その言葉は最もだが、まさかこの二人がいきなり対面するなんて思わなかったな。


「わかっている。だが、そんな些細なことはいいだろう?」


 フリードリーフはそんな言葉など気にも留めずにあしらうと閉じていた目を軽く開き、夕焼けに照らされるシェイクジョーさんの姿を鋭い眼光で睨みつけていた。


「そうですか。では何用で? 今朝方にいきなり呼び出されるものですから驚きましたよ」


「惚けなくてもいい。もうわかっているのだろう? 素直に言ったらどうだ?」


 フリードリーフさんは木陰から出ると、シェイクジョーさんの元へゆっくりと歩みを進めた。

 確信めいたその言い方は、まるで悪人を問い詰めているかのように感じる。 


「……」


 シェイクジョーさんの表情はこちらからは見えないが、佇まいに変化はないことから大きな動揺はしていないことがわかる。


「沈黙か……まあいい。既に我々の部隊は例の湖を見張っているからな。貴様は少しでも怪しい動きを見せたら終わりだと思え」


 フリードリーフは呆れと怒りが混ざったような言葉を言い残すと、シェイクジョーさんの返事を待たずにその場から立ち去った。

 口調こそ静かだったがそこには確かな意志と力を感じたので、かなり情熱的で熱い男なのかもしれない。

 冷静でクールな雰囲気があるシェイクジョーさんとは真逆だな。


「……」


 フリードリーフが立ち去ってから、シェイクジョーさんは一人でその場に無言で立ち尽くしていた。

 その背中は何かを考えているようにも見えたが、真意はわからない。


「……いくか」


 これはサシで接触するチャンスだ。

 俺は軽く息を吐いてから茂みからゆっくりと姿を現すのと同時に、徐々に気配を漏らしていった。


「っ! 何者だ!」  


 シェイクジョーさんは流石は騎士団長というようなスピードで大剣を抜くと、グッと目を細めて俺のことを睨んだ。


「初めまして。少しお話しでもしませんか?」


 対して、俺は敵意を一切無くしてから声をかけた。

 フレンドリーに穏便に平和的に、それでいて素直に話を持ちかけた。

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